【拾参】あの暑い日
__暖かい風が吹き、
すっかり夏の暑さを感じさせるようになった頃。
神社の縁側の日陰で、お狐様と、青年は、
なにやら思い出話をしていて。
「ねぇ、少し前のこと覚えてる?」
「ん…なんだっけ。」
「…ほら、あの時の。あなたが迷信草を抜こうとした時のこと。」
「あぁ…そういえば。」
ぬるい風に吹かれながら、
青年とお狐様は空を見ながら、その時のことを思い出す。
__数日前の事。
その日は、朝から強い日差しが照っていた。
境内の掃除中、青年はふと、本殿の裏に伸びた草を見つけた。
「……これ、なんだ?」
それは細長く、鮮やかな緑で、
一見してただの雑草には見えない。
興味本位で引っこ抜こうとしたそのとき──
「やめなさい、それっ!」
声が響いた瞬間、青年の手首がすんでのところで引き止められた。
「お、おい、何だよ。」
「それ、昔の巫女が祀ってた“迷信草”よ!」
「迷信草?」
「触ると、おなか壊すとか、夢に変な神様が出るとか言われてたの!」
「本当に?」
「知らない! でもそういうことになってるの!」
お狐様は真剣な顔で草を見つめ、
妙に細かく石で囲ってお供えの跡まで再現し始めた。
青年はその様子を見ながら、ふっと肩を揺らした。
「なに笑ってるの?」
「いや……なんか必死で、“らしくない”と思って。」
「わたしは神様よ?」
「うん。でも今日は、ちょっと面白い神様だな。」
お狐様は頬をふくらませて、
「失礼ね」と言いながらも──
そのあと、ぽつりと口をゆるめた。
「……でも、笑ってくれるなら、変な神様でもいいかも。」
「……じゃあ、俺が初めて笑ったのは、お前の功績ってことか。」
「そうね! 信仰ポイント1獲得!」
「そういう制度だったのか。」
ふたりはしばらく、草むらの前で笑い合った。
──それは、初めて「対等に」笑い合った日。
力を持つ神と、力を持たない人。
本来は交わることのない二者が、
ただの「君」と「わたし」として、笑い合えた日。
そんな日が、一度あったことを、
ふたりはきっと長く忘れない。




