5.ぼくが成仏できない理由、の話(後半)
……親の前で嘘つくのがどんどんしんどくなってきて、結局帰るのやめちゃったわ。だからぼく、大人になってから親とまともに話した記憶がほとんどないのよね……》
タダクニは自分のことを思い返した。
タダクニの実家は愛媛にある。
お盆休みや年末年始、そういう大型連休には基本的に帰省するようにしている。
ただ、帰ってすることは、地元の仲間と会うばかりで実家でゆっくりしている時間は少ない。
そんなだから親と話す時間などほとんどない。
そりゃもちろん、久しぶりに顔を合わせるんだから少しは言葉を交わす。
仕事は順調なの、特に変わらないよ、身体の調子はどう、元気だよ、そっちこそもう歳なんだから無理すんなよ、くらいのやり取りはある。
あるが、逆に言えばそれだけだ。およそ会話と呼べるほどのものじゃない。
ましてやヤナギさんの言うような大人の会話なんて、ほとんど記憶にない。
「じゃあ、成仏できない理由っていうのは、その大人の会話……」
《うん、それもあるんだけど。それよりも、本当の自分のことを話せなかったっていうのが心残りなのよ。ぼくね、今度、自分の店を出すことが決まってたの。そしたら腹が据わったっていうのかな、ふっ切れたのよね。それまで親には後ろめたい気持ちがあったけど、今なら全てを話せるような気がするっていうか。とにかく、覚悟ができたのよ。親が理解しようがしまいが、どっちでもよかったわ。とりあえずカミングアウトしようって決めたの。胸に引っかかってる罪悪感を取っ払って、ここからがホントの意味でぼくの第二の人生のスタートなんだって。そう思ったわ》
「そしたら交通事故。死んじゃった……」
《なんであんたが言っちゃうのよ。ぼくに言わせなさいよ。でも、その通り。第二の人生の幕が開けたと思ったら、それは死後の世界でした、なんてあまりにもマヌケじゃない? 笑っちゃうわよね》
笑えない。
ヤナギさんは明るい口調だったが、言葉が見つからなかった。「人生、いつどこで何が起こるかわからないんだから」さっきのヤナギさんの言葉が頭の中をぐるぐる回っていた。
《だからね、ぼくを両親の所に連れてって欲しいの。全てを伝えるために》
「ていうか……自分で飛んでいけばいいじゃない。幽霊なんだし。そのほうがよっぽど早いでしょ」
《出た、その考え。それができたら頼んでないわよ。幽霊ってね、なってみてわかったけど、意外と無力よ。ほとんど何もできない。貞子みたいにテレビから這い出てくるなんて、できたら神よ、神。実際は移動すらロクにできない。ぼくは千明ちゃんに憑いてるから、この子と一緒じゃないと移動できないのよ。ね、だから協力してくれるでしょう》
面倒くさっ。
今会ったばかりの、どこの誰かもわからない人(幽霊だが)の頼みを聞いてあげる理由や義理はどこにもない。
「もし断わったら?」
《え、ダメなの?》
「いや、一応、訊いておこうと思って。断ったらどうなるの」
《そうね……》
ヤナギさんが人差し指を唇に押し当てて、しばらく考える素振りを見せる。
そして何か思いついたのか、ニコッと笑った。
《決めた。もし断ったら……》
「断ったら?」
《――呪うわよッ》
き、汚えっ……。
タダクニはベッドで眠る千明をチラッと見て、恐る恐る訊いた。
「どっちを?」
《もちろん二人に決まってるでしょ!》
ヤナギさんはピシャリと言い放った。




