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25.エドガーの諸国外遊

「たいっへんだわ……!!」


アイスローズは王城病院の個室につくなり、顔面蒼白になった。騎士団訓練場からの帰り道、思い出したのである。

エドガーが「縞柄しまがらの紙に包まれたキャンディ」を知ったのは、この【容疑者・王太子少年の再考】という回だ。


 ストーリーは――。

 エドガーが隣国・モルガナイト王国を訪問している最中、同国の機密文書「ブループリント」が紛失した。この王国では「キツネ」と呼ばれる怪盗が出没しており、今回も「キツネ」の仕業と噂された。「キツネ」はエドガーがいる宿に逃げ込んだとされて、たまたま訳があって身分を隠していたエドガーに容疑がかかった。


 そんな中、突如、女性の「助けて!」という悲鳴が上がる。皆の注意がそちらに向かったドサクサにまぎれ、謎の男エドモンド・ウェーバーがエドガーを宿から連れ出す。女性のフリをして悲鳴をあげたのはエドモンドだった。

 エドモンドは、エドガーがエレミア王国の王太子であることに気づいており、かつ自分はエドガーのスクープを狙う新聞記者であると明かした。エドガーは自分のスクープを出さないことを条件に、一緒に「ブループリント」盗難事件の犯人を探すと提案。

 エドガーはエドモンドから奇想天外な情報収集方法を学びながら、推理を進める。


 最終的に、国を裏切っていたモルガナイト国王の親類ヘクター・カッシングが犯人とわかった。事件は解決したと思われたが、ラストシーンのモルガナイト王国第六王子キランの舞踏会が大問題だ。


 城内でエドガーたちに追い詰められたカッシングは、新型銃を取り出し二人に向けた。カッシングは「先に大人のお前から」と言うが、エドモンドは「見くびらないでほしいなあ」と笑う。エドモンドは「その銃は一発ずつしか撃てないことを知っている。例え、俺を撃ったとしても、弾を込めている間にエドガーがカッシングを取り押さえる」と。

 カッシングは一瞬焦りを見せたが、花火の音とともに窓の外を見るや、ニヤリと笑った。彼は銃を握った手を真っ直ぐ右横の窓の外へ向けた。窓の外には、声が届かないくらいの距離に――向かいの建物のバルコニーがあり、舞踏会中のキラン王子がこちらに背を向けて立っていた。

 カッシングはキラン王子を撃つと脅し、エドモンドにエドガーを刺すよう指示。キランが移動してしまったら困るから10数える内に、と。


 エドガーは必死に頭を巡らせるが、エドモンドは「10秒はいらないかな」とカウント5秒でカッシングに飛びかかり、自らを撃たせた。エドモンドは撃たれながらもカッシングを拘束し、エドガーが一撃を加え気絶させた。


 エドガーはエドモンドが「キランを守るため」に命を張ったと理解する。


 エドガーはエドモンドを抱きかかえながら、まだ聞きたいことがある、と言う。この事件は、エドガーが5年前に父親の不倫行為に気づいた手紙に関係している。瀕死のエドモンドが、最後に自分の正体と真実を言って聞かせた……。



✳︎✳︎✳︎



「エドモンドは、エドガーの心なのよね」


 アイスローズはお腹の底から息を吐いた。 

 手に残ったアザを見下ろす。【クレオとパトラ事件】による恐怖はまだ消えていない。


 エドガーはエドモンドとの出会いによって、自分も「たった一人を愛し抜けること」を知る。あれだけ母親を大切にしていた父親が、母親が病気になるや不倫をしたことにより、そんなことは物語の中だけと思っていたから。【容疑者・王太子少年の再考】のストーリー自体は、「エドガーとエレーナの幸せな未来」のために欠かせないのだ。

 アイスローズの心に滲み出た、切なさに似た気持ちは疎外感によるものだけと信じた。


(だけど、いずれにせよこのままではエドモンドは死んでしまうわ)


 道中、エドモンドに徐々に心を許していくエドガーはいい表情をしていた。エドモンドは漫画シリーズの事件で唯一、エドガーの目の前で殺された人だ。「王太子探偵という戯れ」では、エドガーの回想に度々登場し、結果的に深く、彼に爪痕を残している。


(私は無茶は出来ない、かえって周りに迷惑をかけるだけだと学んだから)


 【クレオとパトラ事件】は、アイスローズの介入により絵を消失させ、パトラの絞首刑・オールデイカーの死亡を防ぐことは出来たが、上出来とは言えない顛末だった。


 しかし、今回はキランがベランダに出なければ――キランがベランダに出ることを止めさえ出来れば――その時点でエドガーたちの勝ちだ。


 人の運命とは、些細なことで左右されるのだと改めて思う。


 バーサの事件こそ、何が起きているか確信が持てず勢いで突っ走ってしまったが、ヴィダルやバーサはじめ、それぞれが意志を持って、人生があり、周囲の人たちに影響を与えている。だからこそ、理不尽に命が失われてはならない。


 エドガーに関わることが「悪役令嬢アイスローズ」にとって悪手なのか、まだ、迷う気持ちはある。ただ、今はシンプルに……エドガーの心が削られるところを見たくないと思った。


(……私は悪役令嬢であり、エドガーやエレーナのように身体を張れない。だけど、令嬢だからこそ戦える分野もあるはずよね)


 アイスローズは両手を固く、握りしめた。

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