【48】武器強化
リィーンたちと出会った翌日。
早朝から起き出した俺たちは宿で朝食をとった後、さっそくパンデモニウムの街中へ繰り出した。
気分的には『万魔殿』へ直行したいところだが、十階層を攻略することを考えると、今のままでは少し厳しい。事前に準備が必要だ。
そのために向かったのは、鍛冶屋だ。
といっても、新たに武器を購入するわけではない。
俺は適当な鍛冶屋を見繕うと、中に入って偏屈そうな鍛冶師の親父に牙骨槍ビーストスピアを差し出し、こう言った。
「親父、こいつを強化してくれ」
「ん? こいつぁ……なかなか見事な槍だな」
ドワーフみたいな髭を蓄えた親父は、槍を受け取るなり目を見張った。
「良いぜ、強化してやるよ。だが、料金の他に魔石は持ち込みだ。あるか?」
「こいつで頼む」
すかさず俺は、昨日『万魔殿』で手に入れた全ての魔石を親父に渡した。
ちなみに、事前にルシアには許可を取ってある。パーティーで手に入れた物だから、半分はルシアに所有権がある。
ルシアは「気にせず使ってください」と言ってくれたのだが、そういうわけにはいかない。そこで俺が金を払おうとすると、【歴戦のホブゴブリン】にやられた時の治療代(俺が立て替えていた分だ)から引いてくださいと言われた。
だが、治療代よりも魔石代の方がおそらく高い。なので差額を払おうとすると、今度は「魂石も【再生のスティグマ】も貰ってしまっていますから、受け取れません」と固辞されてしまった。
俺としてはルシアの強化は必須だから恩に着せるつもりはなかったのだが、ルシアが居心地悪そうにするくらいならば、ここは有り難く貰っておくことにした。
まあ、ルシア用の武器が手に入った時に借りを返せば良いだろう。
そんなわけで惜し気もなく大量の魔石を渡し、武器を強化してもらう。
ソルオバでは武器にもレベルが存在し、魔石や鉱石や魔物素材などを消費することでレベルを上げることができるのだ。
強化できる最大レベルは武器のランクごとに異なっていて……、
Cランクは10レベルまで、
Rランクは20レベルまで、
SRランクは30レベルまで、
SSRランクは40レベルまで、強化することができる。
ちなみに10レベルごとにレベルキャップが存在していて、この制限を解放するために魔石以外の素材を必要とする。
現在、解放のための素材は持っていないから、ビーストスピアを強化できるのは10レベルまでだ。
それでも流石はSSR武器というべきか、モンスターハウスを幾つも巡って集めた大量の魔石が、ほとんど消費されてしまった。
なお、この世界で武器が強化される光景を初めて見たが、かなり不思議な光景だった。
鍛冶師の親父が火の入った炉にビーストスピアを突っ込むと、なぜか金属製でもないのに槍が赤く熱される。それを取り出して金床の上に置くと、今度は魔石を熱した槍の上に翳す。
そうすると魔石は形を失い、魔力となって輝きながら槍に吸収されていくのだ。
親父は次々と魔石を吸収させていき、限界まで吸収させたところで槍をハンマーで叩き出す。
叩かれた槍からは火花が散り、何度か打ったところで強化は終了したようだ。
「これ以上強化するには特殊な素材が必要だな。魔物の骨や牙なんだが、手持ちにあるか? あるなら続けて強化してやるが」
「いや、今はないからここまでで良い」
「そうか。ほらよ」
俺は槍と余った魔石を受け取り、親父に料金を支払って店を出た。
強化の料金はなかなかに高く、傍で見ていてシュリが目を見開いていたくらいだが、必要経費なので仕方ない。10レベル上げるのに金貨20枚で、Cランクの安い武器なら幾つも新品を買えてしまうだろう。
その代わり、それだけの価値は間違いなくあるはずだ。
10レベルとなったビーストスピアの能力は、以下のようになる。
【牙骨槍ビーストスピア:レベル10】
【攻撃力:163】
【パッシブスキル:吸血】
【アクションスキル:ブラッドシール】
レベルが上がることで攻撃力が「147」から「163」に上昇し、10レベルごとに解放されるパッシブスキルが一つ解放されたはずだ。
なお、ガチャ産の武器であればRランクにもパッシブスキルは解放されるが、ガチャにも登場しない雑魚ドロップであるCランク武器ではパッシブスキルは存在しない。
武器スキルと呼ばれる武器固有のアクションスキルに至っては、SSR武器のみの特権である。
ともかく。
今回解放された【吸血】は、「装備者がエネミーに与えたダメージの1パーセントを回復する」というスキルだ。
つまり、100のダメージを与えれば、1のヒットポイントを装備者が回復するという効果がある。
持続治癒や回復効果があるアクションスキルがあれば全くの不要なのだが、今の俺にとってはそこそこ嬉しいスキルであった。
「良し、待たせて悪かったな。さっそく『万魔殿』へ向かおうか」
「はい」
「うむ」
「わかりました」
武器の強化を終えて、俺たちは今度こそ『万魔殿』へ向かう。
シュリには昨日、隠れ里に戻れないと『万魔殿』で殺されてしまった仲間たちを弔うのが遅れてしまうことや、レベルを上げるのにどのくらい時間が掛かると思っているのかなど、色々と文句を言われてしまったが、俺としても長期間パンデモニウムにいるつもりはないと説明して、何とか納得してもらった。
十階層のボスを周回するには、どうしてもシュリに活躍してもらう必要がある。そもそも運良くシュリがリィーンと同行していなければ、『万魔殿』十階層を周回しようなどとは考えなかった。ゆえに、機嫌を損ねられても面倒なので懇切丁寧に説明した次第だ。
――なのだが、どうやら説明不足な点があったらしい。
大地に空いた巨大な穴の壁面に穿たれた長い螺旋階段を下り、『万魔殿』一階層に降り立ったところで、シュリが俺に質問を投げ掛けてきた。
「それで、ヴァン殿」
「ん?」
「すぐに十階層に向かうのか? 貴殿の実力ならば攻略できるのかもしれないが、六階層からは五階層までとは比べ物にならない難易度だと聞くぞ?」
気が強そうな見た目に反して、少しばかり不安そうなシュリに、俺は安心しろとばかりに頷いた。
「ああ、大丈夫だ。すぐに十階層のボスに挑むわけじゃない。まずはリィーンたちのレベルを上げる」
「……ずいぶんと簡単そうに言ってくれるが、それこそ何日掛かるか分からんだろう? 貴殿は昨日、長期間この都市にいるつもりはないと説明していたはずだ」
「心配するな。レベル上げは、何とか一日で終わらせるつもりだからな」
『万魔殿』に出現する魔物は魔石を確定ドロップするが、それしかドロップしないわけではない。
レアドロップ枠にはなるが、魂石をドロップする魔物も存在しているのである。そしてドロップする魂石の質は、階層の難易度に比例している。
「というわけで、とりあえず六階層を目指すぞ」
お読みいただきありがとうございます!




