【弐拾参】雨続く
__数日の雨続き、雨の止むことのない昼過ぎのこと。
「今日も、降ってる。」
お狐様が縁側のすだれを上げて、空を見上げる。
重たい灰色の雲が空一面を覆い、雨はしとしとと、変わらぬ調子で落ちてきていた。
「もう、何日目だったかしら。お日さま、忘れちゃいそう。」
「俺は洗濯物の乾かし方、忘れたかもしれない。」
青年が本殿の廊下に腰かけて、濡れたタオルを火鉢の上にかけながら言う。
「でもさ、なんか……こうしてるのが当たり前になってきたな。」
「当たり前?」
「この雨の音と、お前と、ここで過ごす毎日。」
お狐様は、それを聞いて少し頬をゆるめた。
「あなたって時々、いいこと言うわね。」
「たまにだけどな。」
ふたりは、濡れた空気に沈む神社の中で、
本を読んだり、団子を蒸したり、
箏をつま弾いて遊んだり──
ただ気ままに、それぞれの“好きなこと”をして過ごしていた。
雨の日は、気持ちを少し柔らかくする。
いつもなら気にする沈黙が、今日は心地よい。
どこかで誰かが来る気配もない、ふたりだけの静かな世界。
「ねえ、青年。」
「ん?」
「雨が止んだら、一緒にどこか行きたいわね。」
「たとえば?」
「川辺に咲く花を見に行くの。
この季節、紫陽花だけじゃないのよ。水辺に咲く小さな花、たくさんあるわ。」
「じゃあ、それが晴れの日の予定か。」
「うん。
だから今日は──“晴れた日のための、やさしい準備”。」
青年は何も言わず、少しだけ笑って頷いた。
──今日も、雨は降り続く。
でもふたりは、その雨音のなかで未来の話をしている。
それは、雨の色をした幸せのかたち。
そしてその記憶は、いつか晴れた空の下で──
ふたりの間に、そっと花開く。




