【参拾壱】夏の目次
「あっ、きた!はーやーくー!」
朝、神社にやってきた青年を、
いつもより全力で呼び止めるお狐様の声が響く。
彼女はなにやら巻物のような紙を片手に、
玄関先で正座して待っていた。
「……どうしたんだよ、神様。」
「見て!」
すっと差し出されたその紙には──
太く大きく、
『神様の夏にやりたいこと』
と書かれていた。
「……えっと、これは……」
「ふたりの夏! 神様だって夏を満喫したいのよ!
だからね、思いつく限り“夏っぽいこと”を並べてみたの。」
青年は肩を落としながら、読み始めた。
______________________
【神様の夏にやりたいこと】
すいかを食べる!
夜に花火をする!
かき氷を食べたい(できれば2杯)
浴衣を着る(あなたも!)
夏の虫を観察してみたい(できれば遠くから)
金魚すくいをやってみたい
夏の星座を教えてもらう
たくさんの人に参拝に来てもらう
夏祭りを開く(神社で!)
あなたと夏の思い出を、たくさん作る!
______________________
「なんか最後がズルくないか。」
「ふふっ、いいでしょ? 神様の特権。」
「これは……全部やるのか?」
「もちのろんです!」
「……“金魚すくい”と“かき氷”はどう準備すればいいんだ……」
「人間の知恵、期待してるわ。」
巻物をぴしゃりと閉じるお狐様。
すでに頭の中では、夏祭りの飾りつけや浴衣の模様までイメージできているらしい。
「じゃ、今日はとりあえず、スイカね!」
「早っ!」
「すいか割りもしたいけど、まずは冷やして食べるの。
井戸の水、お願いね♪」
青年はため息をつきつつも、どこか楽しげに井戸へと向かった。
神様の夏は、思いつきと元気でできている。
そして青年の夏は、そんな彼女と一緒にある。
ふたりの“夏らしい日々”が、始まった




