【拾漆】あさざむ日
__今までの暑さが嘘のように、ひやりと肌寒さを感じる日の朝。
お狐様は箒を境内で、日課の掃き掃除をしていた。
「…くしゅっ…。っ…今日はやけに冷えるわね…。」
近頃は朝は真夏日のような日差しをしていたので、
今日もいつものように夏用の巫女服を来ていたが、
…それが裏目にでたらしく。
もふもふのしっぽと耳も今日は少し震えていて
「…やだわ、最近の寒暖差。」
気温に文句をいいながら、箒をすすめていく。
しばらく掃除をしていると、階段の方から登ってくる音が聞こえてくる。
「よ。今日はえらく冷えるな。」
「あなた、冷えるのによく来るわね…。」
「そういう君こそ、掃き掃除してるじゃないか。」
振り返ると何時もの格好をした青年が立っている。
相変わらず、寝癖がついたままで
「こら、ねぐせ。ちゃんとなおしてから来なさい。」
「今日は時間なくてな。」
「今日だけじゃなくて、いつもよ。い つ も。
もう…少し待ってて。」
まったく、と一言、息をはくと、
本殿の方へと歩いていき、少しして、綺麗な櫛をもって青年の前に戻ってくる。
「お、おい。いいって…」
「だめよ!私の信奉者なんだからきちんとしなさい。」
少し嫌そうな顔をする青年を、拝殿前の石階段に座らせて
お狐様はいつも自分の尻尾の毛をなおすときのように、青年の髪をといていく。
「うん、いい感じじゃない。この方が素敵よ?」
「…俺、こういうの苦手。」
「バカいわないの…。身だしなみは基本よ、特に”神様”の前は。」
「ずいぶん、”家庭”的な神様だな。」
「ふふ…親しみがあっていいでしょ。」
「…まぁな。」
目をそらし、嫌そうにしながらも、表情はまんざらでもなさそうで。
ふたりは、その後、日課の境内掃除を進めていく。
こころなしか、今日はいつもより早く終わって、
朝も終わり、お日様が高く上がってくると
寒さは消えて、また汗が出てくる。
「ねぇ、早いけど、お茶にしない?」
「いいな。丁度、お裾分けもってきたんだ。」
「わーい!神様がお休みを許可しま〜す!」
「はい、ありがたく。」
ふたりは顔を見合わせて笑いながら、本殿の縁側に向かって歩いていく。
縁側を吹き抜ける風が暖かくて、麦茶がいつもの何杯も
おいしく感じる。暖かな時間を楽しむ、ふたり。
森の神社には、すでに夏が近づいていた。




