【参拾陸】七夕の夜
「今日は空がよく晴れてるな。」
__青年がそうつぶやいたのは、神社の石段を登りきった夜。
雨の続いた季節がようやく明け、
今夜は星を見るには絶好の夜だった。
昼間の暑さは嘘の様に落ち着いて、少し涼しくなった神社に夏虫の声が心地よく響いている。
境内には、短冊を吊るした笹が一つ。
願いを書いた紙が風に揺れ、さらさらと小さな音を立てている。
「あっ、いらっしゃい。今日は夏の星座を教えてくれるって言ってたわよね?星を見る準備しておいたの。」
お狐様は少し浮かれたような声で言いながら、
青年の隣に座った。
石畳の上に敷いたござの上に、ふたり並んで見上げる夜空。
「まずはあれだな、織姫と彦星──こと座とわし座。
天の川を挟んで、ちょうど向かい合ってる星がそうだよ。」
「ほんとだ……星が、川みたいに流れてる……」
お狐様の目が大きく見開かれる。
神様であっても、星座を学ぶのは青年が初めて。
「これが、天の川……?」
「うん。旧暦の七夕は、天の川がいちばん綺麗に見える時期なんだってさ。」
「じゃあ……今夜だけは、会えてるのね。」
「そういうことになってるな。」
ふたりは黙って、星の流れを見つめた。
境内の灯りは落とされていて、
夜空はどこまでも広がっている。
見上げると、吸い込まれそうな深い闇のなかに、
無数の星々がちらばっていた。
「ねぇ。」
「ん?」
「神様って、願いを聞く側でしょ。
でも、わたしもたまには願ってもいいかな。」
「もちろん。」
お狐様は、ひとつ深呼吸をして、
そっと手を合わせた。
「来年の七夕も──あなたと、星を見ていられますように。」
青年は、その横顔を見つめたまま、
少しだけ遅れて、同じように手を合わせた。
「……俺も、そう願ってる。」
ふたりの願いは音もなく、
そっと天の川に吸い込まれていった。
それはきっと、誰かに見せるものではない、
ふたりだけの星の夜。
短冊が風にゆれる。
夜空が、今日だけはいつもより近くにある気がした。
【神様の夏にやりたいこと】
すいかを食べる! ✓
夜に花火をする! ✓
かき氷を食べたい(できれば2杯)
浴衣を着る(あなたも!)
夏の虫を観察してみたい(できれば遠くから)
金魚すくいをやってみたい
夏の星座を教えてもらう ✓
たくさんの人に参拝に来てもらう
夏祭りを開く(神社で!)
あなたと夏の思い出を、たくさん作る!




