【49】レベル上げ
「着いたな」
「昨日よりだいぶ速いですね」
「まあ、最短距離で来たからな」
『万魔殿』第六階層。
五階層までの道順は昨日の内に把握しておいたため、ここまで僅か二時間足らずで到着している。道中の魔物もできる限り無視した結果ではあるが、ルシアの言うようにだいぶ速く移動した俺たちは、五階層最奥の間のレッサーデーモンを再び打ち破り、六階層へと降り立ったところだ。
「迷宮の景色はさほど変わらないのだな」
石造りの地下神殿を見渡しながら、シュリが言う。
どこまでも廊下が続く光景は、五階層までと変わりない。違いと言えば出現する魔物の強さと、種類が増えていることくらいだろう。
道中説明していたが、俺は気を引き締める意味でも再度説明することにした。
「分かっていると思うが、ここからは上の階層と同じ魔物でも強くなっているから油断するなよ? それから新しく出現する魔物が二種類増えている」
「はい。確か、インプとマンティコアですよね?」
「そうだ」
ルシアの言葉に頷き、付け加える。
「インプは小さく動きが素早い。攻撃力は低いが状態異常攻撃をしてくる上に、早めに倒さないと周囲から魔物を呼ぶ。見つけたら最優先で倒してくれ」
「はい」
インプはベルと同じくらいの大きさの人型で、コウモリのような羽と細長い尻尾を持つ。ゲームによっては可愛らしい女の子みたいな外見もあるが、ソルオバでの見た目は小さなゴブリンといった感じで全く可愛くない。
攻撃力も防御力もヒットポイントも低いが、放って置くと次々と魔物を呼ぶ厄介な敵だ。特に六階層の雑魚敵でも普通に殺される可能性のある俺たちにとっては、極めて危険と言っても良い。
「それからマンティコアはガーゴイルの代わりに大部屋に出現する魔物だ。体がデカイから廊下や小部屋には出現しないが、シンプルに強い。できれば遠距離で一方的に仕留めたいところだな」
マンティコアはガーゴイルの代わりに六階層から十階層までの大部屋に出現するようになる魔物で、ライオンの胴体に蠍の尻尾、巨大なコウモリの羽が生え、顔は老人という姿だ。
かなりの巨体で肉弾戦も強いが、魔法で遠距離攻撃も行う強敵である。大部屋ごとに出て来るので、一蹴できない今は非常に邪魔な魔物と言える。
「んで、リィーンのレベルを上げてシュリのレベルもある程度上がるまでは、マンティコアは避ける」
現在、リィーンのレベルが幾つかは分からないが、シュリの強さを考えるとレベルが高いとは思えない。となれば一撃死の可能性もあるから、事故る可能性を下げるためにもリィーンのレベルを優先的に上げる必要があるだろう。
加えてシュリのレベルが40に達し、スペシャルスキルを覚えればマンティコアを安全に狩ることができるようになるはずだ。
「ご迷惑をお掛けします」
「まあ、すぐに上がるだろうから気にするな」
申し訳なさそうに謝るリィーンに、気にするなと答える。
実際、リィーンのレベルはすぐにカンストまで到達するだろう。
問題はシュリの方だ。何しろシュリはSRランクなので、必要な経験値の量も限界突破のための虹魔石の数も、俺たちとは比較にならないほど大量に必要だ。
だがまあ、それでもSSRに比べれば遥かに少ないので、何とかなるだろう。
「ルシアはインプが出現したら優先的に倒してくれ」
インプは面倒な上に魂石をドロップしない。なので速攻で倒すに限る。
ルシアならば遠い間合いでも、【シャイニングソードレイン】で仕留めてくれるだろう。
「はい、分かりました」
「リィーンは万が一にもダメージを食らわないように、絶対に前には出るな。確か回復魔法が使えるんだったよな? なら、ルシアが負傷した時は優先的に治療してくれ」
元々知ってはいたが、各自の戦力を把握するという名目で、リィーンとシュリができること――つまりは現在使用できるアクションスキルのことを、事前に聞いていた。
リィーンはスキル1の回復スキルを、シュリは昨日のレッサーデーモン戦でも使ったスキル1の攻撃スキルを使えるようだ。どちらもスキル2は未だ習得していないらしい。
「承知致しましたわ」
「シュリはリィーンの護衛を頼む」
「うむ、任せてもらおう」
そうして一通り注意事項を再確認し改めて指示を出してから、俺たちは第六階層を探索していく。
五階層までなら積極的に小部屋のモンスターハウスを狙っていたが、ここでは危険なので廊下でエンカウントする魔物だけと戦っていく。
大部屋に入らない限りマンティコアは出て来ない。インプは中級のダンジョンとしては非常に弱い魔物なので、初撃で倒し損ねて仲間を呼ばれなければ問題はない。
「やああっ!」
他の魔物との混合パーティーで出現するインプを、ルシアが【シャイニングソードレイン】で確実に葬っていく。
器用にも飛翔する光の剣の軌道を操り、時に回避しようとするインプを追尾する。
光の剣が一本でも刺されば、確殺だ。
そうして邪魔なインプが消えたところで、俺は魔物の群れに突っ込んだ。
魂石をドロップする魔物はフロートアイとシャドウストーカーだ。
