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57.植物園にて

5月末の週末。

アイスローズはとある植物園に来ていた。この植物園にはカフェが併設されている。白い壁に三面がガラス張りになっている解放感ある空間だ。天井からは花の鉢がいくつもぶら下がり、シャンデリアのように色とりどりの花々が咲き乱れていた。涼やかなガラスの入れ物の水に、花を浮かべた花手水のインテリアまであった。


「申し訳ありません、私もお誘いいただいて」

ジョシュは頭を下げながら言った。

「スイーツ好きとして王都周辺のカフェは大抵制覇しているのですが、ここはカップル&女子率95%のカフェだったものですから、エドガー殿下が嫌がってしまい。来たことがなかったんですよ。本当に夢のようです!」


熱く語るジョシュの目は、キラッキラに輝いている。その隣にいるエドガーは、お忍びで来ているため、いつかと同じ黒髪碧眼姿だ。最近はエドガーの制服姿ばかりを見ていたせいか、今度は私服にドキドキしてしまう。


「ポニーテール、だ」

「な、何か変だったでしょうか……?」

「いや、よく似合ってる」

アイスローズは髪をゆる巻き一つ結びにし、華やかさを出したつもりだ。

エドガーはニコリと笑った。何だか機嫌が良さそうだ。



 事の発端は数週間前。


「二つ?」

「はい、エドガー殿下からは花束とダンスシューズをいただきましたから、私ももう一つお返しをさせていただきたくて」

 アイスローズは懇願した。


 5月初旬、アイスローズとエドガーは王城の騎士団訓練場で話をしていた。

 エドガーの誕生日は5月だ。ちょうど学園の休日にあたり、誕生日プレゼントをどうやって渡すか悩んでいたところ、たまたま久しぶりにと騎士団訓練場から誘われたのだ。

 アイスローズは散々考えた結果、彼の瞳と同じ色の宝石で作られたカフスボタンを贈った。エドガーは予想以上に喜んでくれ、今年の社交シーズンでつけてくれるという。


 しかし、アイスローズが自分の誕生日にもらったプレゼントは二つだったため、もう一つエドガーに何か贈りたいと思ったのだ。迷った時には本人に聞くのが、一番早い。


「もう既に充分嬉しい」と言うエドガーだったが、やがて閃いたように顔を上げた。

「だったら、バタフライピーのソーダが飲んでみたいかな。前にアイスローズが話していたものだ」

「え、それでいいんですか? あれはそんなに高くないですし、割といつでも行けるお店にあります」

「アイスローズが好きという色を見てみたいから」

 エドガーは愉快そうに、微笑んだ。


(エドガーが望むなら。そして、バタフライピーも好きだけど……私が本当に一番好きな色は、)


アイスローズはエドガーの瞳をそっと見つめたのだった。



✳︎✳︎✳︎



 この日は五月にしては異常気象で暑かった。ヴァレンタイン邸に馬車で迎えに来てもらったものの道中日差しが差し込んでいたので、カフェに着いて早々、目当ての飲み物を注文する。


 ――そのソーダ水はグラスの下半分が紫色、上半分が透明の二層になっていてバニラアイスがのっていた。添えられたさくらんぼの赤がワンポイントだ。

 そこへ、別の小さな入れ物に入っていたレモン汁をゆっくり注いでいくと……上半分からピンクのグラデーションになっていき、最高に可愛らしい。


「なるほど、よく出来ているな。レモンの酸性に反応しているのか」

 エドガーは感心する。ジョシュも興奮冷めやらない。

「バタフライピー自体は、あまり味がしないみたいですね。レモンを入れた後はレモネードに近いです。美しい上にスカッとして堪らないですね」

「ジョシュ様、食レポお上手ですね……!」


 このカフェには他にも、エディブルフラワーと言って食べられる花を使ったスイーツもあった。アイシングクッキーに花を載せたものや、白いムースの上にある透明なゼリーにカラフルな花を閉じ込めたものまで。

 ジョシュはメニュー表から目を離さない。どうやら、他にも挑戦したいものがまだまだあるようだ。エドガーはそんなジョシュを見て苦笑いした。


「アイスローズ、近くの植物園を見てみようか。ジョシュはまだ時間がかかりそうだ」

「エドガー殿下……! いや、神様!」


 あまりにジョシュが嬉しそうなので、アイスローズもここに来て良かったと思う。


(しかも、もうしばらくエドガーと一緒にいられる!!)


 カフェの先にある植物園は、曲線が特徴的なガラス張りの巨大な温室だった。世界中から集められた300種類の熱帯植物が地域ごと展示されており、ジャングルを探検している気持ちになれる。中央には展望台があって、植物を少し高い場所から見ることもできた。

 また、中では小川が流れていて観賞用の生き物が生息していた。スケッチしたらどんなにか、描きごたえがあるだろう。


 植物園から外の敷地に繋がっていたので出ると、そこには何故かサル山があった。餌を投げてあげられるようだ。1グループ一袋とのことで、エドガーはアイスローズに一袋取ってくれた。


 サルたちはアイスローズが餌袋を手にした途端、ガン見してくる。餌をねだって、手をパチパチ叩くもの、身体を左右にゆらゆらしてアピールするものなど、個性に溢れている。


「縄張りがあるんですかね……」

「確かに。自分のテリトリー以外に飛んだ餌は、奪いに行くことはないな」


(完璧王太子エドガーとサル山にいる私。この洋風異世界漫画で。なんだろうこのシチュエーション、シュール過ぎて……)


ジワジワくる笑いに気づかれないよう、アイスローズは無心に餌投げをする。最初は満遍なく投げていたが、やがて一匹のサルに気づいた。


「あの、端っこにいる細身のサルにあげたいんですが」

 アイスローズのコントロールは悪くない。しかし、角度がよくないのか、その細身サルのテリトリーにはなかなか届かない。結果的に手前の大柄なサルにばかり投げてしまう。みんながそうする結果、こんなに体格差がついたのか。


「意外と難しいですね」

「貸して?」

 見かねたのか、エドガーが餌袋を手にする。エドガーがゆっくりと投げた餌は、美しい放物線を描き、見事細身サルが掲げていた手にぴったりと収まった。


「やった! やりましたよ!」


 アイスローズは満面の笑顔で振り返る。

5/4 複数誤字報告いただき、ありがとうございます。助かります!

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