【44】転生者
「前世の力を復活させる力……?」
呆然とした表情で、ルシアがリィーンの言葉を復唱した。
他に類を見ないほど珍しく、そして強力な能力だ。それゆえにルシアが信じがたいのは分かる――と、俺も内心で頷いていたのだが……、
「え、ぇぇと……」
「まずいわよルシア。何か変な奴らに関わっちゃったわ。ルシアは世間知らずなんだから、高い壺とか買わせられないように注意しなさいよ」
ルシアの視線がきょろきょろと動く。その表情は何だかすごく気まずそうだ。
ベルはルシアの耳元でひそひそと囁いているが、ルシアの隣に座っている俺には丸聞こえであった。
「ヴァ、ヴァンさん……ど、どうしましょう……?」
「――ッ!?」
田舎暮らしであったためか、自分の理解を超える変人への対処方法が分からないようだ。ルシアは困りきった表情でこちらを見上げ、不安そうにちょこんと俺の服を摘まんできた。
至近距離で美少女のあざと可愛い仕草を見せられ、その破壊力に少々狼狽えてしまったが、俺はすぐに冷静さを取り戻す。
こう見えて中身はおっさんだからな。
この程度で頼れる先輩冒険者ムーブが崩れる俺ではないわ(?)。
「落ち着け、ルシア」
どうやらルシアたちは、いきなり前世云々と語り始めたリィーンたちに不審なものを感じてしまったらしいな。
俺はゲーム知識として知っていたから特に疑問にも思わなかったが、予見の話と良い、前世の力と良い、そんなことを言われたら普通、怪しげな人物だと心に壁が出来てしまうのも当然かもしれない。
だが、どんなに信じられなくても、リィーンの言っていることは真実だ。
「今ここで、リィーンたちが俺たちを騙す理由はないはずだ。確かに少々信じがたい話だが、事の真偽は一通りの話を聞いてから判断しても良いんじゃないか? 少なくとも、仲間を魔族に殺されたばかりのリィーンたちが、下らない冗談でこんな話をするはずはないだろう?」
「あ……そう、ですよね」
「これで冗談だったら正気を疑うけどね」
俺の言葉にルシアとベルが一応、納得したように頷いてみせた。
まあ、ベルの言うように、仲間が殺されたばかりで訳の分からん冗談を言われたら、確かに正気を疑うけどな。
一方、俺たちの会話を聞いていたシュリが「な、な、な……ッ!?」と、顔を赤くして憤慨する。
「き、貴殿ら……! 我らのことをそんなふうに思っていたのか!? この場でこんな冗談を言うはずがなかろう!!」
「あ、ごめんなさい」
「ふふ、謝らずとも大丈夫ですわ、御子様。それにシュリも落ち着きなさい。普通ならばこんな話、容易に信じられないのも事実でしょう?」
「む……! ……リィーン様が、そう仰るなら」
シュリが憮然とした表情ながら黙ったところで、俺は話の軌道を修正する。
「話の腰を折ってすまんな。とりあえず、続きを聞かせてくれ」
「はい、それでは」
と、再びリィーンが語り出す。
「今はまだ、前世の力を復活させられる力――わたくしたちは【ソウル・オーバーライト】と呼んでいますが……それを証明してみせることはできません。しかし、いずれはお見せする機会があるかと思います。なので、とりあえずはわたくしにそういった力があるという前提で、話を進めさせていただきますね?」
「う、うん」
リィーンの確認に、ルシアはぎこちなくも頷く。
「魔族たちがなぜ、わたくしの力、【ソウル・オーバーライト】を必要としているのか……それは、彼らが「転生者」と呼ばれる存在だからですわ」
「転生者……前世があるってこと?」
「はい。……御子様は神魔大戦のことはご存じでしょうか?」
「神魔大戦って言うと……教会の聖書に載っているあれだよね? 遥か古代に神界と魔界に別れて争ったっていう伝説の」
「その通りです。そして魔族たちは、その神魔大戦において、魔界側に属して戦った魔族たちが転生した存在なのです」
「……そう、なんですか」
敬語。
いかんな。ルシアの表情が何とも言いがたいものに変わりつつある。おまけにリィーンに対しては使っていなかった敬語まで使い始めたということは、心の距離がどんどん離れている証拠だろう。
神魔大戦。
それはリンネ教の聖書にも載っていて、リンネ教の信徒ならば誰もが知っているくらいに有名な「御伽噺」あるいは「神話」だ。
だが、それが実話であると言われても、信じる者はほとんどいないだろう。
地球で言えばギリシア神話や北欧神話が実話であり、ゼウスとかオーディンが現代に転生してるんだ――と大真面目に語られたと想像してみてほしい。きっと大多数の人々は、生暖かい目と共に急速に心の距離を広げるはずだ。「こいつやべぇ」と。
しかし、おかしいな?
ゲームではヒロインの話を主人公はあっさりと信じるんだが。これもゲームと現実との違いなのだろうか?
ルシアに常識的な判断力があって喜べば良いのか、それとも容易に話が進まないことを嘆けば良いのか。
「魔族たちは遥か古代から現代へと転生し、前世の記憶を思い出しつつあります。しかし、その記憶も力も、まだまだ万全ではありません。いえ、前世のそれと比べれば、比較にならないほど脆弱と言っても構わないでしょう。
魔族たちが前世の――最盛期の力を取り戻す方法は一つではありませんが、確実かつ最速に取り戻すならば、方法は一つだけです。
すなわち……わたくしの持つ【ソウル・オーバーライト】の力を用いることになります」
「だから、魔族たちはリィーンさんを捕らえるべく襲っていた、というわけですか?」
敬語!
リィーンの言葉を真面目に聞いているようにしながら、敬語で問うルシア。
対するリィーンは苦笑しつつ頷いた。
「はい。それがわたくしが魔族から狙われる理由ですわ」
「なるほど……でも、元々住んでいた里の中にいれば、結界が張ってあるから、魔族には気づかれないんですよね? それなら里から出なければ良かったんじゃ……?」
なぜリィーンたちが、わざわざ安全な場所から出て来たのか?
それは実に単純な理由だ。
「魔族がその存在を感知できるのは、わたくしだけではありません。もう一人いるのです。そしてそのもう一人の存在が、近々魔族に知られる可能性がある。そう「予見」したために、わたくしはそのもう一人を魔族よりも先に保護すべく、ミッドガルド王都へ向かう途中だったのですわ」
「あの……その、もう一人、というのは?」
躊躇いながらの問い。
これまで自分を「御子様」と、よく分からない呼称で呼んでいたこと。そしてミッドガルド王都という場所。
確信はなくとも、何となく予感はしていたのだろう。ルシアの表情は固い。
それはそうだろう。何しろその途中で、リィーンたちの仲間が、人が死んでいるのだから。
「はい。それはもちろん――御子様、あなた様のことですわ」
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