表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/61

【55】限界突破は常識なのか否か


 グレーターデーモンを倒した翌日。


 俺たちはまた朝早くから『万魔殿』へ潜っていた。


 というのも、パンデモニウムへやって来たそもそもの目的である虹魔石がまだまだ必要数に達していないのだから、当然だ。


 一から五階層までは駆け抜けるように最短距離を進み、六階層から十階層までは魔石とレベル上げのための魂石を収集しながら、じっくりと各階層の魔物たちを倒していく。


 しかしながら昨日とは違って、今日は最初から大部屋で待ち構えるマンティコアをシュリの【絶影閃】で一撃の下に屠り、ペース良く探索を進めることができた。


 最短距離の道のりとはいかなかったが、迷宮へ入って六時間ほどで、二体目のグレーターデーモンを討伐することに成功した。


 二度目の戦いとなる今回は、シュリも流石に油断するようなこともなく、俺が避けタンクを請け負い、ルシアとシュリが遊撃となって牽制しながら、リィーンが【セイクリッドピュリフィケイション】を放つ時間を稼ぎ、「耐性脆弱」を付与した段階で俺がこれでもかとデバフを重ね掛けする。そこからはダメージもそこそこ通るようになるので、四人全員で攻撃スキルを叩き込むことで、ほぼ一方的な展開のままで戦闘を終えることができた。


 それはデバフを加えるまでの間に、ルシアに加えてシュリもグレーターデーモンを牽制してくれたことで、俺の避けタンクという役割が容易になったからでもある。


 俺の体感としては非常に楽な戦いとなった。


「バッ、馬鹿な……この私が、下等な人間種なんぞにぃ……ッ!!」


「昨日も倒した奴にこんなことを言われると、何だか微妙な気分になってしまうな」


 俺たちの目の前でグレーターデーモンが「信じられない」という悲愴な表情で魔力に還元されていくのを見つめて、シュリが呆れたように呟く。


 今日現れたグレーターデーモンが昨日の個体と完全に同一の存在が「再現」されているのかは知らないが、確かに外見も口調も性格も同じ存在にこんなことを言われれば、シュリが呟く気持ちも分からんでもない。


 実際、ルシアたちもどこか呆れたように消え逝くグレーターデーモンを見つめていた。


 だが、奴からすれば俺たちと戦うのは「初めて」のはずだし、その感想は些か理不尽なのかもしれない。


 ともかく。


 俺たちは床に転がった「虹魔石・小」を回収し、転移陣に乗って一階層の小部屋へと転移した。


 現在の時刻は、おおよそ午後一時から二時の間といったところだろう。


 急げば今日中にもう一周ならばいける時間だ。


 一日に二周しかダンジョンを回れないというのは、ゲームのテンポを知る者としてはちょっと耐えがたいほどに遅いペースなのだが、これ以上速くすることは流石に難しい。


 装備やらスティグマやらと、レベル以外の要素も完全に強化できればその限りではないが、その頃には、そもそも『万魔殿』に潜る必要がなくなっているというのがジレンマだな。


 まあ、だからというわけではないが、今日のダンジョン探索はこれで終わるつもりだ。


 それというのも、少しばかり用事があるからだった。何も、


「これからしばらくは、『万魔殿』十階層までを一周として、一日に二周していきたいと思う」


 と、朝にリィーンたちへ告げた俺に、


「ヴァン殿……頭は大丈夫、いや、正気か?」


「ヴァン様、それは少しどうかと思いますわ……」


「アンタ、アホね」


 などと、女性陣から総スカンを食らったからではないのだ。


「…………」


「えーっと、……」


 ルシアも何気にフォローしてくれなかったからでもないのだ。


 すべては予定通りだ。


 しかし、一日一周しかできないというのは、流石に時間が掛かりすぎるため、ルシアたちが慣れた段階で一日二周へ強制的に移行せねばならないだろう。


 今から憂鬱だが、誠心誠意言葉を尽くせば、理解してくれると信じている。


 それはそれとして。


「そうだ、手に入れた虹魔石だが、使える分は最初に使っておこうか」


 転移先の小部屋内で、俺はそう言った。


 魂石には大きく劣るとはいえ、魔物を倒すだけでも経験値は蓄積されていく。どうせこれから何度も迷宮に潜ることになるのだから、限界突破できる者はしておいた方が、魔物の経験値を無駄にしなくて済むだろう。何も全員分揃うまで律儀に待つ必要もない。


