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56.セレスティン・ウィンザーノットの事情②

 二人はテーブルを挟んだソファーに腰掛け、いよいよアフタヌーンティーだ。セレスティンはアフタヌーンティーの内容は勿論、アイスローズのドレス、部屋のインテリアなどを一通り褒めてくれた。


「アイスローズ嬢にもモルガナイトの貴族子息でよかったら紹介できるわ。有力ブルジョア子息っていう手もなくはないけれど」

「ありがとうございます。でも私は」

「あら、やっぱりエドガー殿下推しかしら? エドガー殿下には学園内でお会いしたけれど……。正直、想像以上だったわ」

「!」


「一目で特別だとわかる立ち姿、見通すように真っ直ぐな瞳、他国の公爵令嬢わたしのことも完璧に把握されていた隙のなさ。当然プライドもお高いのかしらと思いきや、意外とさっぱり気さくで。……令嬢ならずとも、好きになるに決まってる」

 セレスティンはティーカップを持ちながら口に綺麗な弧を描いた。

 アイスローズの胸はドクンと波打つ。

「もしや、セレスティン嬢は……」

「大丈夫よ。アイスローズ嬢がいるのにエドガー殿下にアプローチはしないわ」


 あっさりと否定するセレスティン。

 一瞬ホッとするアイスローズだが、セレスティンの続くセリフを聞き、固まった。


「エドガー殿下は国内で王太子妃を見つけるおつもりみたいよ。もう王城側では、目星をつけているのかも知れないわね」

「え、」

「お父様から噂を聞いたの。エドガー殿下も今年16歳でしょ? モルガナイト王国にも少し歳下の王女がいるから、内々にエドガー殿下へお誘いをかけたそうよ。すっごく魅力的で有名な王女よ。でも、断られたって。てっきり、アイスローズ嬢がいるからだと思っていたけれど」


(それは知らなかった……)


 セレスティンの父親は、ウィンザーノット公爵だ。モルガナイト王国では王室にかなり近い立場だから、信憑性はある。

だとしたら、エドガーはエレーナに心を固めたことになる。アイスローズが見ている限りでは、特段二人の関係が進展している様子はなかった。しかし、愛は脇役アイスローズの知らないところで順調に育まれているのだろう。


 思わず、スカートの上で手を握り締める。だけど、ここは友だちとして、かつ何年来の読者として、エドガーたちの明るい未来を喜ぶべきだろう。


(大丈夫、分かっていたことじゃない)


 それは前世から。一瞬、鼻の付け根がツンとしたが、気づかないフリをした。


「それに、私はエレミア王国に嫁ぐ気はないのよ。勿論、とても素敵な国だとは思っているけどね」

「そうなんですか?」

「小さい頃から王族との結婚を夢見て、舞踏会に全てをかけて生きてきたけど……アイスローズ嬢と出会ってから、改めて自分を顧みたの」


「私の一番の望みは、王族に嫁ぐことじゃなかった。無論のこと、キラン殿下は素敵よ。彼の方から直接迫られたら、話は別」

「ははは……」

 アイスローズは苦笑いする。

「だけどね、本当は……『王城の舞踏会自体』が心から好きだったんだと気づいたの。お父様が舞踏会事務局に関わるのをずっと見てきて、無意識に憧れていたのね」


 セレスティンはアイスローズを見つめてはっきりと言った。


「私は舞踏会事務局を継いで、良いところは残しつつ、変えていきたいと思ってる」


「変える?」

「さっき話した5人の出会いのために奔走した時、いかに社交界のルールが理不尽で偏っているか気づいたわ。令嬢だって、もっと自分から想いを伝える機会があってもいいんじゃないかしら? 女性からの告白がはしたないとか言ってる場合じゃない」

「ま、まあ……」

「政略結婚も出来るものなら無くしたいけど、させるんなら尚更、好きな人に気持ちを伝えるくらい許されるべきよ。だから不完全燃焼になって、不倫なんかが蔓延はびこるんだわ」


 血筋を重んじる貴族社会で、女性側が清くあるべきという考えはわかるし、政略結婚をはじめとする家同士のしがらみがあるのも理解する。だけども。


(……私がエドガーに本気で「好き」と言えないのも、これに関係している)


 令嬢からの個人的な告白が実を結ばなかった場合、人に知られれば「醜聞」になりかねない。歴史上、若気の至りで平民へ書いたラブレターが醜聞となり、王女が隣国へ嫁げなかった事件があるくらいだ。

 【婚約破棄殺人事件】のマージョリーの場合、あの時点ではまだセルゲイと婚約していたから、告白に問題はない。


 「王太子少年の事件日和」で悪役令嬢だったアイスローズも、劇中エドガーに散々アピールをしていたが、冗談を除いて直接的な言葉はさすがに使わなかった。


 正規告白ルート(?)を取るならば、内々にヴァレンタイン公爵家から王家へ縁談を持ちかけることになる。しかしそうなれば、ヴァレンタイン家の立場が立場なだけに、王城側も無碍に扱えないだろう。エドガーがエレーナをいくら好きでも、公爵家の力はそれなりにあるのだ。エドガーの意志を無視してまで話が進むと思わないが、王城内にヴァレンタイン公爵家側につくものが出た場合、エレーナの未来の王妃としての足場が盤石でなくなる。アイスローズは二人の障害にはなりたくなかった。


 ――「好き」の二文字が言えない。

 エドガーに気持ちを伝えたら、どんな言葉を返してくれるだろうか。

 断りだとしても、それは物語が終わってもアイスローズの心に残り続けるだろうに。


「もっと男女が自由に関われるイベントがあればいいと思うわ」

 セレスティンは熱を込めて言った。

「婚活だけが人生じゃないけれど、どうせやらなきゃいけないんだったら楽しい方がいい。アイスローズ嬢、なにかアイデアないかしら?」

「え? えーと……謎解き婚活イベント……とか? 協力することで仲良くなれそうですし、何より性格が出そうですね。よくないですか?」


 自分の世界に入り込んでいたから反射的に返事をしてしまったが、意外といいアイデアなのでは? 自画自賛する。


「謎? クイズとかを一緒に解くということ? いいわね、それ! 使えそうだわ」

 セレスティンも同意してくれ、どこから出したか熱心にメモ帳へ書いていく。


「あ、そういえば、元侍女パトラから長イモ掘りにも人の性格がでると聞いたことあります。ガンガン攻めて掘りに行くタイプか、折れないように慎重に進めるタイプか……」

「長イモ掘り婚活イベント! 面白そうね! それもいただいていいかしら!!」

セレスティンは前のめりだ。


(……果たして、令息令嬢が長イモ掘りに来てくれるのか)


 細かいところはさておき、互いに色々なアイデアを出したり、セレスティンの社交界デビューの思い出話を聞いたりして、アフタヌーンティーの時間は楽しく過ぎていった。

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