【参拾肆】花火の灯
__その日、夜風はほんの少し涼しく、
昼間の熱を押しのけるように木々を抜けていた。
神社の境内に、控えめな足音が響く。
──青年だった。
手には小さな紙袋。
中からは、ちらりと“花火”の文字がのぞいている。
本殿の灯りがぽうっとともる。
障子がすっと開いて、お狐様が顔をのぞかせた。
「……どうしたの? こんな時間に。」
「……ちょっと、やってみたいことがあってさ。」
青年は少し照れたように紙袋を差し出した。
「線香花火、やるか?」
お狐様の目がぱっと輝いた。
「ほんとに!? やるやるやるっ!」
ふたりは境内の一角──
石段の端、竹垣のそばに小さなバケツを置いて、
その周りにしゃがみこんだ。
夜の神社はしんと静まり返り、
虫の声と、かすかな風の音しか聞こえない。
──ぱちっ。
最初の火花がともる。
「……綺麗。」
「すぐ落ちるけど、いいよな。こういうの。」
お狐様は目を細めて、そっと火を見つめる。
「……ねぇ、これも神様に届くと思う?」
「花火が?」
「うん。“お願い”みたいなものでしょ。
すぐ消えちゃうけど、きらっとしてて、まっすぐで。」
青年は少し考えて、頷いた。
「届くかもな。少なくとも、君には。」
「ふふっ、嬉しい。」
ふたりは次々に火をつけていく。
ねずみ花火がくるくるまわって、
手持ち花火が光の雨を落として、
最後に、線香花火。
──ぽとり。
火の玉が落ちた瞬間、
お狐様がそっとつぶやく。
「ねぇ、また来年もやってくれる?」
「……花火か?」
「ううん。こうして、一緒に夏を過ごすの。」
青年は、少しの沈黙のあと、小さく笑った。
「ああ。来年も、その次も。」
静かな夜の境内に、ふたりの約束がやさしく残った。
【神様の夏にやりたいこと】
すいかを食べる! ✓
夜に花火をする! ✓
かき氷を食べたい(できれば2杯)
浴衣を着る(あなたも!)
夏の虫を観察してみたい(できれば遠くから)
金魚すくいをやってみたい
夏の星座を教えてもらう
たくさんの人に参拝に来てもらう
夏祭りを開く(神社で!)
あなたと夏の思い出を、たくさん作る!




