【46】クリア不可能問題
「ソウル・オーバーライト」において、主人公はリィーンたちが住む隠れ里という拠点を手に入れながらも、世界中を旅することになる。
そうして世界各地で「目覚め」つつある魔族たちが暗躍している問題に関わり、何やかんやでそれらを解決していく。最後には【予言の御子】と対になる存在の【終焉の御子】――「魔神」の転生体を倒すことで、世界に平和が訪れ、グランドフィナーレを迎えることになるのだ。
ソルオバ廃課金者であり、すべてのゲーム内コンテンツを遊び尽くした俺は、もちろんメインストーリーの内容も鮮明に覚えている。
ゲームのストーリーをなぞり、ルシアや自分自身、それからまだ見ぬ仲間たちを最大強化していけば、無事にグランドフィナーレを迎えることができるかもしれない。加えてストーリー最終章が実装された段階での人権キャラ(現在の環境で強いと評価されるキャラクター)たちを仲間に加えることができれば、ストーリークリアの可能性も飛躍的に上がるだろう。
そしてそれは、人生の大半――長い時間を費やすようなことでもない。
ソルオバは確かに八年間も続く長寿ゲームだが、メインストーリーのテキストが膨大なわけではないのだ。むしろ一人一人のキャラクターや、主人公たちの前世編、あるいは季節のイベントクエストなど、現代のメインストーリーとはほとんど関わりのないストーリーの方が遥かに膨大な文量になる。
何しろガチャで新たにSSRキャラを登場させる度に、専用のイベントクエストを用意していたくらいだ。
それら全てのイベントをこなすよりも、メインストーリーをクリアする方が難易度はともかく時間的には遥かに少なくて済む。
ゆえに、グランドフィナーレを迎えるまでの時間は、現実であるこの世界でも意外と早く訪れるのかもしれない。
だが、しかし。
それこそが問題だ。
この世界では魔族たちもイベントの開始を待ってはくれない。時はこちらもあちらも平等に過ぎていき、ストーリーは常に勝手に進んでいくのだ。
ゲームの時はどこに向かおうが、どれほど時間を掛けようが、いつイベントを開始しようが、何の問題もなかった。
世界中の何処へだって、ワールドマップから選択すれば一瞬の内に移動することができた。
だから敵が強ければレベルを上げて強化素材を探し、あるいはガチャを引いてより強いキャラクターを仲間に入れて、より強い装備を身につければ良かった。
しかし、現実のこの世界では、途中で長期間別のことに時間を費やせるはずはない。それどころか今もなお、俺たちの知らないところで魔族たちは暗躍し、本来起こるべきイベントの数々を起こしているかもしれない。ソルオバの主人公が解決すべき数々の問題が、関わる間もなく始まって終了してしまうかもしれない。
そして正常にそれらのイベントをこなせなければ、魔族側の勢力がゲームよりも強大になることは確実だろう。
ゲームのストーリーをなぞる限り、この現実での難易度はどんどん上がっていくはずだ。ストーリー後半になるほどに、未解決で失敗してしまうクエストが山積みになるはずである。
ゆえに――ゲームと同じように動いてはこの世界をクリアできない。
どうしたって、解決すべき問題と切り捨てるべき問題とで、取捨選択せざるを得ないのだ。おまけに強化に必要となるダンジョンは世界各地にあるのだから、強化に当てられる時間も限られてくる。
その上で、どうにか「魔神」の転生体を倒せるだけの力を手に入れなければならない。
(正直、難易度ナイトメアなんてもんじゃないぞ……。そもそも本当にクリアできるクエストなのか、これは? ゲームのように時間的猶予がなく、おまけにあちこちで勝手にイベントが進行する可能性もある……複数同時にだ)
ここからは効率的に動かなければ、詰む可能性がある。
ゲームでは何度だってやり直しができたが、ここでそれはできないのだ。
となれば、ゲーム知識を隠して自重なんてするべきじゃない。むしろゲーム知識を総動員しても、足りないほどだろう。
それゆえに俺は、リィーンの提案に対して「否」と答えた。
隠れ里へ向かうことの優先順位は、高くはない。ルシアがリィーンの言葉に納得するには前世を思い出すのが必要だろうが、そのために時間を浪費しては後々詰む可能性が高くなる。
最優先すべき事項は、自分達の強化だ。
メインストーリーの各イベントの正確な発生時期など分からないのだ。いつ、どのイベントに遭遇してもクリアできるように、強くなる事こそが最優先だろう。
(さて――、どこまで出来るかね?)
