【57】依頼
「冒険者ギルド、ですか?」
『万魔殿』からの帰り道、俺は宿に戻るのではなく、冒険者ギルドに用事があることを告げた。
その言葉を聞いて、ルシアが不思議そうに首を傾げる。
多くの冒険者たちは『万魔殿』で手に入れた魔石を冒険者ギルドを通して売却しているが、俺たちは自分で使うために売却していない。
パンデモニウムへやって来てから迷宮へ入るための入場許可証を取得するために一度だけ出向いたが、それ以来顔を出してはいなかった。
今も特に冒険者ギルドに用事があるとは思えなかったのだろう。ルシアが不思議そうにするのも無理はない。
「ああ、ちょっと人を探そうかと思ってな」
疑問を浮かべているのはルシアばかりではなく、リィーンたちも同様だ。そんな彼女らに説明するために、俺は口を開いた。
といっても、本当の理由を告げるわけではない。
ゲームで強かったソルオバのキャラクターを仲間に加えるために冒険者ギルドへ赴くと言っても、意味が分からないだろうし、ただ単にいきなり仲間を増やそうと言っても同じだろうから。
「シュリが必要とする虹魔石が中級だったとしても、必要な下級虹魔石の数は100個になる。それは流石に大変過ぎるからな。臨時で腕の良い冒険者でも雇えれば、もう少し楽に『万魔殿』を回れるんじゃないかと思ってな」
「おお! それは確かに!」
俺が話したのは建前というか、即興で考えた嘘の理由だったが、信憑性はあったらしい。ルシアたちは納得したように頷き、一番の当事者であるシュリは興奮した様子で同意した。どうも、早く自分も限界突破したいらしいな。
俺が一日に『万魔殿』を二周すると告げた時には反対していたくせに、今は賛成派に回っている。なかなかに現金なエルフである。
「そういうことなら、ボクも付いて行きます」
「一緒に行動する人が増えるということなら、わたくしも同行させていただきたいのですが」
「もちろん私も行くぞ!」
ルシアはともかく、リィーンが懸念しているのは妙な輩と行動を共にする可能性に危惧を抱いているからだろうな。
一応、リィーンたちは魔族たちの目に留まらないよう、目立たず行動しているはずだからだ。
シュリはそこら辺の警戒が抜け落ちている気がしないでもないが、一緒に行くというのなら断る理由もない。
「んじゃあ、全員で行くか」
そういうわけで、全員で冒険者ギルドへ向かうことになった。
●◯●
パンデモニウムの冒険者ギルドの中に入る。
時刻は現在、午後二時を少し回ったくらいで、多くの冒険者は仕事をしている最中のはずだが、それでも流石は大都市と言うべきか、こんな中途半端な時間にも拘わらずロビーの中には二十人近くの冒険者たちがいた。
だが、それでもカウンターは空いている。
俺は念のために一階ロビーをぐるりと見渡し、
(流石に見つかるわけねぇか)
そこに求めているソルオバキャラがいないことを確認した。
(さて、どうするか)
ソルオバキャラクターは全員が冒険者という設定だ。それゆえに冒険者ギルドに来れば何か分かるんじゃないかと思ってやって来たわけだが、具体的な案があったわけでもない。
(まあ、ギルドに直接聞くのが一番手っ取り早いよな)
幸い、パンデモニウムで活動してそうなソルオバキャラたちの名前は把握している。そしてSSRランクのキャラならば、実力的に冒険者ギルドで名が売れていてもおかしくない。
例えば指名依頼という形で雇うことにすれば、ギルド側も彼らを紹介してくれるだろう。
「とりあえず、カウンターに行こう」
そう言って適当なカウンターに向かう。
すると、近づいてくる俺たちに気づいたのか、カウンターの向こう側に座っていた受付嬢が顔を上げた。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょう、か……?」
営業スマイルを浮かべて対応した受付嬢へ、さてどのように用件を切り出すかと考え始めたところで、
「――あの、もしかして」
なぜか驚きに表情を塗り替えた受付嬢から、先に問われることになった。
「皆さんは『万魔殿』の六階層以下を探索されているのではありませんか?」
「ん? ああ、まあ、そうだが……?」
それは色々な意味で予想外な質問だった。
なぜそんなことを確認されるのか、理由が分からない。それに、
「なぜ、俺たちが六階層以下を探索していると?」
ギルドが俺たちの到達階層を把握しているのはなぜなのか?
