お母さんの薬
村に病気のお母さんとその子が住んでいます。
村には医者がいますが、このお母さんと少年は、母一人子一人で、金銭的に医者の診察を受けることができません。
「お母さん、では行ってきます」
「気を付けるんだよ」
「はい」
少年は、お母さんの病気を治すべく、薬の木の実や薬草を探しに森へ一人で入って行きました。
「一人でこんな森の中で何をしている? 早く家へ帰りなさい。お母さんが待っているんじゃないのかい」
森の番人であるフクロウが少年に話し掛けました。
「お母さんは病気なんです。だから、病気を治すための薬が欲しいんです」
蝶ネクタイをしたフクロウは、じっと少年の目をまばたき一つせず見つめました。
少年は怖かったけれど、このまま言われたとおりに帰るわけにはいかないと、強く思いました。
「どうやら決意は固いようだ」
そう言うと、フクロウは少年の肩にとまりました。
「一緒に探してやろう」
「ありがとう。フクロウさん。おかげで、なんとかやれそうな気がしてきたよ」
「薬はどこにあるか知っているかい?」
「ううん。知らないんだ」
「薬はここから歩いて三キロのところにある。私の家だよ。歩けるかな?」
「しんどいだろうけど、お母さんのためにがんばるよ」
「だが、期限は夜明けまでだ。それまでに結果を出すんだ」
『すぐに結果を出さないと切り捨てる、という風潮』
この森の支配者は、魔女です。魔女が様々な手を使って、この少年の邪魔をしました。少年の前に母の幻が現れました。この母親、実は魔女です。少年をだまそうとしているのです。
魔女は少年の、母への愛を試そうとしました。
「久志、薬はもういらないよ。いい子だから、魔女さんの言うことをよく聞いてね」
「なんでこんなところにお母さんがいるんだろう」
少年は、ごく自然に疑い、これに従いませんでした。
「ちっ、なかなか賢い子だね」
少年は魔女の幻術を克服し、「奥の木」を目指しました。そこにフクロウが持つ薬があるのです。
あと一息というところで、少年は木から落ちてしまいました。
少年は、意識を失っているとき、夢を見ました。夢の中で、魔女との問答が交わされました。
「すぐ手に入るが十日だけ治る薬、手に入れるのは過酷だが一生治る薬。さあ、どっちにする? 選べるのは、一回きりだよ!」
『すぐには役に立たないものが、無駄とは限らない』
少年はすぐに答えを出すことができず、悩み、迷っているうちに、天の声を聞きました。お母さんは死んでしまったという知らせでした。
「そんな! お母さん!」
少年は、お母さんが亡くなってからは、元気がなく、ずっと塞ぎこんでしまっています。
「十日だけでもいいから、元気なお母さんに会いたかった。僕は大馬鹿だ」
そんな少年の姿を見かねた魔女が、少年のことが可哀想になり、行動に出ました。
「仕方ないね! ちょっとぐらい遊んでくれたっていいじゃないか。なんて頑固なんだろう。薬を持っていきな!」
魔女にも善意があったのです。
少年は目を覚ますと、自分の家にいました。どうやらお母さんもまだ生きているようです。少年は安堵しました。しかし、とても苦しそうにしています。
少年は導かれるままにふと庭に出ました。
すると、庭の木に、薬がなっているのを見つけました。少年は庭にできた薬を摘み取って、お母さんのもとへ急いで走って行きました。
お母さんに薬を飲ませると、たちまちお母さんは、病気から回復したのです。少年は思いました。
「今までの冒険は全て夢だったのだろうか?」
そんなことはありません。だって、ちゃんと木に、薬がなっていたのですから。
少年は、奇跡だと思いましたが、夢の中で見た意地悪な魔女に恩を感じました。




