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【56】虹魔石の使い道


「ルシア、リィーン、ちょっと聞きたいんだが……」


 俺は常識のありそうなこの二人に、この世界における「R」「SR」「SSR」の区分がどうなっているのかを聞こうと思った。


 といっても、それらを区分するための名称はゲームと同一ではなさそうだ。それゆえに少しばかり迂遠な質問方法になってしまうが。


「俺の理解が間違っていないなら、虹魔石は使った人物の潜在能力を解放する……みたいな効果があるはずだ。一人につき最大で四回まで、この潜在能力の解放は行える。流石にこれは誰でも知ってるよな?」


 俺のこの質問――というより確認に対し、ルシアとリィーンは思わずといったように顔を見合わせていた。現在、リィーンに対して隔意を抱いていそうなルシアがそうするということは、それほどに予想外な質問だったのだろうか。


 どうにも、一般に知られてはいなさそうな雰囲気だ。


 思い返してみれば、ヴァン・ストレンジとしての記憶の中にも虹魔石の存在はあれど、それに関する知識は「幾らで売れるか」「どれくらい貴重か」「魔道具製作に使われることが多いらしい」くらいの、あやふやで偏った知識しかない。


 今まで盗みに入った豪邸から現物を手に入れたこともあるようだが、すぐに売り払っていたしな。


「ええっと、一般的なことを言うなら、虹魔石は魔道具製作に使われますね」


 と、最初に答えてくれたのはルシアだ。


「普通の魔石のように動力源として使われるというよりも、高度な魔道具の核として使用されることが多いみたいです。潜在能力を解放する……というのは、ボクは父から聞いていたので知っていましたが、一般にはあまり知られていないと思います」


「ふむ……」


 ルシアの回答に、そこはかとなく納得する俺がいる。


 考えてみればこの世界の大多数の人々はCランクであるし、俺たちのように魔物と戦うことが多い職業は少数派だろう。普通は戦いとは関係ない職業につき、血眼になってレベル上げや限界突破をする一般人などほとんどいないはずだ。


 それらの人々にとってみれば、虹魔石というのは「高度な魔道具の核(全ての魔道具の核、というわけではない)」に過ぎないという認識であり、これが限界突破の必要素材であると認識している者はかなり少ないのかもしれない。


「確かにヴァン様のおっしゃる通り、虹魔石が人の潜在能力を解放する効果を持っていることは、わたくしも含めて一部の者たちは存じておりますわ。けれど……」


 続けて口を開いたのはリィーンだ。


「まず大前提として、虹魔石で潜在能力を解放できる者というのは、少数派なのです。ここからはリンネの巫女としての見解になりますが……」


 と、一瞬ルシアの方に気遣わしげな視線を向けてから、


「おそらく、潜在能力を解放できる者というのは、神魔大戦の転生者たちや、一際強大な力を持っていた前世を持つ者に限られるのではないでしょうか? その証拠に、虹魔石に籠められた虹色の魔力は、迷宮の魔力――すなわち「再現」の魔力そのものです。虹魔石というのはわたくしたちの前世の力の一端を、その魔力で「再現」しているのかもしれません」


「ああ、なるほどな……」


 ――再現。


 これはソルオバの世界観の根幹に関わる重要な現象であり、力だ。


 特にリィーンの前で突っ込んだ説明をするわけにもいかない話のため、ここで話に触れることは控えよう。今の話に深く関係しているわけでもない。


 ともかく。


 リィーンの見解の通りだとすれば、おそらくこの世界の大多数の人々――Cランクの人々は、そもそも限界突破自体ができない。一方で限界突破できるのは、かつては強大な存在であり現代に転生した者たち……すなわちソルオバでの主人公やガチャキャラクターたちである、と。


 その説明はゲームとしての設定とも矛盾していないので、真実なのではないだろうかと思えた。


「わたくしの力でシュリが大戦の転生者であることは、すでに知っています。ですから、シュリにも虹魔石は使えるはずですが……」


「そうだぞ、ヴァン殿! そうなんだぞ!!」


 リィーンの言葉に勇気を得たように、シュリが勢い込んで何度も頷く。


「いや、シュリが虹魔石を使えることを疑っているわけじゃないぞ」


 俺はそう答えつつ、事情に詳しそうなリィーンに向き直る。


「複数の虹魔石を錬金術で融合できることは知ってるよな?」


「はい。普通の物より巨大かつ強力な虹魔石を必要とする魔道具を作るために、生まれた技術ですね? 普通の物を下級虹魔石として、中級虹魔石と上級虹魔石があると聞いておりますわ」


