ラジオで「宇宙人が攻めてきた!」なんてニュースやってるけどあり得ないからwwwww
ある日の夜、俺はマンションのリビングで友人と過ごしていた。
BGMのように流しているラジオでは、パーソナリティがリスナーからのメールを読んでいる。その内容に呆れたり笑ったりしながら、時間は過ぎていく。
「暑いな……。悪い、ビール取ってくれるか」
「ああ」
俺は手を伸ばし、台所の冷蔵庫に入ってる缶ビールを二つ取った。
ビールを飲みながら、だらだらと世間話を繰り返す。女気はないが、こういうひと時もまた楽しいものだ。
すると、突然ラジオからこんな声が聞こえてきた。
『番組の途中ですが、ここで緊急ニュースをお伝えします』
「ん?」
緊急ニュースとは穏やかではない。俺も友人も、ラジオに意識を集中させる。
『先ほど、東京都に突如として宇宙人が攻めてきました』
「はぁ?」
思わずこんな声を上げてしまう。
「なんだこのニュース」と俺。
「決まってんだろ。聴いてる人間に対してのドッキリみたいなもんだろ。あと何分かしたらタネ明かしされるはずさ」
笑う友人。
「だよなぁ、宇宙人が攻めてくるって……」
俺も噴き出してしまう。
俺も友人もこんなニュース全く信じていない。あり得ないに決まってるからだ。
しかし、ニュースは続いている。
『宇宙人はゲール星人を名乗っており、東京各地を攻撃しています。次々と建物や施設が破壊されている模様です。恐るべき事態です』
「なんだよ、ゲール星人って。聞いたことないんだけど」
「しかも、東京各地って俺らもヤバイじゃん」
俺も友人もゲラゲラ笑う。
『ただいま、攻撃を受けている地点と中継が繋がりました』
「お?」
『さっそく中継をお送りいたします』
ラジオが宇宙人による攻撃の様子を中継してくれるようだ。
その途端、ラジオから轟音が響いてくる。文字で表現するならドカーンとかズガーンとかになるだろうか。悲鳴も上がっている。たった数秒で何十人、何百人が吹っ飛んでいそうな凄まじい攻撃である。もっともこれが“本当のことならば”の話であるが。
「結構よく出来てるな」と俺。
「ああ、音響の人が頑張ってるんだな」友人も感心している。
『ゲール星人の円盤によるビーム攻撃はまだ続いております!』
「円盤て。一気にウソ臭くなったな。ビーム攻撃ってのも笑っちゃうよ」
「ジョークニュースだろうし、こんなもんだろ」
のんきにビールを飲む俺たち。
その後も壮絶な攻撃の様子が流れ、実況されるが、俺たちは欠片も危機意識を持つことなくビールを飲み続ける。
そして、ついに――
『あっ、ゲール星人の攻撃がこちらにも……うわああああっ!』
悲鳴と轟音。
中継をしていた人もやられたのだろう。気の毒なことだ。どうせ生きてるだろうけど。
「悲鳴がちょっと棒読みだったな」
と俺はダメ出ししておく。
その後もラジオは被害状況を伝えている。
すでに東京23区は壊滅状態、国会議事堂はもちろん、東京タワーやスカイツリーなどといっためぼしい建造物も破壊されたようだ。
友人は笑っている。
「いやー、こんなニュースで『ひい、どうしよう!』なんてなる奴いるのかね」
「そういや昔……こんなことがあったらしい」
俺は資料で読んだ知識を披露することにした。
「今から100年ぐらい前、あるラジオ局が“火星人が攻めてきた”って内容の番組を流したらしいんだよ。そしたらそれがあまりにリアルだったんで、本気にしちゃった連中がパニックを起こして、大騒ぎになったらしい」
「おいおい、みんなピュアすぎるだろ」
「――と思いきや、実際にはそんなパニックはなかったんだ」
「は? どういうこと?」
「警察に問い合わせがあったとかは事実らしいんだけど、パニックなんていえるものはなく、マスコミが『ラジオ番組が元でパニックが起こった』って煽ったことで、みんなそれを信じちゃったってのが真相らしい」
「なんだかややこしい話だな。“火星人が攻めてきた”って内容のラジオ番組でパニックは起きなかったものの、それでパニックが起きたって話はみんな信じちゃったってことか」
「そういうこと」
友人が呆れたように言う。
「ありもしない話をでっちあげたり、信じたり……地球人ってのはホント足並みの揃わない種族だったんだな」
「ああ、だからこそ俺らが攻め込んだ時もろくに連携できず、あっさりと滅ぼされてしまった」
俺たちバド星人は5年ほど前、この地球って惑星に攻め込んだ。
たとえ文明の程度が低くても、一つの種族を滅ぼすのはなかなか容易なことではない。しかし、地球人はまったく連携が取れていなかった。それどころか内輪揉めまで起こす始末。結果的に俺らはいとも簡単に地球の新たな支配者になることができた。
ちなみに、地球の地名や施設、暦、果ては道具や飲食物まで今もそのまま使っているのは、俺たちバド星人の文化である。絶滅させた種族へのせめてもの敬意というわけだ。俺が今住んでいるこのマンションにも元は地球人の住民がいたはずだ。
いつの間にか、ラジオの内容が変わっている。
『――というわけで、ゲール星人が攻め込んできているなどというニュースはジョークでした! 皆さん、楽しんで頂けましたか~?』
緊急ニュース前にメールを読み上げていたパーソナリティの声だ。ゲール星人が攻めてきているなどというのはウソだった。まあ、誰も信じてないだろうが。
「やっぱりジョークだったか。ちょうどいい時間だし、そろそろ寝るか」
「そうだな」
俺も友人もバド星人の特徴である長い触手を大きく伸ばすと、寝る支度を始めた。
完
夏のホラー企画参加作品です。
よろしくお願いします。