【肆壱拾】裏山の沢
__今日の神社はとても静か。
ふたりは神社のある山に小さな沢があると町人に聞いて、探しに出かけていた。
「ねえ、もっと奥に川があるって言ってたわよね?」
「うん。町の人に聞いたんだ。
“ここから少し山に入ったところに、小さいけどきれいな沢がある”って。」
神社の裏山の小道をふたり並んで歩く。
夏の陽射しはまだ強いが、
木々の葉が日差しを遮り、空気は心地よい。
やがて、ざあ……という水音が聞こえてきた。
「……わぁっ」
眼下に広がるのは、
澄んだ水がさらさらと流れる細い小川。
大きな岩や苔の生えた木の根元が点在し、
あたりは涼やかな気配に満ちている。
「わーっ!」
「凄いわ! 私入ってみる!!」
「待て待て、神様っぽさ、どこ行った。」
お狐様はすでに草履を脱ぎ捨てて、ぱしゃりと水の中へ。
浅い川底に足をとられて、ふらりとバランスを崩しかける。
「わっ、冷たっ……! きゃはっ、なにこれ最高!」
「……ほんと、自由だな……」
青年もズボンの裾をまくり上げ、
川の中へゆっくりと足を踏み入れる。
ひんやりとした感触が全身に広がり、思わず息をついた。
「ほら見て、魚! 小さいやつ泳いでる!」
「ほんとだ。逃げてるぞ、お前の声で。」
「ちがう、これは“神の来訪に驚いてる”のよ!」
ふたりは小さな滝の前まで行き、
岩場に腰かけて水を手ですくう。
ふと、お狐様がいたずらっぽく笑った。
「えいっ!」
「……っ!? お前、冷たい水かけただろ!」
「ふふふ、神様の“水の術”よ~!」
「やられっぱなしじゃいられんな……」
ふたりの水かけ合戦が始まった。
岩と水しぶき、笑い声と陽射しがまぶしく混ざる。
やがて疲れて岩の上に並んで座ると、
木々の間から差す光が、まるで夏の祝福のようにふたりを包んでいた。
「ねぇ……こういう日、いいわね。」
「ああ。夏らしい、最高の日だ。」
お狐様は、水面に映る空を見ながらぽつり。
「来年も、ここに来ようね。」
「うん。来年も、再来年も。」
沢の岩の上で寝転んで眩しい日差しをたくさん浴びた。
沢には、水の音だけが、ずっと変わらず流れている。
ふたりは疲れるまでたくさん遊んだ。
夏の風と、沢の水が心地よい。
時間を忘れるほどの、とても"夏らしい"ひとときを過ごしたのだった。




