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89.邂逅

長くなりましたので、最終回を2話に分けます。

本日2話投稿します(これが1話目)。

「ちょ、また学年三位……!」


 アイスローズの隣でイーサンは頭を抱えた。二学期期末テストの結果が張り出されたのだ。

「まあまあ、4回連続……いえ、入試含めて5回連続なんて、やろうとしても出来ないと思うわ。凄いわよ」

 なだめるアイスローズ。なんだかデジャブ感がある。

 ちなみに、アイスローズも入試含め5連続学年二位だ。


「しかし、学年一位が初めてエドガー殿下じゃなくて、ヴィダル・ハリスとは……」

「なんかすいません……」

 イーサンの呟きに、後ろにいたヴィダルが怯えたように小さく言う。今回は彼の得意分野が多く出題されたのだという。


「良かったな、ヴィダル。日頃の成果だ」

「エドガー殿下!」

「エドガー様!」


 エドガーは今回学年四位だった。しかし、それでも信じられないほど凄い。何故なら、彼は一か月休学して事件を追っていた上、二週間入院した直後に受けた試験だったから。


 あの時計塔の時限爆弾は、最後の一本のコードを切ることで止まった。リドリーが確保されるのを見届けてから、エドガーは王城病院へ運ばれて行った。それからは面会謝絶だ。


 つまり、あの日以来、アイスローズは初めてまともにエドガーに会ったことになる。


「日頃の努力なら、俺もしてますよ……まあ、いいでしょう。今回、エドガー殿下には勝てましたからね」

「通算成績では、私の圧勝だがな」


 ふっと笑いながら挑発するエドガーにイーサンは半目になる。なんだかんだエドガーも相当負けず嫌いなのである。とはいえ、二人の間にはいつの間にか、信頼関係が。


 あのコキア畑での出来事に関して、後からわかったことがある。イーサンがあの日アイスローズたちと一緒にいたのは、「エドガーが頼んでいた」から。

 勿論、イーサンがエレーナに御礼をしたかったのは本当だ。

 しかし、ジョシュを通じてイーサンに「アイスローズから、目を離さないで欲しい」と頭を下げて依頼していたのだという。エドガーは王都の空き家の火事で負傷し、王城学園に来れなくなっていた。社交界デビューの新聞記事が出て、念のため、自分に一番近いとされる令嬢アイスローズの周囲を警戒したかった……から。

 エドガーはベゼル領訪問時から、イーサンの実力をよく知っていた。


 エレーナには、コキア畑から回収したテラリウム用ガラスケースと買い直した花茶を無事プレゼントしている。そして、それ以来仲良くなったのか、エレーナとイーサンが話しているところを、たまに見るようになった。

 1月のイーサンの誕生日には、エドガー含めて、みんなでまた楽しいことをしたいと思っている。


 ヴァレンタイン家はリドリーの件を踏まえ、アイスローズに新たに護衛をつけた。王城から紹介された「タスカル」という名の「男装の麗人」の女性だ。ちなみに「アライグマ」顔。素敵な女性で、とても「助かって」いる。

 彼女の名前には、色々な要素が混じっている気がするけれど……上手くやっていけそうだ。


「アイスローズ」

「え、あっ、はい!!」


 エドガーに呼ばれ、いきなり場違いなほど大きな返事をしてしまった。

 エドガーはいつも通り、顔色一つ変えず言った。


「明日の休み、時間はあるだろうか。一緒に行ってみたいところがあるんだ」



✳︎✳︎✳︎



 次の日は、12月には珍しいまるで春のように穏やかな日だった。空気は澄んでいて、青空が綺麗だ。


 アイスローズはどうしても思うところあって、エドガーの行きたいところの前に、パン屋「太陽と麦のかけら」に寄ってもらう。


 フロール王女の記憶があるサラ。今回リドリーのことがあり、彼女は保護されるべき対象にあるのでは、と考えた。

 もっとも、サラは王女の記憶について「アイスローズとの秘密」と言っていた。だからアイスローズからサラにきちんと説明し、彼女の意志でエドガーに話してもらいたいと思ったのだ。


 サラちゃんはエドガーを見た瞬間、目から星が飛ぶほど顔をキラキラさせた。


「すごい! 本当に王子さまいた!」


 そして、スムーズにフロール王女の秘密を打ち明けてくれた。エドガーは最初こそ驚いていたが、真剣に耳を傾けていた。

 話の最後、エドガーは膝をついてサラちゃんの目線に合わせながら言う。


「話してくれて、ありがとう。その大切な思い出は、サラちゃんとアイスローズと私だけの秘密だ。とはいえ、私が言うまでもなく、」


「フロール王女も、そう思っていらっしゃるんですよね」


 言うなり、エドガーは恭しく胸に手を当てる。これは王族が敬意を示すポーズだ。


 サラはーーこれは、アイスローズの考え過ぎかもしれないがーー……ほんの一瞬だけ懐かしそうな表情かおをした。

 それから確かに、「ゆびきりげんまん」をして。

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