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45.エピローグ

「今日は本当におめでとう」

「綺麗よ、貴女のウェディングドレス姿を見ることができるなんて」


ヴァレンタイン公爵とアンナマリアの言葉に、アイスローズは誇らしげに頷いた。

アイスローズの隣には、純白のウェディングドレスを着たパトラがいる。季節は3月、今日はクレオとパトラの結婚パーティーである。パトラの首元まで繊細なレースで覆われているドレスは、アイスローズも一緒に選んだものだ。背中側には、小さな白いボタンが一列に並んでいる。女神かと見紛う姿に、アイスローズは自慢しかない。


クレオは眼鏡の奥で優しい目をしており、揃いの白いタキシードを着ている。結婚式の教会でドレス姿のパトラをはじめて見た瞬間、彼は口に手を当てたまま動かなくなり、感動のあまり涙まで流していた。

パトラたっての願いで、結婚式は故郷の小さな教会で行い、披露パーティーはここ、リバーサイドカフェで行うことになった。仰々しいことが嫌いな彼女らしい。


「それにしても、パトラは本当に綺麗だわ」

「ああ、アイスローズも負けていないが」

呟くアイスローズにいつの間にか近くにいたエドガーが調子よく言う。


 エドガーはいつかのガーデンパーティーに似た正装をしており、言うまでもなくとても眩しい。アイスローズは、薄紫のドレスに髪を結い上げ、首と耳もとにはシトリンのアクセサリーが添えられている。お世辞とわかっていてもやぶさかではない。


 エドガーとは、相変わらず騎士団訓練場で会ったり、その後アフタヌーンティーをする仲だ。時折、彼はアイスローズに優しい笑顔を向けてくれる。アンナマリアはいつも「それだけでいいの?」と言うが、アイスローズはこの状況に満足している。


 あの「降霊術しているでしょう」発言の日以来、アイスローズはエドガーが言ってくれた言葉を、何度も噛み締めている。


 ――アイスローズがエドガーを好きなまま生きていられること、エドガーがアイスローズのことを漫画で見たことがないくらい考えてくれたこと(推理が違っていても)が、嬉しくて仕方なかったから。


 アンナマリアはヴァレンタイン公爵を放置して、何やらエドガーに話しかけていたが、エドガーは「今はまだ、いいんです。私が力をつけてから、です」とこちらを見ながらにこやかに言っていた。

何の話だろう、機会があれば二人に聞いてみようかと思う。


 リバーサイドカフェのパーティーは立食形式だ。ビュッフェスタイルになっていて、皆それぞれ、思いのままに楽しんでいる。

 エドガーと一緒に来ていたジョシュは、手元のお皿にスイーツを沢山盛り付け、嬉しそうだ。

「そういえば、エドガー殿下の好きな食べ物は何ですか? いつの間にかプラリネチョコレートから変わっていたみたいで。アイスローズ嬢は顔を見たら、その人の好きな物がわかると言っていましたね」


 アイスローズはここぞとばかり、前世の知識を活かして自信満々に答えた。エドガーもジョシュに名前を呼ばれて何事かとやってくる。

「わかりますわ、エドガー様の好きな食べ物は、(モルガナイト王国でエドモンドからもらった)縞柄の紙に包まれたキャンディでしょう?」

 エドガーはちょっと驚いたように目を見開いたが、しかし、首を振った。

「いや、惜しいな。それも捨てがたいが、今私が一番好きな食べ物は、豚汁だ」

「「豚汁??」」


 【悪役令嬢殺人事件】が落ち着いた頃、エドガーが興味を示していたから、豚汁を作ってふるまったんだっけ。そんなに気に入ってくれたとは。


(しゅ、主人公の公式ファンブックのプロフィールを変えてしまった……)


「確かに、豚汁は美味しかったですね。次回作る時は、私もお手伝いさせてください。料理の経験はあまりないですが、ひよこ鑑定士の資格ならあります」

「ちょっと待て、ジョシュ。いつからそんな資格持っていたんだ。そして全く関係ない」

「あ、そういえば私、マグロ解体できるんですよ」

「アイスローズ? 凄いけど今張り合うところじゃない」


二人とも、もう一度食べてみたいというから、パトラとクリスティーナはじめ船見修道院の皆さんと味噌を仕込んだら、改めてご馳走しようと意気込む。


 余談だが、モルガナイト王国のセレスティン・ウィンザーノット公爵令嬢からは手紙が来ていた。あの舞踏会でのパートナー手配について深い反省・謝罪から始まり、アイスローズのカドリールの踊りに感激した彼女は、エレミア王国へダンス留学をしたく、この度ようやく準備が整ったと。留学の際には、是非アイスローズとお茶をしたいと。……怖いもの見たさで、一度会ってみようと思う。


「お二人とも、お時間です」

 気がつけば、パーティーも盛り上がってきたタイミングだ。

 アイスローズは店員に呼ばれ、カフェ内にあるピアノの前に向かう。エドガーも一緒だ。前々からリクエストがあり、エドガーとウエディングにふさわしい曲を連弾することになっていたのだ。

 リバーサイドカフェの店員にエドガーの正体を知らせた時、彼らがお店の中でひっくり返るほど仰天したのは、忘れられない。


「手が震えてきたわ……!」


 注目を浴びながら、二人で椅子に腰掛ける。さすがのアイスローズも人の一生に一度の舞台、少しばかり緊張していたが、エドガーが隣にいると思えば、上手く出来る予感しかしない。


「ちなみに、ジョシュの話の続きだが、アイスローズが好きなものは何だ?」

エドガーは思い出したように聞いた。


(私が好きな……)


アイスローズは少し考える。

冗談めかしてなら言える気がした。こんなに素晴らしい日は、何だか素直でいたかったから。


「――エドガー様ですかね」

「え、それってどういう」

「さあ、始めましょうか!」


 アイスローズは、鍵盤を奏で始める。滑らかに音階を移動させる手法を難なくこなす。

 赤くなっていたエドガーも、やがてやれやれとタイミングを見計らい、曲の中に入る。右手を負傷していた時の彼の演奏も素晴らしかったが、今日はさらに神がかっている。

 おかげで、周囲からうっとりとした声が上がった。


パトラもクレオの膝の上に座り――クレオが離さないのだろう――、こちらを幸せそうに見ているし、アンナマリアはレオナルド・ヴァレンタイン公爵の側で、得意げに手元で指揮者のマネをしている。


アイスローズは自分が自然と、笑顔になっていることに気づく。

熱いものが込み上げるアイスローズは、そのままエドガーを見上げると、大好きな青緑の瞳が優しく緩んで、視線を返してくれた。


 明日もアイスローズはエドガーと過ごせる。王城学園で合格者を集めた入学準備オリエンテーションがあるからだ。エレーナとヴィダルも一緒に行く約束だから、楽しみでしかない。


大きな窓の外では、よく晴れているのに少しの間キラキラと雪がちらついた。なごり雪が季節の変わりを告げている。

アイスローズには、それがまるで祝福するように舞っていると感じられた。



これにて完結です!

色々至らない拙い文章でしたが、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました! 心より感謝申し上げます。ほぼ毎日更新できたのは、間違いなく皆さまのおかげです。

最後に、感想や下の評価をいただけると大変嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] とてもおもしろかったです。推理小説?のおかげで、展開が楽しみで、目が離せず、1話から最終話まで一気に読まさせていただきました(この作品を知ったのが昨夜でしたので、一気読みができて、とても満足…
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