ミミックとマンティコアもドロップするのだが、わざわざミミックを探すのは面倒なので除外する。
グレムリンが混ざっていればインプと同じく先に倒し、フロートアイとシャドウストーカーに【スティール】を発動し、魂石・中を手に入れてから倒していく。
ビーストスピアを強化したこともあり、通常攻撃比300%ダメージを超えるアクションスキルを喰らわせれば、一撃で倒すことができた。
ただ、さすがにレアドロップ枠だけはあるのか、『魂の修練場』でのように一度で簡単に盗むというわけにはいかなかった。
何度か試行錯誤すれば確実に盗める場所を見つけることができたので、後はそこへ向かって【スティール】を発動した手を潜り込ませれば良い。
ところが、フロートアイとシャドウストーカーは魔石が盗める場所と魂石が盗める場所が同じであった。そうなると最初に盗めるのは必ず普通ドロップである魔石となる。
そのため、一体につき二度も【スティール】を発動させなければ魂石を盗むことができず、レベル上げの効率としては少々悪い。
やはりレベル上げには『魂の修練場』が一番だな。
だが、どうやらそんな不満を抱いているのは俺だけのようだった。
「……どうやら、これ以上は吸収できないようです」
「本当ですか、リィーン様ッ!? こ、こんなに簡単にレベルが上がるとは……!?」
魂石・中をリィーンに吸収させて、おおよそ30個目。目を見開いて吸収できなくなったと告げるリィーンに、シュリが顔をひきつらせながら驚愕する。
「そうか?」
ここまで四時間くらいは経っているし、Rキャラのレベル上げとしては少し遅いくらいだと思っていた。俺の時は何日か時間が必要だったが、あれは魂石・小を使っていたからだ。魂石・中ならこのくらいは当然だろう。
「そうか……って、貴殿、ありえないぞ、こんなレベル上げの方法」
「ありえないってことはないだろ。むしろレベル上げとしては一般的な部類だと思うが」
「そんなわけあるかッ!!」
シュリの言葉に俺は困惑した。
思わずルシアやリィーンに視線を向けてみれば、ルシアは無言で頷き、リィーンは「シュリの言う通りですわ」と頷く。
「どういうことだ?」
ならば他の人々はどうやってレベルを上げていると言うのか?
ソルオバで他にレベルを上げる方法など、魔物を倒して経験値を稼ぐくらいしかないのだが……。魔物を倒して得られる経験値など微々たるものだ。
何人ものキャラクターを育成せねばならないソルオバにおいて、魂石以外でレベルを上げ切ることはないと言っても過言ではないのだから。
「どういうことも何も、普通は貴重な魂石をこんなに消費してレベル上げをすることなどない。あるとすれば貴族くらいだろう」
「普通、冒険者の方は魂石を手に入れてもすぐに売ってしまうと聞いていますよ?」
「それに魂石を手に入れられる機会など稀だし、今日のように立て続けに戦闘をすることもないはずだ。貴殿のようにポンポンと魂石を集められるのは異常だぞ。貴殿のスキルの力らしいが……いったい何をどうやっているのだ?」
事前にスキルで魂石を盗むと説明しておいたはずだが、シュリたちにとっては信じがたい光景であるらしい。
「それはスキルの力としか言えねぇが……そうか」
一方、シュリとリィーンの言葉に、俺は自分の思い違いを自覚した。
当然ながらこの世界は現実で、ゲームでのように何人ものキャラクターを育成することなんてない。その上、『魂の修練場』以外では魂石は確定ドロップではないから、魔物が落とす確率は低めだろう。通常は普通ドロップではなく、レアドロップの枠に設定されているはずだからである。
さらに魂石はゲームと違って売買される市場がある。多くの冒険者は魂石を手に入れたら売るのが普通で、自分で使うことは稀なのだ。
そして、それだけじゃない。
魔物との戦いは、当然ながら死の危険を伴う。
普通、魔物との戦いは飽くまでも冒険者としての仕事の一環であり、自分から必要以上に魔物と戦うことはない。それが避けられる危険なら、避けるのが普通だ。
つまり、レベル上げのために魔物と戦おうとするような求道者は稀なのだ。だから当然、戦闘の回数も少なくなるし、レベルも上がりづらくなる。
それでも俺のように魂石を盗めるようなスキルやドロップ率を高めるスキルがあれば、魂石を自分に使う余裕もあるだろうが、そういったスキルは非常に少ないはずだ。
だとしたら、俺が思う以上にこの世界の冒険者たちはレベルが低いのかもしれない。むしろ魂石を購入している貴族などの方が、平均レベルはずっと高いのだろう。
まあ、だから何だというわけじゃないが。
今は金よりもリィーンたちのレベルを上げることの方が重要だ。
「リィーンのレベルが上がったのなら、次はシュリのレベル上げだな。ここまで想定よりも時間が掛かっちまってるから、少し急いでいくぞ」
ここまで四時間。
リィーンよりもレベルが上がりづらいシュリをカンストさせるのに、今日中に間に合うかどうかは微妙なところだ。
俺は急いで魔物を探し始めた。
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