春に感じた恋の味
カチャリ……。
開いていたドアが、春の風で優しく閉まる音。
その音によって、雅晴が去っていく足音は途切れた。
麻衣は一人、玄関前のフローリングに立ち尽くしている。
小さなアパートの狭く薄暗い自室。淡いピンクの家具とぬいぐるみが詰め込まれている。
数ヶ月ぶりに逢えたというのに雅晴は10分といなかった。
雅晴が好きなビール、麻衣が好きな酎ハイを用意していたのに。
連絡を貰ってから毎日楽しみにしてたのに。
なぜ?
雅晴に違和感を覚えた理由はそれだけではない。
誠実な男性だったのに、ひどい嘘ばかり言っていた。
もう、俺につきまとわないでくれ。
俺達は終わったんだ。
奈緒に脅迫メールを送ったのも知っている。
麻衣は再び思う。
なぜ――?
「あっ……。そっか」
一つの結論に至り、思わず声が出た。
ちょっと私達、マンネリ気味だったもんね。
何か刺激が欲しくなったの、雅晴?
私にやきもち焼いて欲しくなったの、雅晴?
「ゴメンね。気づけなくて」
麻衣はゆっくりドアに向かう。
ドアノブを見つめる。
雅晴が握ったドアノブ。
麻衣は腰を曲げ、顔を寄せる。
麻衣は舌を伸ばし、ドアノブを舐め続ける。
――そんなワガママなとこも大好きよ。
ピチャリ……。
ピチャリ……。
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