3.最初の事件③
漫画での事件の真相は、こうだ。
グリーンアップル家の執事・ユースタスは、カーライル家の女使用人からティアラ・カーライルの話を聞き、盗むことを考えた。ユースタスと女使用人は恋仲だった。盗み自体は女使用人にやらせることにしたが、盗難事件後すぐに失踪すれば、当然ユースタスにも疑いがかかる。
折を見て出国するまでの間、「日光に当ててはいけない宝石・金色トパーズ」を身近で安全な場所に保管したかった。カーライル邸の近くにあるため、場合によってはグリーンアップル邸の使用人部屋なども捜査される可能性がある。しかし、高貴な立場にあるグリーンアップル未亡人のプライベートな部屋までは、そう簡単に踏み込まれないだろう。
そんな中、絨毯掃除を頼まれた機に、書斎の床下に隠し場所を作ることを思い立つ。ガーデンパーティーや送迎に労力を割かれ屋敷内の人間が減る王太子訪問後が、逃走とティアラ取り出しの機会だった。侵入時、万が一バーサと遭遇したとき呼び出しベルを鳴らされないよう、タイミングを図り細工した。
ユースタスは自分に盲目的な女使用人を利用しティアラ・カーライルを盗ませ、自分だけ国外逃亡しようとしたのだった。
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「それで、」
エドガーはアイスローズに近づきながら言う。両手をズボンのポケットに突っ込んでおり、随分フランクだ。心なしか、先程までと雰囲気が違う。
「ティアラ・カーライル盗難事件について、何故アイスローズ嬢はグリーンアップル邸と関係あると思った?」
「……今日ここに来る前に、お父様が話していたのです。近隣だから何か関係があるかもと」
「ヴァレンタイン公爵? では書斎に何かあると何故知っていた? インクのシミに注目した理由は? しかも、君は室内に入る前からこれらに注目していた」
矢継ぎ早に質問するエドガー。
ぐっ、と返事に詰まる。庭でのバーサとの会話を聞かれていたようだ。
これじゃあ、まるで。
(まずい、むしろ犯罪に関わっていたと疑われている!?)
「ベル紐を引いたのもワザとだろう」
「!」
「……君は何者なんだ?」
エドガーは立ち止まり、はじめてアイスローズをしっかりと見つめた。
だが、直ぐにエドガーは顔を逸らした。何かに気づいたようだ。顔が若干赤い。
(? 何故、こちらを見ない?)
今日のアイスローズの格好はきちんとしている。わざわざこのガーデンパーティーのためにあつらえた、全てがお気に入りの勝負ドレスを着ている。
(ああ、さっき床の上に倒れた際に、形が崩れてしまったかもしれないけど……)
ドレスの中にはペチコートといって、スカートを膨らませるため布やレースを重ねたアンダースカートを履いている、が。
嫌な予感がし、アイスローズがギギギっと首を後ろに回すと、ぱっと見では気づかない位置のスカートが思いっきり、お尻の辺りまで捲れていた。
(スカートの中、見えている!!)
「ひっ、……!?」
反射的にドレスを直そうとするが、勢いあまった手が呼び出しベル紐にあたり、何がどうなったのか、紐がベルごと落ちて来て。
「っ、アイスローズ嬢!」
室内に鈍い音が響いた。
続けて、ガランガランと床の上を転がる音。
「……?」
しかし、いくら待っても痛みは来ない。そろりと目を開くと、アイスローズのお腹には手が回されていた。エドガーが彼女を後ろから抱きしめるような形で引き寄せていたのだ。金属製のベルは少し離れた床に転がって、無惨にも歪んでしまっている。
「も、申し訳ありません!」
急いで振り返ると、アイスローズのまつ毛とエドガーの頬がぶつかった。
エドガーを金髪碧眼と思っていたが、よく見るとほんの少しクセがある天然無造作ヘアに、濁りのない青緑色の目をしている。
(いつか、全てを見通しそうな目)
直感的に、この人に隠し事はできないと思った。
「あの、ここは推理漫画のせか――うっ!?」
「アイスローズ嬢!?」
そこまで口に出したところで急激に頭が痛くなり、アイスローズは意識を失った。