先々のことまでは決めていないが、とりあえず、まず行うべきことだけはハッキリしていた。
『万魔殿』で必要な数の虹魔石だけは確保しておかなければならない。限界突破した後にレベルをカンストさせなければ、リィーンの【ソウル・オーバーライト】は行えないからだ。
「――さん! ヴァンさん!」
「ヴァン殿! どういうつもりだ!? 何を黙っている!? リィーン様のご提案を断るとはどういうつもりなのか説明してくれるのだろうなッ!?」
「――ん?」
しばらく物思いに耽っていると、ルシアが俺の肩を揺らし、シュリが耳まで真っ赤にしながら怒声をあげていた。
見れば、リィーンも物問いげな眼差しを俺に向けている。
「ああ、すまんすまん。ちょっと考え事してたわ」
と、俺は全員に謝罪しつつ、リィーンの提案を断った理由を答えた。
「誤解させちまったみたいだが、何もリィーンたちの隠れ里に行かないってわけじゃないんだ」
「む、そうなのか?」
「ああ。俺たちが転生者とやらなのかどうか、はっきりさせたいのは本心だしな。信じがたい話ではあるが、リィーンたちが魔族に襲われていたのは事実だし、魔族がリンネの巫女と呼んでいたのも事実だ。何か因縁があるってのは本当っぽいし、となると俺らが転生者だってのも一概に否定もできんわな」
リィーンたちに、というよりは、むしろルシアに聞かせるように俺は言った。
ルシアも俺の言葉に、「それは……確かに」と頷き、一考の余地ありと思ってくれたようだ。
「だが、俺たちも遊びでパンデモニウムまでやって来たわけじゃない。ここに来た目的をまだ果たせちゃいないんだ」
「ぬ? ということは、貴殿らの目的を果たせば、我らの里に来るのは問題ないということか?」
ここでの目的を終えた後に、リィーンたちの里へ出向くかどうか。
できればリィーンが【ソウル・オーバーライト】できるようにするために、各種イベントをこなしてからが望ましいのだが……。
「まあ、そういうことだな」
俺は本心を隠しつつ、頷いた。
リィーンたちの里はサンディライト共和国の僻地に存在するし、共和国自体もいずれは出向く予定でいた。里へ顔を出すついでに、共和国での用事を済ませてしまえば、時間の無駄も省けるだろう。
「魔族たちの襲撃が懸念されますから、できればすぐに向かいたいのですが……」
リィーンが表情を曇らせて懸念を口にする。
それから、しばらく何かを考えるかのように両目を閉じていた。おそらくは「予見」の力を発動させているのだろう。
「……分かりました」
そして両目を開くと、決然とした顔で頷いた。
「お二方の用事を終わらせた方が、良い未来に続く気もいたします。わたくしたちの里へ向かうのは、その後にいたしましょう」
「助かる」
「それで? 貴殿らの目的とは何なのだ? 手助けできるなら手伝うぞ? 早く終えるに越したことはないからな」
シュリの提案は渡りに船だ――というより、二人にも付いてきてもらった方が良い。シュリから提案されずとも、俺から言うつもりではいたのだが、向こうから言ってくれたのなら手間が省ける。
「俺らの目的は必要な数の虹魔石を集めることだ。んで、リィーンにシュリ」
「む? どうした?」
「なんでしょうか?」
首を傾げる二人に、俺は断固として告げた。
「お前たちも魔族に狙われてるんだ。強くなるに越したことはないだろう? だから、二人にも一緒に『万魔殿』に潜ってもらって、ついでにレベルも上げることにする。悪いがこれは決定事項だ」
「はあッ!?」
「ええっと……?」
リィーンはルシアと同じで初めはRキャラに過ぎないが、シュリの方はそうじゃない。
シュリはゲームストーリーではガチャキャラの一人であり、そのランクは俺たちの中でも一番高いSRキャラだった。
とりあえずレベルをカンストさせるだけでも、かなりの強化が見込めるはずだ。
「まずは『万魔殿』十階層を目指すぞ」
五層でちまちま集めるなんて、幾ら時間が掛かるか分からんからな。
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