【参拾漆】避暑
__朝から気温はぐんぐんと上がり、
神社の境内には陽炎がゆらゆらと揺れていた。
「……暑い……っ」
本殿の縁側に寝転がるお狐様は、
頬に冷たい手ぬぐいを当てながら、完全にバテていた。
「溶ける……これはもう、神通力も気合も……効かない……」
「神様、弱すぎじゃないか。」
青年が冷たい麦茶を持ってきて差し出すと、
お狐様は半身を起こして、それを一口。
「……しみる……麦茶って、神の飲み物だったのね……」
「神の飲み物は御神酒じゃなかったのか?」
「……暑い日は麦茶に宗旨替えするわ。」
青年は苦笑しながら、うちわでぱたぱたと風を送る。
「ほら、もう少し。風鈴の音、涼しいだろ。」
「うん……でも、君の風の方が好き。」
「……はいはい。」
縁側に並んで座り、
ふたりはただ、蝉の声と風鈴の音に身を任せる。
「君は暑くないの?」
「暑いよ。でも、神様がこんなにぐったりしてたら、俺が倒れるわけにいかないからな。」
「……ふふっ。ちょっと頼もしい。」
「いつもより、ちゃんと神様らしく見えない分、
俺が“守ってる感”あるだろ。」
「ちょっとだけね。……でも、たまにはそれもいいかも。」
お狐様は、そっと青年の肩にもたれかかった。
「涼しくなったら、氷でも買いに行こうか。」
「うん……でももう少しだけ、こうしてたいな……」
風鈴が、かすかに鳴る。
夏の熱が、ゆっくりと夜へと向かっていく静かな午後。
お狐様と青年の夏は、今日も暑く、そしてやさしかった。




