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先輩が髪を切った理由


「春樹くん……これから言うことは、誰にも話さないでね。そして一回しか言わないわよ?」

「もちろんです! 僕と先輩の秘密にします」

「そう……あのね、私。実は……」


 しかし、それから話の続きをなかなか話してくれない。

 顔を真っ赤にして、ずっと身体をもじもじさせている。どうやら恥ずかしいようだ。


「先輩? それで先輩が髪を切った理由って……」

「そ、それは……こがついたからよ……」


 よく聞き取れなかった。


「え? なんですって?」

「だから、”あれ”がついたからよ……」

「あれ? なんのことですか? もっと具体的に話してください」

「だ~か~ら~! 私の髪にウンコがついたから、短く切ったのよっ! はぁはぁ……」


 言い切ったあと、先輩は肩で息をしている。

 この話、冗談で言っているわけじゃないよな?

 しかしどうやったら、先輩の髪にウンコがつくんだ。


「それって、犬とか鳥のフンがついたわけじゃないんですか?」

「違うわよ……髪が長すぎてトイレをしている時に、自分のウンコがついたの!」

「あぁ~ なるほど。たったそれだけのことで、髪を切って文芸部までやめるんですか?」

「春樹くん、それだけって汚いでしょ? 私のウンコがついた髪なんて、誰が触りたいと思うの? だから、汚れた私は退部がお似合いよ。それにこの前話した美容院のカットモデルもやめさせてもらったわ。だってもう私は汚いもの……うう」


 先輩が失恋から落ち込んで長い髪を切ったのだと思ったが、真実は全然違うものだった。

 髪が長すぎてウンコがついて切ったというシンプルな内容だ。

 しかし、目の前で泣き崩れる先輩の姿を見て、僕は決心した。


「姫花先輩! あなたは汚れてなんかいない! むしろその逆だ!」

「春樹くん? 一体なにを言って……」

「先輩は言いましたね。自分の髪にウンコがついたから汚れたと。しかし、僕から言えば、以前の先輩より更に輝いて見えます」

「え? 普通に考えたら汚いでしょ? それがなんで輝いて見えるの?」


 僕はそこから持論を先輩にぶつけてみせる。


「いいですか? 僕は姫花先輩のことが大好きなんです。そんな大好きな人から出たウンコが汚いなんて思えるわけないでしょ? 先輩にとっては汚物かもしれませんが、僕に取っては”黄金”。つまり髪色がゴールデンヘアに進化したのです!」


 いきなり僕が告白したから、先輩は頬を朱色に染める。


「な、何を言うのよ……」


 僕は無視して話を進める。


「ですが、先輩に取ってはとても辛い経験だったのですね。専属の美容師を解約するほど……。もう自分の髪を誰にも触らせたくないんですよね。なら、僕を使ってください!」

「春樹くんを使う? どういうこと?」

「僕が先輩の専属美容師になります! あと4年ほど待っていただけませんか!? 必ず美容師の資格を取ってみせます!」

「春樹くん……あなた、以前は作家になりたいって言ってなかった? その夢はどうするのよ?」

「兼業にすれば良いんですよ」

「じゃあ昼間は美容師をして、夜に小説を書くの?」

「いえ、そんなことはしません。先ほども言った通り、僕は先輩専属の美容師になりますから、資格さえ取ったらあとは誰も切りません」

「ば、バカね……春樹くん。私なんかのために……」


 そう言って、僕の胸に飛び込んでくる姫花先輩。

 僕は優しく先輩の頭を撫でてみる。その際「臭くない?」と言われたが、僕は笑ってこう答えた。


「シャンプーの香りしか、しませんよ」

「こんな汚くなった私をお嫁さんにしてくれるの?」

「何度も言っているじゃないですか。姫花さんはずっと綺麗なままですよ」

「春樹くん、私。何年も待っているわ……」

「ええ。じゃあその間、髪を伸ばしてくれませんか? 僕はあの長い髪型が好きなので」

「うん……あなたのためなら」


  了

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