【参】参拝
__次の日の朝。
朝露もまだ乾かない、少し冷えた境内で
お狐様は箒で石畳を掃きながら時より鳥居の横から階段を見つめる…。
「別に、彼がくるのを期待してるわけじゃないけど…来ないと一泡も吹かせられないじゃない。」
むっと頬を膨らませ、納得のいかないような顔をする。顔を振り、目を閉じてすぐにまた開く
そう、期待なんてしていない。でも約束したのだから待ってみているだけ。
昼を過ぎても青年は姿を見せなかった。
鳥居の側に座り、肩を落とす。やっぱり来なかった
「今日はもう…来ないのかな…」
自然と自然が膝へと下がる。
諦めて掃除の続きをしよう。そう思った時…。
狐の嗅覚を刺激する甘い匂いが階段を登る音と共に近づいてくる。
「よっ…神様。」
その声に狐の耳がぴくぴくと動く
昨日も聞いた、素っ気ないけど少し優しい声
背が高くて髪はボサボサ。左手の袋の中にいい匂いをさせながら青年は階段を登ってきた。
「…遅い。」
後を振り返りぴんと尻尾を立てる。
けれどもその尻尾はゆっくりと一周し弧を描いた。
「参拝しにきただけだ。」
ぶっきらぼうなその言葉にお狐様は「ふん」と鼻を鳴らした。
でもその顔はどこか照れくさく狐の耳もぴくぴくと動いている。
青年は何も言わずに境内を歩くと、賽銭を投げ手を合わせる。
その時だった。
お狐様様の周囲にふわりと薄紅色の光が立ち上り、小さな火の玉が自然と灯った
「えっ…?」
慌てて灯った火の玉を両手ですくう。
自分でも驚いたように、手のひらに灯る火を見つめる。
青年は静かに呟く。
「少しは”神様"らしくなってきたじゃないか。」
お狐様は顔を赤らめて、振り返らないまま、ただ一言。
「…当然でしょ。」
その尾は嬉しそうに、くるりと、また弧を描いた。