 何しろ、今日を入れて三日の間に計十三個の「虹魔石・小」を手に入れている。


 俺、ルシア、リィーンはRランクのため、フルの限界突破でも各人「虹魔石・小」を四個ずつしか必要としない。俺を含めた三人は、今この場で限界突破し切ってしまうことが可能だ。


 対してシュリだけはSRランクのために事情が異なる。


 彼女の場合は「虹魔石・中」が四つ必要で、「虹魔石・小」換算で計100個となる。それを十階層までの周回で集めなければならないのかと思うと気が遠くなる思いだ。


 ゲームならば一周数分で済むので何てことはない数なのだが、現実では一日掛かりでどれだけ頑張っても12個集めるのが限界だ。最短でもあと九日間、一日一周ならばさらに長い期間、『万魔殿』に潜ることになる。


 こんなに悠長にやっていて大丈夫なのかと心配にもなるが、そうするしかないのだから仕方ない。


「ふむ……使い方は魂石と同じだな」


「凄いです、ヴァンさん。……何だか綺麗ですね」


「幻想的な光景ですわ」


 試しに一つだけ虹魔石を握り締め、実際に使用してみる。


 使い方は魂石と同じで、握った後に「吸収」と念じるだけだ。すると虹魔石は溶けるように手の中から消え、代わりに俺の身体中を虹色の綺麗な光が数秒間覆う。


 レベルアップとは感覚が違うが、自分の中にあった壁が取り払われたような、今まで出来なかったことが出来ると気づいたような、不思議な感覚があった。


 そんな俺の姿に目を見張るルシアとリィーンに、虹魔石を手渡す。


「んじゃあ、ルシアとリィーンは四つずつ使用してくれ」


「は、はい」


「承知しました」


 ルシアはなぜか緊張した様子で頷き、虹魔石を受け取ると覚悟を決めたような顔つきで使用する。そうして自らの体を虹色の光が覆うと、最初は安堵したように息を吐き、それから心なしか目を潤ませて光に包まれる自分の体を見下ろしていた。


 ベルもルシアが限界突破したことが嬉しいのか、「やったわね、ルシア!」と我が事のように喜んでいる。


 一方、リィーンは落ち着いた様子で虹魔石を使用していたが、やはり自身が限界突破することには感慨深いものがあるのか、ほうっと感嘆にも似たため息を吐いていた。


 ともかく俺たちは次々に虹魔石を使用していき、遂に限界突破することができたのだ。


 あとは80までレベルを上げるだけだが、これはシュリの分の虹魔石を集め終わるよりも先に達成されるだろう。


 Rランクは弱い代わりに、とにかく育成が楽だからな。それにシュリのレベルも今日で70レベルまで上がったし、明日からは手に入れた魂石は俺たちのレベル上げに使用することができる。


「よし、じゃあ、そろそろ上に戻るか」


「う……? あ、あの、ヴァン殿」


 さて帰るか、となったところで、戸惑ったように、あるいはおずおずとシュリが手を上げた。


「ん? どうした?」


「いや、あの、先にヴァン殿たちとリィーン様が虹魔石を使うことに異論などないのだが、あと一つ残っているだろう? ……ひょっとして、私はお預けか?」


 不安そうな上目遣いで問うエルフ娘に、俺は数瞬、「何言ってんだろう?」と不思議に思った。


 虹魔石が残っているとは言っても、残っているのは「小」だ。これではシュリの限界突破はできないのは明々白々の事実ではないか。


 俺は思わずシュリをまじまじと見つめ返してしまった。


「……そんな、子供のような曇りなき(まなこ)で首を傾げられても。私は何か、おかしなことを言っただろうか? それとも昨日調子に乗ってしまった私への罰なのか?」


 不安げなシュリの態度は俺にとって訝しいものだったが……ふと違和感を覚えて考え込むこと数秒、俺は「もしかして」と疑問に思い至る。


 俺は前世の記憶から当然のように自分がRランクであることを知っているし、シュリがSRランクであることも知っている。


 しかし、元々この世界で生きる人々は、このランクというものをどう認識しているのだろうか。


 少なくとも、「R」「SR」「SSR」などと生まれ持った才能を区分してしまうような、失礼なランク分けをしているとは、ヴァン・ストレンジとして生きてきた18年間で聞いたことがない。


「アイツってRランクなんだってー。マジ終わってるよねー」とか、そんな話がされていたら噴飯ものであるが、そんな事実はないはずだ。


 ――と、なると。


 もしかして、この世界の人々はそもそも「R」「SR」「SSR」という区分を認識していないのではないか?



お読みくださりありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