【拾伍】夏朝の風
__照りつける、暑い日差しも、まだ控えめな早朝の神社。
お狐様は神社の手水舎で手を洗って、口をすすぎ、朝の支度をしていた。
「…今日も暑くなりそうね。早めに掃除をしておかないと」
日中はもうすでに真夏日のような暑さになってきていた。境内にある物置小屋行き、いつものように箒を取り出す。もちろん、ふたり分を。
「…あの人、今日も来るわよね。」
尻尾がくるりと弧を描き、口元はまんざらでもなさそうに微笑みを浮かべる。
青年は毎日来て、参拝を済ませた後、神社の掃除をしてくれている。何でも最近、里の長に正式に管理を任された様で、少し忙しそうだ。
「…最近、”力”を見せるって言うより、あの人に会うのが目的になってるわね…私…」
一瞬手が止まり、箒の柄で口元を隠す。
自分で思い出して恥ずかしくなってきたのか、頭から湯気の出るくらいに顔を赤くして
耳をぴんと立て、顔をぶんぶんと横にふる
「そ、そんなわけない。……ただ、人間に…私の威厳を見せたいだけで…」
恥ずかしさで自然と箒の動かす動作が速くなっていく。
そんな時、石階段の方から誰かが静かに上がってくる音が聞こえる。
何時もの音、大きさの足音。
「よ。朝から早いな。」
くるりと全身で振り返ると、そこには笑う何時もの青年の姿があった
「あら、また来たのね。早起きできてえらいじゃない。」
「…また来たのって。ここ最近毎日来てる。」
「…知ってる。でも、こういった方が来るでしょ、明日も。」
青年は口角を少し上げ、そのまま、いつもの参拝を済ませる。賽銭を投げる音、手をたたく音。鈴音を鳴らす。まだ人の居ない神社に様々な音が響く。
お狐様はそんな様子を後ろから眺めていた。
耳はぴくぴくと動き、尻尾は相変わらず廻って。
「さぁ…俺も手伝う。今日も”神様”を見せてくれ」
青年は振り返ってお狐様に笑いかける。
寝癖のついた髪を風が揺らしながら
「ええ!今日も”本物”らしいところ!見せてあげるんだから!」
ふたりは掃除道具をもって仲良く掃除をする。
何気ない朝の事。そんなふたりをみて、笑みを見せるように、太陽はさんさんと輝いて。
ふたりの笑い声を乗せて、夏の風が神社の鳥居を吹き抜けていった。




