【拾】狐火
__春もいよいよ終わりを迎え初夏の到来
を感じさせる、ある日の昼。
花は落ちて、木々は青々と葉をつけている。
お狐様は木の木陰に座り、”力”を扱う為に集中している。
青年もそれに付き合って隣で眺めていた。
「…見てなさい。今日こそ神様らしい所を見せてあげるわ。」
手の平に力を込める。
…手の平の中心が少しずつ熱くなってくるのを感じる。紅色の光が、すこしずつ、すこしずつ。
ゆっくりと集まって小さな狐火に…。
「おぉ…今日は調子いいな。」
「…当たり前じゃない。私はこの神社のお狐様よ?」
耳をぴんと立てて、青年にどうだ、とアピールする
しかし、気を抜いた瞬間に狐火は消え失せてしまう。
「あっ…うそ…」
明らかな失敗に、お狐様は、耳と尻尾をだらりと下げて、しゅんとした顔をする。
「…お狐様ねぇ。」
くすりとひとくちだけ笑うと、青年は振り返って、
賽銭箱に賽銭を投げ入れる。
二礼二拍手一礼。そして、お狐様の為に祈る。
お狐様のもとに、紅橙色の光が集まってきて
優しい狐火が生まれて、辺りをゆっくりと漂う。
「これって…」
「…君のペースでいいんじゃないか?
俺は…君の…君らしいところを、見たくなる。」
「そんな君が、一番”神様”らしい。」
お狐様は目を見開いて、耳をぴくりと動かす。
顔を赤らめ、視線をそらしながらも、尻尾はいつにもまして、すばやく何度も弧を描く。
「…ば、バカ…私は神様なんだから、当然よ。」
視線をゆっくりと、青年の方に向けたあと、
手の中に残る狐火を見つめて。火の光に触れると
暖かくて優しい気持ちになってくる。
「…ありがとう。」
「どういたしまして。」
「凄いでしょ、私。」
「少しだけ見直した。」
「ほんと、バカ。」
ふたりの楽しそうな笑い声が境内に響いて。
夏の匂いのする風が、そんなふたりの間を、そっと吹き抜けた。




