【参拾弐】西瓜
__朝から陽射しは強く、
空は真っ青で、雲は夏を象徴するとても大きな入道雲。
「……今日も、暑いな。」
青年はそうぼやきながら、
手ぬぐいで額の汗をぬぐい、スイカの入った袋を片手に山道をのぼっていた。
ご近所さんがお裾分けしてくれた大玉のスイカ。
ただひとりで食べるにはあまりにも大きく。
「……持ってくるだけで体力削られるな。」
でも、その重さが、なんだか少し“誰かのためにある夏”を感じさせてくれた。
──神社に着くと、
すでにお狐様は縁側に座り、うちわでぱたぱたと風を送っていた。
「おはよう!今日も空が溶けそう暑さね。」
「はい、スイカ。」
「えっ!」
お狐様は目を輝かせて立ち上がった。
「えっえっ、ほんとに!? 冷やす!? 今すぐ冷やす!?」
「……井戸使うよ。」
「もちろん!」
ふたりは力を合わせて、
大きなスイカを桶に沈め、冷たい井戸水を流し込みながら「あとで割る」話で盛り上がった。
「でもさ、どうやって割るの?」
「目隠しして棒で……神様なら勘でいけるだろ。」
「神様でも、目隠しするとまっすぐ歩けないのないわ!それに、神様の力じゃなくてただの運任せよ!」
ふたりの笑い声が、セミの鳴き声に溶け込んでいく。
そのあと──
冷えたスイカを切って、縁側で並んで食べる。
「甘い……!」
「こういうのが、夏だな。」
「ねぇ青年、わたしね、
“あなたと食べるスイカ”が一番おいしい気がするの。」
「……それ、毎年言うつもりか?」
「毎年言うわよ! だって“夏”がくるたび、
また君とこうやってスイカを食べられるってことだもの!」
青年は小さく笑って、スイカに残った種を見つめる。
「植えたら、育つかな。」
「育ててみる? ふたりで、“夏の種”!」
「植木鉢、あったっけ。」
「任せて、神様がしっかり育てるわ!あなたも毎日水やりするの!」
お狐様の目がまたきらきらと輝く。
「言わないほうが良かったかな…。」
「あ、めんどくさそうにしてる!」
「まぁ、枯らさないようにな。」
「当たり前よ、来年の夏まで育てるわ。」
「来年まで?」
「当然、あなたが毎日来てくれるんだもの。枯れることないわよ。」
「…約束だもんな。」
「うん、これもね。」
夏はまだ始まったばかり。
ふたりの時間も、これからまだまだ“甘くて涼しい”季節に満ちていく。
【神様の夏にやりたいこと】
すいかを食べる! ✓
夜に花火をする!
かき氷を食べたい(できれば2杯)
浴衣を着る(あなたも!)
夏の虫を観察してみたい(できれば遠くから)
金魚すくいをやってみたい
夏の星座を教えてもらう
たくさんの人に参拝に来てもらう
夏祭りを開く(神社で!)
あなたと夏の思い出を、たくさん作る!