俺たちは『万魔殿』に潜ってからギルドへ来たのは今回が始めてだし、素材の売却や依頼の受付などでギルドカードを提示したこともないから、カードに記録された討伐履歴から到達階層を把握することもできないはずなのだ。
「それは、報告があったんです」
「報告? ……報告されるようなことなんて、何もしちゃいないはずだが……?」
俺は少し用心しながら、受付嬢の反応を窺うように聞いた。
俺たちに関して、もしもギルドに報告されるようなことがあるとすれば、それはリィーンたちと出会った日に魔族と戦ったことだろう。
あれを遠目に見れば、片方が魔族たちとは気づかず、冒険者同士で殺し合いをしているように見えてもおかしくない。
ギルドの規定で冒険者同士の私闘は禁じられているが、例えば誰の目も届かない迷宮や森の奥などで、他の冒険者を襲い金品(どころか、命そのものまでも)を巻き上げる不届きな輩は、残念ながら一定数湧いてくるのが現実だ。
もしも俺たちがその不届きな輩だと疑われているのだとすると、かなり面倒なことになる。
魔族たちの死体はすでに迷宮に「吸収」されているだろうし、疑いを晴らすための物証がない。逆に疑いを証明する物証もないということなのだが。
「ええっとですね、『万魔殿』で主に活動している高位冒険者の方々がいるのですが、その方々が昨日、あなた方を第六階層で見たと報告されまして」
「ああ、なるほど」
と頷きつつも、俺の懸念は拭えない。
「だが、なぜそんなことを報告したんだ、その冒険者たちは」
俺たちが六階層にいたから何だと言うのか。
その疑問の答えは、俺の意表を突くものだった。
「第六階層以降を探索して、生還できる冒険者は貴重なんです。ギルドとしてもそういった実力者の情報は積極的に集めていますから、『万魔殿』に潜る高位冒険者の方々も、新しく六階層以下へ到達した人を見かけると報告してくださいます。……金額は少ないですが、その情報に報酬も払っていますので」
「へぇ」
ギルドが情報を集めているのは分かった。
数組に過ぎないが、六階層以降で別の冒険者パーティーを見かけたこともあるし、遠くで戦っているような音を聞いたこともある。だが、それにしたって、だ。
(たかが六階層へ進んだくらいで、実力者だと?)
「ちょっと聞きたいんだが、六階層へ進むことの何が難しいんだ?」
「それは……」
と、疑問を感じた俺が受付嬢に聞いたところ、少し言葉を濁しつつも教えてくれた。
どうも五階層より先に進める冒険者は少ないのだと言う。その理由は、『万魔殿』の構造上、六階層へ進むということは十階層のグレーターデーモンを討伐しないと迷宮から生還できないという意味でもあり、現状、グレーターデーモンに勝てる冒険者は限られるのだとか。
それゆえに六階層へ進み、なおかつ生還している俺たちのような冒険者は、かなり珍しいらしい。
ゲームでは考えられない攻略の現状に首を傾げたが、つい先ほどリィーンたちと交わした話の内容を思い出して、俺はまさかと思い至った。
この世界の一般的な冒険者の多くがCランク相当の実力しかないのであれば、グレーターデーモンを倒すのに窮しているのも不自然ではない。
ソルオバキャラを抜きにして奴を倒そうすれば、ステータスやスキル以外に戦闘技術そのものを極めるか、高性能な装備品、もしくは優秀な効果を持つスティグマの力を借りなければならないだろう。
ああ、いや――もしかしたら、大人数のパーティーで攻略するというのも、連携が巧みなパーティーならば可能かもしれない。
ともかく、そう考えれば六階層以下へ進める者は確かに稀少なのだろう。
そしてギルドは、そんな稀少な冒険者たちの情報を集めている。
何のためかと考えれば、まあ、理由はいくらでもあるだろうな。六階層以下で手に入る迷宮素材が恒常的に不足気味なのかもしれないし、単に実力者の所在を把握しておけば、いざという時に依頼を出しやすいから、という理由かもしれない。
そんな俺の推測だったが、どうやら当たりだったらしい。
「あの、皆様の実力を見込んで、ギルドから依頼があるのですが……」
受付嬢がそう切り出してきたのだ。
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