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【51】調子に乗るシュリ


 昼飯を挟んで探索を再開した。


 午前よりもペースを上げて探索したのが良かったのか、あるいは中級ダンジョンである『万魔殿』第六階層以下での戦いに俺たちが慣れてきたのが理由か、二時間ほどでシュリのレベルが40に達し、無事にスペシャルスキルを習得することができた。


 SRキャラであるシュリの限界突破前のカンストは70レベルだ。


 本来ならば今日中にそこまで上げ切ってしまうつもりだったが、ルシアの体調を考慮して、今日はもうダンジョンから出ることにする。


 ルシア自身は問題ないと言ってはいるが、俺たちに遠慮して、単に我慢しているだけという可能性もあるからな。


 レベル上げを一旦切り上げても、明日中にはシュリも70レベルに達すると思うし、問題はない。なので今日の探索はここまでだ。


 と言っても、一度六階層に降りると五階層の最奥の間へ続く扉は閉ざされ、徒歩で上に戻ることはできない。


 そのため、ダンジョンから出るには十階層のボスを倒して転移陣で一階層まで戻るしかない。


 ゆえに、俺たちは寄り道することなく急いで十階層へ向かうことにした。


 その道中、大部屋に出現するマンティコアはシュリに倒してもらうことにする。


 昼食の後、すぐ帰還のために動かずに、わざわざシュリのレベルが40に上がるのを待っていたのも、その方が時間効率が良いからだ。


 そして――、


「――グルルル……ッ!」


『万魔殿』第六階層の大部屋にて。


 歯茎を見せて威嚇する老人の顔を持つ四つ足の魔物――胴体は獅子で蠍の尻尾を持ち、背中からはコウモリのごとき羽を生やした巨大な魔物――マンティコアと、エルフの女剣士であるシュリが向かい合っていた。


 念のためにマンティコアの行動パターンは教授しておいたが、シュリに伝えた作戦そのものは単純にして明解である。


 ただ、初撃にスペシャルスキルを発動する。


 それだけだ。


「行くぞ……!!」


 刀を鞘に納めて腰を落とし、深く構えたシュリの姿が、次の瞬間、消える。


 スペシャルスキル――【絶影閃】


 シュリの姿が消えた刹那の後には、もうすでに攻撃が終わっていた。


 剣など届きようもない遠い間合いで向かい合っていたマンティコアの背後に、刀を抜刀し振り抜いた姿勢のシュリがいた。


 ポニーテールの黒髪がたなびくようにふわりと舞い、静かに元に戻った時、目の前から敵の姿が消えたことに驚愕していたマンティコアが、ようやくにして悟る。


 自らが負った致命の一撃に。


「グギャアアッ!!? ……バ、カ、な……!!」


 見上げるほどの巨大な体躯がずるりとずれる。


 一刀両断された体から大量の鮮血が噴き出し、出来上がった血溜まりの中に、老人の口から言葉を溢したマンティコアが倒れ伏した。


 そうしてその血も体も無数の光の粒子と化して、魔力へと分解されていく。


「……」


 光が舞う光景の中で、残心を解いたシュリが静かに納刀した。


「す、すごい……!」


「うそぉ……!」


 マンティコアを一撃で屠ったシュリの実力に、ルシアとベルが驚愕の声を漏らす。


 当然のことながら、マンティコアは弱い魔物ではない。レベル10に強化したビーストスピアを装備し、事前に掛けられるだけのバフスキルを掛けた俺でも、一撃で倒すことはできないのだ。


 魔物としての格に相応しいだけの防御力と、五階層のボスであるレッサーデーモンを優に上回るヒットポイントを持つ魔物なのである。


 その上、ヒットポイントが半分を切ると確定で、自分を中心に広範囲を切り刻む風の刃を放ってくる。これは範囲攻撃魔法であり、パリィすることができない。さらに大部屋のほとんどを効果範囲に収めるため、回避も困難、かつ、Rランクで限界突破も「ソウル・オーバーライト」もしていない俺やルシアやリィーンでは、下手をすると一撃で死んでしまうくらいのダメージがある。


 そんなにも強大なマンティコアだが、無数にある大部屋に必ずいることから分かるように、別にボスではない。『万魔殿・中級』のダンジョンにおいては、単なる雑魚敵に過ぎないのである。


 確かにシュリではなく、俺であっても倒すことは不可能ではない。ルシアの協力があれば、より確実に倒すことが可能だろう。


 だが、何度も戦わなければならない雑魚敵相手に、何度も死にかける危険を負うなど、現実のこの世界では御免蒙りたかった。


 ゆえに、マンティコアを一撃で倒せるようになるまで、シュリのレベルを上げていたのである。


 シュリが使ったスペシャルスキルの効果は、こうだ。


【絶影閃】――「効果:通常攻撃比1200%ダメージの一撃」


 他のSRキャラと比べても、シンプル過ぎる効果のスペシャルスキルだ。一見して1200%ダメージは強そうに見えるが、SSRキャラなら「300%×6回」の多段攻撃などざらにあり、ダメージ量ではそれほど高くない。その上、SSRならばバフ効果も複数付くのが普通だ。


