30.容疑者・王太子少年の再考④
――キラン・ポードレッタイト(19歳)。彼は、モルガナイト王国の第六王子でありながら、「キツネ」と呼ばれる怪盗の正体でもある。目的は、「モルガナイトの星」と呼ばれた巨大ダイヤモンドを盗んだ元メイド、クレマチス・ターナー(25歳)の行方を追うことだ。
ダイヤモンドは分割されて各国へ売却されており、該当すると思われる宝石一つひとつを探り、所有者に購入ルートを聞くことでクレマチスの行方を探っている。その過程で、キランは様々な冒険をする――というサイドストーリーがあった。「王太子探偵という戯れ」に置いて、探偵のエドガーに対しライバルの役割を果たしている。
無理難題を持ちかけ、あえて嫌われ、婚約者を決めないのは、特定の女性を相手にしないため。本当のキランは、クレマチス・ターナーに一途なのである。だから、彼女がダイヤモンドを盗んだとされる真相を知りたいのだ。
(心なしか彼の顔がエドガーに似ているのは、作者が同じだから?)
アイスローズの声が、沈黙を破る。
「……どうもいたしませんわ、キラン殿下。まさか、私がそんなご冗談を本気にするとでも?」
アイスローズは扇子を開き、口の前に掲げた。今のアイスローズには「キツネ」の正体などどうでもよい。彼との話を長引かせ、キランをこの場から動かさなければよい。友好国の公爵令嬢とあっては、彼も邪険にできないはずだ。
キランは珍しいものを見るかのように微笑んだ。
「さあね、それは君のみぞ知ることさ」
つかみどころのないキランの返答に、アイスローズは息を吐いた。
「でも、探しているお方がいるのなら、私でもお役に立てるかもしれません。その方の特徴を伺っても?」
「?」
アイスローズはしゃがみこむ。彼女はキランが言うイメージ通りに、地面の土に拾った枝で絵を描いていく。本当は、特徴なんて言われなくてもわかってる。クレマチス・ターナーの似顔絵を。
「これは……、見事だな」
「ありがとうございます。キラン殿下の説明がお上手だからですわ」
立ち上がるアイスローズに手を貸しながら、キランは感嘆したように言った。彼は描かれた絵に目を細める。
「彼女の肖像画はなく、記憶の中にしかいなかったから。いなくなった後に似顔絵を描かせてもイマイチで、ここまでのものはなかった。最近は彼女の存在自体、夢だったんじゃないかと思うまでになった。馬鹿みたいだろ?」
「でも、こうして久しぶりに見ると、確かにあの人は実在していたんだな」
彼は切なげに笑った。そしてキランはアイスローズの正面に立ち、彼女を紺色の瞳でしっかりと見つめた。
「エレミア王国のアイスローズ・ヴァレンタイン嬢か。一人でダンスし、僕の秘密を見抜き、土に枝切れで絵を描くご令嬢がいるとはな。何故だか、君とは長い付き合いになる気がするよ」
その時。
木々を掻き分ける音がして、数人が乗り込んできた。
「キラン殿下? こんなところにいらしたのですね。」
(――げ)
この声は、リアル・悪役令嬢、セレスティン嬢と取り巻きたちだ。
キランはアイスローズにわざとびっくりしたような顔を見せたが、多分気配で気づいていたのだろう。セレスティンたちは、アイスローズが目に入っていないかのように振る舞い、あきらかに不自然なのだが、キランは普通に挨拶する。
「やあ、セレスティン嬢、久しいね」
アイスローズは、広げた扇子の内側からキランに小声で聞く。
「もしや、彼女らにもあの歌をお試しに?」
「ああ、特にセレスティン嬢はなかなか才能ありだったよ。彼女、ミュージカルの素質があるね」
キランの面白そうな表情に、アイスローズはぐったりする。人の気持ちを何だと思っている。
「さあさ、ダンスホールに戻りましょう。殿下」
セレスティンは甘ったるい声でキランの腕を取る。気がつけば、ダンスホールから賑やかな音楽が流れてきた。次は複数人で踊るカドリールというフォークダンスのような種目だ。
(こうなったら、貴方たちも利用させていただくわ! パートナーの件で邪魔されたから、おあいこよ)
アイスローズにも伊達に悪役令嬢の名があるのではないはず。
「セレスティン嬢、カドリールで私に勝てますか? そしたら殿下をお譲りしてもよくってよ」
「な、舐めないでいただきたいわ、当たり前じゃないですか!」
アイスローズの突然の上から目線な挑発に、乗ってくるセレスティン。
「わあ、楽しそうだね。その間、僕は何していればいいかな?」
「なんで他人事なんですか。キラン殿下も踊るんですよ、まさか殿下が、他国の一令嬢についてこれないなんてあり得ませんわよね」
「言うねえ。僕、嫌いじゃないよ、気の強い子」
「キラン殿下!? アイスローズ嬢なんかより私の踊りを見てくださいませ」
こうしてみんなでダンスをしているうちに、舞踏会のフィナーレを飾る、打ち合げ花火が始まった。
11/23 誤字報告ありがとうございます! 助かります。




