【54】不可能を可能にする最大のチート
左右のククリ刀に宿したソウルで、別々のスキルを発動する。
最初は【ポイズンエッジ】
次に【ファントムペイン】
交差するように素早く二連撃を加えた後に、駄目押しで三つ目のスキル――【カースエッジ】を叩き込んだ。
三つのスキルは、その全てが双剣分類キャラクターのアクションスキルだ。それゆえに模倣するのも比較的簡単だった。
ともかく、グレーターデーモンの無防備な背中へ、スキルは叩き込まれた。これまで自身に痛打を与えるスキルがなかったから、奴も油断していたのだろう。ろくに防御も回避もしなかったし、事実、これらのスキルでもダメージはほとんど与えられていない。
だが――、
「グアァッ!? なんッ!?」
こちらの攻撃を喰らったグレーターデーモンは、今までにない悲鳴を上げた。
おそらくは自分の体を襲った異変に気がついたのだろう。
「馬鹿なッ!? なぜこうも易々と、私が毒なんぞに!?」
いまや、奴の動きは明らかに精彩を欠いていた。
ふらりとこちらを振り向きながら振るわれた闇爪の一撃を難なく回避する。
奴が驚いているのも当然だ。
ソルオバには敵に状態異常を与えるスキルは数多あれど、成功の確率は敵の「耐性」によって変動する。
中でも「デーモン」と名の付く魔物は様々な耐性が高いことで知られている。
こいつらには「半精神生命体」という設定が与えられており、物理もしくは魔法、どちらかへの高い耐性をデフォルトで備える他、毒やペインなど各種状態異常への耐性も高い。
おまけにグレーターデーモンのようなボスキャラは特に状態異常の耐性が高く設定されている。
【歴戦のホブゴブリン】には出血が効いたが、ワンダリングエネミーとボスキャラでは、少し事情が異なる。ワンダリングエネミーはシステム上では幾らレベルが高くとも通常エネミーの扱いであり、ボスキャラのような高い耐性は備えていなかったのだ。
そもそもの話として、「半精神生命体」設定のエネミーには、ゴーレムなどの無機物生命体と同じく、出血の状態異常に対して完全耐性を備えており、これは「耐性脆弱」の適用外であるため、出血は効かないのだが。
もしもこいつに出血が効けば、ホブゴブと同じ戦法が通じたんだけどな。
ともかく、リィーンの【セイクリッドピュリフィケイション】の特殊効果で「耐性脆弱」を付与すると、一時的に状態異常への耐性がゼロになる。
こうなると、ほぼ全ての状態異常がたとえボスキャラであっても面白いように入ることになる。
まあ、「耐性脆弱」を付与できるのは魔族、悪魔、アンデッドだけという制限はあるが、それでも非常に強力で、腐ることのないスキルだろう。
そして今回、俺が与えた状態異常は「毒」「ペイン」「衰弱」の三つだ。
毒とペインは継続ダメージのデバフ。
衰弱は「攻撃力」「防御力」「敏捷」のステータスを二割減少させる効果がある。
継続ダメージが一つで「再生」によるヒットポイントの回復は相殺でき、さらにもう一つでダメージを与えることができる。
そして能力減少のデバフ。
現実となったこの世界で、各種の能力値が二割も減るというのは、体感的にもかなりデカイ。
現在、避けタンクを担当している俺としては、ずいぶんと楽になるのは明白だった。
加えてヒットポイントの回復もないとなれば、あとはタコ殴りにすれば良い。
「――シュリ!!」
俺はふらつくグレーターデーモンから視線を逸らさないまま、戦いに巻き込まれないよう後ろに下がっていたシュリの名を呼ぶ。
「は、はい!? なんだ!?」
これまで意気消沈していたシュリが、慌てたように返事をする。
「そろそろソウルも多少は回復したろ? 戦線に復帰しろ!」
「う――」
シュリは一瞬言葉に詰まった。グレーターデーモンに手も足も出なかったことで、自信を喪失してしまったからだろう。だが、
「――うむ!」
覚悟を決めたように力強く頷いて、シュリは再び前に出てきた。
「きッ、貴様らぁ……ッ!!」
グレーターデーモンが忌々しげに歯軋りするのに、俺は勝ち誇ったように笑ってやった。
「言ったろ? お前は手も足も出ずに殺られるってな」
残念ながら、ここからのどんでん返しは無しだ。
何だかんだ言って、現在のパーティーでは一番のダメージディーラーでもあるシュリも復帰した。となればダメージ量は十分だ。奴の状態異常が自然回復するよりも先に、そのヒットポイントを削り切ることができるだろう。
その予想通り、グレーターデーモンは俺たち「四人」にタコ殴りにされ、程なく討伐された。
●◯●
「すまなかった!!」
グレーターデーモンを無事に討伐し、奴のドロップアイテムである「虹魔石・小」五つを回収したところで、シュリはポニーテールがしなるような勢いで頭を下げた。
「私としたことが、少々浮かれてしまったようだ……」
急にレベルが上がって調子に乗ってしまったことを反省しているのだろう。しゅんとした様子で謝罪する。
心なしか、ポニーテールも耳も萎れているようだ。
まあ、「少々浮かれた」という言葉は事実よりも控えめな表現だとは思うが、反省することは良いことである。
そもそも、俺は別に怒ってなどいないから、その謝罪をあっさりと受け入れた。リィーンも同様で、「仕方ない子ですね」とでも言うような苦笑を浮かべている。
一方でルシアとベルは何か言いたいことがあるように白い目を向けていたが、結局、文句の類いを口にすることはなかった。
「じゃあ、さっさと地上に戻るか」
「そうですね」
「早く帰りましょ」
最奥の間の中央に出現した帰還の転移陣を見て告げれば、すぐにルシアとベルも同意する。
本来なら後一周くらいはしたいところだったが、リィーンたちのレベル上げで時間も食ってしまったし、ルシアの体調も良くない。今日のところは大人しく帰るべきだろう。
俺たちは転移陣に乗って第一階層の小部屋に転移し、そこから地上へ帰還した。
その道中、俺は確信を得た一つの事柄について考えていた。
それはもしかしたら、この世界を攻略する上で最重要になるかもしれない、ゲームと現実との相違点だ。
ソルオバというゲームでは、パーティーの人数は決まって三人までだった。
一人のプレイヤーが、それ以上の人数でダンジョンに挑むことは、どう足掻いてもシステム的に不可能だったのだ。
だが、先ほどのグレーターデーモンとの戦いで、俺たちは「四人」で戦っていた。そこへ至る道中の雑魚敵相手の時は、リィーンが後ろへ下がっていることが多かったので、それはパーティーに参加していない扱いになっている可能性があったのだが……グレーターデーモン戦では間違いようもなく俺たち四人全員が、戦闘に参加していたのである。
それはゲームならばあり得ないことだ。
つまり、この世界にはパーティーの人数制限がない。
強力な敵相手には、一定以上の力量がなければ何もできずに一瞬で倒されてしまうとはいえ、パーティー人数の制限がないことは、考えてみれば凄まじいチートなのではなかろうか?
こうなると、積極的に仲間を集め始めても良いかもしれない。
(確か、パンデモニウムで活動している設定のキャラが、何人かいたよな)
果たしてガチャを引かずに彼ら彼女らを仲間にすることができるのか。
ソシャゲに汚染された俺の脳は違和感を訴えていたが、現実的に考えれば可能であるはずだ。
暇をみて接触してみるか。
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