【肆】夕立
__次の日も変わらず青年は参拝に来た。
毎日、同じ時間に神社へ通うようになり
雨の日も、風邪の強い日も、寝癖でボサボサの髪のままで
やって来てはいなり寿司を供えて、静かに手を合わせる。
一方で、
お狐様はというと相変わらず”力”は不安定で――
火の玉を出そうとして落雷を呼んだ日もあった。
「わ、私のせいじゃないわよ!?ちゃんと火の術を出そうとしただけで…!」
「この神社、明日も残ってるよな…?」
でも、青年は驚きこそはするも逃げなかった。
むしろ、そうした「うまくいかないお狐様」の姿を、どこか面白そうに見ていた
その日の夕方、神社の裏手。
ふたりは一緒に夕陽を眺めていた
「…お前、本当に昔はすごい神様だったのか?」
青年が何気なく聞くと、
お狐様は静かに頷いた。
「信仰があった頃は里の皆は、何かある度に私のところにやってきたの。流行り病を鎮めたりとか、干ばつの時に雨を降らせて田を潤したり。」
「あの頃は祈りや信仰もたくさんあったから"力"も有り余ってた。でもね。…皆やがてはここを離れていったわ。」
お狐様は少し言葉につまりながら、覚悟を決めたように口を開く
「忘れられたの。時代も人もどんどん変わっていって…」
その声は風に消えそうにか細かった。
けれど、すぐに口元に笑みを戻して彼女は続けた。
「でもね。ひとりでも忘れずにいてくれたら、私はまた"神様"でいられるのよ。」
青年は黙っていた。
ただその夕焼けの中で、お狐様の横顔をじっと見ていた。
そして、ぽつりと一言。
「じゃあ…俺が覚えててやるよ。」
お狐様は、驚いた様に目を開き、次の瞬間、
夕日に向かって顔を背ける。
「…バカじゃないの‥。」
声が震えていたのは、きっと風のせい。
だけど、
彼女の尾はその日、誰よりも高く跳ねていた。




