【参拾玖】小さな命
「さぁ! 本日の任務は“虫の観察”です!」
__朝の境内。
お狐様は自作の“探検帽”とお手製の虫取り網を手に、張り切っていた。
「……なぁ、本当にやるのか。
お前、前に“虫はちょっと苦手”って言ってたろ。」
「虫は苦手だけど……“夏らしいこと”はやりたいの!」
青年はため息をつきつつも、
ちゃんとポーチの中に虫除けスプレーと虫図鑑を忍ばせていた。
ふたりは神社の裏手の、小さな雑木林に入っていく。
蝉の声、カナブンの羽音、時々蝶やトンボがすっと横切る。
「ほら、あれ。アゲハチョウ。」
「……あっ、きれい……でも、近く来ないでって思ってる、きっと。」
「虫に気持ちを代弁するなよ。」
しばらく進むと、ひときわ大きな鳴き声が聞こえた。
「これ……クマゼミ?」
「うん、鳴き声が特徴的だな。あの木にいるぞ。」
「……あの、観察って、どの距離まで近づけばいいの?」
「見える範囲でいいと思うけど……お前、ほんとにビビってるな。」
「神様でも虫は苦手なのよ!」
青年が小枝でそっと枝を揺らすと、
パッと飛び立つクマゼミ。
「ひゃっ!?」
思わず青年の背中に隠れるお狐様。
青年は笑いながらも、「ほら、もう飛んでったよ」と声をかける。
その後も、
トンボを見て「竜の親戚?」と尋ねたり、
ミンミンゼミの抜け殻を見つけて「これ、持ち帰って神具に……やっぱやめよう」と言ったり、
ひとつひとつの虫に、神様らしい(?)観察と驚きが続く。
午後、神社の縁側に戻ったふたりは、
風鈴の音を聞きながら、今日の出来事をまとめる。
「結論。虫はすごい。でもやっぱりちょっと怖い。」
「よくがんばったよ、神様。」
「ふふ……じゃあご褒美に、麦茶もう一杯!」
彼女は神様のくせに、なんだか子供みたいに満足そうだった。
青年も、その様子に小さく笑いながら、麦茶を差し出した。
【神様の夏にやりたいこと】
すいかを食べる! ✓
夜に花火をする! ✓
かき氷を食べたい(できれば2杯)
浴衣を着る(あなたも!)
夏の虫を観察してみたい(できれば遠くから)✓
金魚すくいをやってみたい
夏の星座を教えてもらう ✓
たくさんの人に参拝に来てもらう
夏祭りを開く(神社で!)
あなたと夏の思い出を、たくさん作る!




