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61.黒いダイヤのジャック事件②

 王城学園大学にはカフェがある。入り口手前はパラソルがあるテラスになっていて、店内は白を基調としたおしゃれで落ち着きあるつくりだ。学内の泉に隣接しているため窓からの景色も綺麗、大学外部の人間も自由に出入りできるようになっている。


 天気のいい昼下がり、窓際のカウンター席は勉強をしている学生たちでまばらに埋まっていた。そのうちの一人……眉毛とまつ毛が濃い学生パリス・ロイロットは声をかけられた。


「隣の席、よろしいですか?」

「……ああ」


 視線を上げた先には、オレンジ色の瞳・真っ直ぐな栗色の髪をボブスタイルをした女性がいた。アンナマリアから借りた色付きコンタクトレンズとカツラで変装したアイスローズだ。

 パリスは貴族令息であり、ヴァレンタイン公爵家の一人娘かつ特徴的な見た目のアイスローズを知っている可能性が高い。だから変装が必要と考えた。


 パリスの真横に座ったアイスローズは、買ったばかりのコーヒーをテーブルに置き、おもむろに背負っていた黒筒を開ける。その黒筒――ポスター入れには、今までアイスローズが描いたデッサンやスケッチ、水彩画が複数枚入っていた。それらをこれ見よがしに広げて、手元では新しくイラストを描く――どことなく、トランプに似た絵柄を。


 パリスはこちらをチラリと見ると、途端に信じられないとばかりに固まった。

「君は……」


(かかった!!)


「? はい、何か」

 アイスローズは目をパチクリさせた。「全く貴方なんて意識していませんでしたよ」という返事をする。これもある種、令嬢教育の賜物である。

「あ、失礼した。私は経済学を専攻しているパリス・ロイロットだ。それらの絵は全て君が描いたのか? とても上手いんだな。驚いたよ」

「ありがとうございます、パリス様。私はローズ(偽名)と言います。いつか……『王城展覧会に絵を出展するのが夢』なんです」

「!」

 パリスは何かを考えるよう、素早く口に手を当てた。


(――もう一押しね)


 アイスローズは続ける。

「私はこの春、一人暮らしを始めたばかりで色々と入り用なのですが……作品作りにも時間を当てたくて。何か『絵の技術を活かして、かつ簡単に稼げる仕事』があればいいんですが」

 悩ましげに目を伏せる。


「――あるよ」

 パリスはゆっくりと言った。

「なんなら、私は王城展覧会へのツテも持っている」


「え、パリス様!? 本当ですか?」

 アイスローズは勢いよくテーブルに身を乗り出した。パリスは慌てて人差し指を立てる。

「しぃ! ただし、その前に君とゆっくり話をしたい。ローズが推薦に値する人物か……および、私と秘密を共有できる人物か判断したい」


(ひみつ、ね)


 アイスローズは片眉を上げるが、パリスは気づいていない。


「明日10時にロイロット邸へ君一人で来られるか? 経済学コースの授業は休みだから」

「え、明日……でしょうか?」

「なんだ、予定があるのか? ローズの都合が悪いなら明後日でもよいが」


 パリスに見つめられ、アイスローズはいきなり決断を迫られた。明日は遠足――アイスローズたちがローマン・ラグーンへ行く日だ。


(だけど……、一刻も早くウォルトを助けたい)


「いいえ、明日10時に必ずお伺いしますわ」


 アイスローズは決まりね、とばかりにコーヒーのカップを乾杯のように傾ける。それから一気に飲み干して、始まったばかりの計画に気合いを入れた。

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