 意外……でもないのか、ゲームとは虹魔石の呼称の仕方も変わっているようだ。


 だが、虹魔石に等級があることは知られているらしい。


「その下級虹魔石で……ああ、いや」


 説明しかけて、だが俺は途中で言葉を切った。


 シュリは中級虹魔石じゃないと限界突破できないことを説明しようとしたんだが、説明するとなぜそれを知っているのか、ということになる。その理由まで説明するとなると、どう考えてもかなり面倒だ。


 実のところ、俺がこの世界の過去ではない、別世界の前世を持っていることを打ち明けるのには、それほどの抵抗はないのだ。


 普通に転生者が存在するこの世界で、極論すれば異世界からの転生者だから何だという話になる。


 確かに信じがたい話には変わりないが、それだけのことだ。


 しかし、俺の知識を説明するということは、同時にこの世界が俺の前世の世界でどういった扱いになっていたのかを説明しないわけにはいかない。おまけに俺自身にも、この世界が真実、どういった世界なのかは分からないとなれば、説明のしようがないのだ。


 何らかの超常的な力で、ゲームが現実になった世界なのか。


 それとも、これまた超常的な力が働いて、この世界の歴史や未来を垣間見てしまった誰かが、ゲームの設定やストーリーとして使用しただけで、ソシャゲとしての「ソルオバ」とは何の関係もない世界なのか。


 ゲームが先か、この世界が先か。


 それは今の俺に分かることではないし、説明できることでもなかった。


 なので、説明することはすっぱりと諦めて、俺は残る一つの虹魔石を「ほら」とシュリに投げ渡してやった。


「まあ、そんなに言うなら使ってみろ」


「よ、良いのかッ!?」


 難なく虹魔石をキャッチしたシュリが、目を丸くして確認してくるのに、「ああ」と頷く。


 シュリはさっそくとばかりに虹魔石を握り締め、目を閉じて何事か――たぶん「吸収」と――念じていた。


 だが……、


「そ、そんな……」


 いつまで経っても虹魔石を吸収できないことを悟ると、世界の終わりかのように愕然として呟く。


 リィーンの方も目を見開き、「そんなはずは……!」と驚愕しているようだった。


「吸収できないってことは、だ」


 そんな二人に、俺は何でもないことのように告げる。


「シュリの潜在能力を解放するには、中級か上級の虹魔石が必要ってことだろうな」


 ほけーっと俺を見返すシュリに対して、リィーンは俺の言葉に心当たりがあるようだった。ハッとしたようにシュリを振り返り、「そう……そういうことなのね!」と頷く。


「リィーンしゃまぁ……?」


 限界突破できなかったことがショック過ぎてか、呂律の回っていない残念エルフに、リィーンは祝福するように告げる。


「おめでとう、シュリ! あなたが下級虹魔石で潜在能力を解放できなかったということは、下級虹魔石では不足なくらい、潜在能力が大きいということよ! わたくしも先代の巫女から聞いたことがあります。転生者の中でも、さらに人並み外れた潜在能力を持つ者は、中級か上級の虹魔石を使って、ようやく潜在能力を解放することができると」


「ほえ……?」


 シュリは間の抜けた顔で首を傾げ――しかし、徐々にリィーンの言葉が頭に浸透してきたのか、首の角度を戻して爛々と目を輝かせ始めた。


「そ、それは、もしかして……」


 わなわな、と震えながら、


「私には凄まじい潜在能力が秘められている、ということでしょうか? 才能がなくて虹魔石が使えなかったのではなく?」


「ええ、そうよ。そうに違いないわ」


「…………」


 シュリは自らの両手を見た。その瞳はどこか、俺の黒歴史を思い出させてしまうような、歪んだ光を宿していた。


「ふ、ふふ、くふふふふ……ッ!! 私の中には、強大な力が封じられている……!! 分かる。分かるぞ……! 我が身の内で強大な力が今にも弾けんばかりに暴れているのが……! 力を解放せよと内なる私が叫んでいるッ!!」


 そんなわけあるかい。


 今の今まで「才能ないかも」とショックを受けていたのは何処のどいつなのか。


 どの口でそんなこと言ってるの?


 俺とルシアとベルは、白い目をしてシュリを眺めた。


「言わない方が、良かったかしら……?」


 リィーンも残念な子を見るような表情で、困ったとばかりに頬に手を当てていた。


 たぶんこの時、俺たちの心は一つになっていただろう。


 こいつ、学習しねぇなぁ――と。



お読みくださりありがとうございます!

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