 つまりはSRキャラのスペシャルスキルとしても、強くはないスキルと言える。


 だが、それでもマンティコアを一撃で屠れたのは、シュリが「大剣分類」のキャラクターであるからだ。


 刀は両手剣であり、両手剣は「大剣分類」となる。そしてキャラクターが装備できる武器によってステータスの特性が決まるソルオバにおいて、「大剣分類」のキャラクターは敏捷が低い代わりに攻撃力が高いのが特徴だ。


 ただでさえ一撃の威力が高い大剣キャラクターの1200%攻撃である。


 敏捷が高い代わりに攻撃力が低い俺のような双剣キャラクターだと、レア度が同じSRキャラであっても軽く30回以上の通常攻撃で、ようやく同等のダメージが出せる――といった具合になる。


 それだけのダメージを一撃で叩き出すスキルであれば、マンティコアといえど、中級ダンジョンの雑魚敵程度ならば、一撃でヒットポイントを全損させるのも容易だった。


「…………ふ」


 澄ました顔でこちらに戻ってきたシュリだが、ついに我慢できないというように、その口から笑い声を漏らした。


「ふふふ、ふはははっ、あははははははッ!!」


「うわぁ……」


「ちょっと、何か笑ってるわよ」


 呵呵大笑するシュリの姿に、ルシアとベルが若干身を引く。


 一方シュリは、そんなルシアたちの様子など気にもならないとばかりに、瞳を爛々と輝かせてドヤ顔を浮かべた。


「どうだ! 見たか、ヴァン殿! 私の凄まじい力を!」


「ああ、はいはい」


「あの強大なマンティコアを一刀両断してやったぞ一刀両断!!」


「すごいすごい」


「この力があれば、また魔族どもが襲ってきてもリィーン様を護ることができるだろう。それどころか魔族どもを片っ端から返り討ちにすることも容易いはずだ!」


「そうだな」


「この先もマンティコアの相手は私に任せてもらおう! なあに、貴殿らは大船に乗ったつもりで私の後ろから付いて来れば良い! すべて私に任せておけ!」


「ああ、頼んだぞ」


「ふっはっはっはっはっ!!」


 大笑いしながらシュリは先頭となって、先へ進んでいく。


 どうやら、この短期間に自分では絶対に倒せないと思っていたマンティコアを鎧袖一触にできるようになって、嬉しさが天元突破しているようだな。


 ともかく、俺たちはそんなシュリの様子に呆れながらも、マンティコアのドロップした魔石・中と魂石・中を回収しながら、その後に続いた。


「シュリったら……もう……」


 リィーンは何か言いたげにシュリの背中を見つめている。だが、結局は何も言うことはなかった。


 おそらく予見で、この後に何が起こるのか察しているのだろう。


「ちょっとちょっとぉ!」


 一方、リィーンのように予見などできないベルは、慌てたように俺のそばに寄って来た。


「なんかアイツめちゃくちゃ調子乗っちゃってるんだけど! あのままにしておいて良いの!?」


 油断や慢心から手痛い失敗をするのではないかと懸念しているようだ。ルシアも少しばかり心配そうな顔をして、


「大丈夫なんですか?」


 と、確認してくる。


「まあ、十階層の最奥の間までは問題ないだろ」


 俺はそう答えておいた。


 事実、シュリは獅子奮迅の活躍でもって、十階層までの道中に出現する全てのマンティコアを、【絶影閃】の一撃で屠っていった。


 ここまで普通にドロップした魂石も使用し、50には至らないがレベルもさらに上がっている。もはやマンティコアごときでは、どうやってもシュリを止めることはできないだろう。


 そして――、


「ヴァン殿」


「なんだ?」


『万魔殿』第十階層、最奥の間。


 そこへ続く巨大な扉の前に立ったシュリは、自信満々な表情で俺の方へ振り向いた。


「この先の戦いも、私に任せてもらおう。なあに、心配するな。すぐに戦いを終わらせてやるからな、ふっ」


「……」


「もう調子乗りまくりね、コイツ」


「はぁ……」


 ルシア、ベル、リィーンが呆れの視線を向けているのにも気づかず、シュリは俺の返答を余裕の笑みで待っている。


 いきなり短時間で強くなり過ぎた弊害だろうか?


 少々自信が慢心へと変わっているようだ。


 いやでも、ルシアも短期間で急激にレベルを上げたが、シュリのように増長することはなかったはずである。となれば、シュリには元々そんな素養があったということだろうか?


 まあ、どうでも良いので、俺はとりあえず頷いておいた。


「そうか。まあ、頑張れ」


 どうせ調子に乗れるのもここまでだ。


「うむ! では行くぞ!」


 俺は意気揚々と巨大な扉を開くシュリの背中へ、屠畜場に送られる豚を見るような瞳を向けた。



お読みいただきありがとうございます!

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