大学産のひまわり焼酎
台湾から堺県立大学へ留学生としてやってきた王美竜さんは、お酒をこよなく愛する筋金入りの呑兵衛女子なの。
学生街で夜毎に飲み歩いているから呑み屋のお得情報に精通しているし、各地の地酒にも詳しいんだ。
私にとっての美竜さんは、仲良しのゼミ友であると同時に良き飲み仲間でもあるって感じかな。
何しろゼミの女子会だけじゃなくて、海水浴や温泉旅行にだって一緒に行く仲なんだから。
そんな美竜さんが焼酎の一升入り紙パックを抱えて大学生協から出て来たんだから、私は思わず見過ごしそうになっちゃったの。
何せ、余りにも違和感が無さ過ぎたからね。
「えっ…美竜さん、大学生協でお酒なんて売ってるの?」
漸く我に返った私は美竜さんに質問したんだけど、台南出身のゼミ友は至って平然とした様子だったの。
「そうなんだよ、蒲生さん!このヒマワリ焼酎、県立大の新しい名産品なんだ!」
その得意気な口ぶり、「よくぞ聞いてくれました!」って感じだね。
美竜さんの話によると、この焼酎は県立大と民間企業の産学連携事業の賜物で、堺キャンパスで栽培されているヒマワリの種が使われているらしいの。
植物研究室の管轄するヒマワリ畑を活かした、県立大の宣伝になる商品の開発。
その成果というのが、ヒマワリ焼酎って訳。
確かに水産学部の養殖した魚や広告学科のプロデュースした駅弁を目玉にしている大学もある事だし、大学ブランドの地酒も良いPRになりそうだよ。
「学内試飲会で水割をやったけど、ナッツみたいな香ばしさが良い感じなんだよ。試飲で気に入ったし、生協の学割価格で買っちゃった。」
美竜さんも大喜びで試飲したんだろうな。
学内で飲酒する機会なんて、そう無いから。
「成程ねぇ…普通のお酒より愛着が湧いて良いかもね、自分の通う大学が作った地酒って。だけど美竜さんって、意外と愛校心を重んじるタイプだったんだ。」
「それも確かにあるよ、蒲生さん。だけど私としては、ヒマワリの種が原材料って所にも惹かれたんだ。」
焼酎の原材料に惹かれたって?
美竜さんって、そんなにヒマワリの種が好きなのかな?
「何しろ地元の台南じゃ、ピーナッツ感覚でポリポリやってるからね。」
ああ、そういう事ね。
確かに美竜さんの故郷の台湾だと、ヒマワリの種はナッツとしてポピュラーな存在だからね。
ヒマワリの種を肴に飲むヒマワリ焼酎。
それはきっと美竜さんにとって、郷土愛と愛校心の入り混じった奥深い味わいになるんだろうな。