66.呪いのヴァンパイア・ガーネット②
真相は、ノーマンの過去の悪事にある。
彼は約25年前、デービットという男とともに異国の地で建設業をしていた。ある日、名もない川の砂山から巨大なガーネットを発見する。デービットはその歴史的価値から然るべき機関へ報告すべきというが、ノーマンはガーネットを独り占めし、デービットを事故に見せかけて殺した。これを機に、大金持ちになるために。
デービットには妻子がいたが、ノーマンはその妻・へレネに目をつけていた。夫を失い途方に暮れるへレネに、ノーマンは慰めながら巧みに近付き、やがて二人は結婚。ヘレネの息子ーーマンディも連れてエレミア王国に戻り、商売で成功し富豪となったのだ。
ノーマンは酔っ払う度、義理の息子に辛くあたったが、それでもマンディは心優しい青年に育った。かわいい妹・ウェンズディが生まれ、それはマンディの慰めにもなった。
しかしマンディ20歳の頃、ひどく悪酔いをしていたノーマンは彼にとんでもないことを言い放ったのだ。
『あの女は……へレネは、自分可愛さに誰にでも身体を許す、尻軽女だ。お前の父親は異国で捨てられた』と。
勿論事実は違い、へレネは心からデービットを愛していた。遠い異国に一人残され、更には幼い子供も連れていて、ノーマンについて行く以外、当時の彼女にどうしようもなかったのだ。
マンディが大学を中退してまで父親の仕事を手伝うことにしたのは、へレネを守るため。ノーマンの言いなりになれば、少なくともへレネに不利益を与えないと約束されたからだ。
ところが、蓋を開ければノーマンがやっていたのは、どれもこれも法律スレスレな商売ばかり。取り引きは人目が少ない夜を選んだ。事業を真っ当に戻そうとするほど敵が増え、屋敷には何人も近づけないようにした。念のためウェンズディとも距離を取った。
ーーそして運命の日。
ノーマンは金庫に閉まっていた家宝のガーネットを取り出し、懐かしむように眺めていた。そこへマンディが通りかかる。
当時2歳だったマンディは、デービットが殺される場面を目撃していた。だからガーネットを見た瞬間、マンディが奥深くに押し込めていた記憶が蘇った。そして、同時にノーマンへの激しい憎悪も。ノーマンが亡くなる前の、激しい言い争いの理由はこれだ。
マンディは前々からノーマンが実子・ウェンズディのみに全財産を相続させようとしているのを知っていた。
マンディは自分の代で事業を含めた「トレゲニス家の全て」を終わらせるつもりで、弁護士アーデン・ステープルトンを買収し、遺言書を「書き換えさせた」。
大切な妹・ウェンズディには、綺麗な世界で明るい未来を生きてほしかったから。
しかし、サスペンスドラマの如く、そのことでマンディは弁護士アーデンから脅迫される。
アーデンを殺したのは、へレネ・トレゲニス。彼女はマンディからデービットの死の真相を聞き、アーデンの脅迫まで全てを知った。
一方ノーマンの死は、他殺ではなく持病による病死だった。人に弱みを見せないノーマンは、忠実なる医師に決して自分の持病を明かさないよう、依頼していたのだ。
(さあ、どうする。へレネが弁護士を殺すことを止めなければ。そのためには、マンディが弁護士アーデンに脅迫されること自体、無くさなければならない)
アイスローズは無意識に親指の爪を噛んだ。
ストーリーの時間軸的に、今まさに、マンディは弁護士アーデンから脅迫されているだろう。遺言書の書き換えについて、世間……つまり、ウェンズディにバラす、と。
裏を返せば、マンディがウェンズディに「全てを話せば」、後ろめたいことがあるのは弁護士アーデンだけになる。マンディにとって世間からどう思われるかは重要ではない。自分を悪人にしてまでトレゲニス家を清算したいだけ、ウェンズディを巻き込みたくないだけ、だ。
よって、「遺言書書き換え弁護士」という汚名を被ることになり、バラされて困るのは彼の方だ。
(でも……どうやって? マンディにウェンズディへ話をさせる? しかもウェンズディは何年にも渡って話し合いを試みているけど、全てマンディが拒否しているはず)
椅子の背もたれに寄りかかり、両手の甲で目を塞いだ。
「……ウェンズディが好きなお菓子は、『ウィークエンドシトロン』よ。名前の由来は、週末に大切な人と食べるケーキ、という意味」
ウェンズディは絞首刑を待つ獄中のへレネにこのケーキを差し入れしていた。
レモンの果汁とすりおろした皮が入っているパウンドケーキに、白いグラスアロー(粉砂糖をレモン汁で溶かしたもの)がかかっている。とてもいい香りがして、甘くて……少し酸っぱい。
(いっそ、アーデンにハニートラップ(?)を仕掛けて弱みを握り、脅さないように脅す? いやいや、それこそ犯罪だし、てかアーデンって何歳? 40代? 第一、一筋縄ではいかない用心深い性格でーー)
その日、いくら考えても打開策は浮かばなかった。




