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【43】リンネ教原典派


「まず、アンタらが何者で、何であんな場所で魔族に襲われてたのかを聞きたいんだが、良いか?」


 宿屋の一室。


 二段ベッドが左右に並ぶ室内で、俺とルシア、リィーンとシュリに分かれてベッドに腰かけた。


 そうして落ち着いたところで、さっそく口火を切ったのは俺だ。


 迷宮の中では互いに名前だけの簡単な自己紹介しかしていなかった。だが、リィーンたちが何者であるのか、俺は知っている。とはいえ、まさかそれを正直に言うわけにもいかない。それに彼女らがなぜ『万魔殿』にいたのか、その理由は俺も知らないのだ。


「分かりました」


 リィーンは静かに頷き、語り始める。


 まず、自分たちが何者か、という問いに対して。


「簡単に言えば、わたくしたちは、リンネ教原典派を信仰する者たちですわ」


「原典、派……? ええと……ごめんなさい、ボクの勉強不足かな? リンネ教にはそういった宗派があるの?」


 リィーンの言葉に、ルシアは戸惑いながら首を傾げた。相手が同年代であるためか、その口調は敬語ではなく、どことなく距離が近いようにも感じられる。何だか疎外感だぜ。


「はい。通常、皆様が信仰されているのはリンネ教正典派になります。ただ、他に宗派があるということは、あまり知られていません。ですから、リンネ教と言えば正典派という認識で大抵の場合は間違いではありません。


 少し詳しくご説明しますと、現在のリンネ教には三つの宗派があります。

 一つは正典派。一般的なリンネ教がこれに当たります。

 そしてわたくしたちが信仰している原典派。これは正典派から異端に認定されているわけではなく、むしろ正典派からも認められている宗派になります。いわば密教のようなもので、原典派の存在を知っているのも教会では教皇以下、枢機卿や大司教レベルの地位の高い方々に限られています。


 そして最後の三つ目がリンネ教外典派。

 こちらは原典派とは違い、正典派から完全に異端とされている宗派ですね。厄介な思想を持つ、厄介な方々が多いのです」


 それから一息吐き、さらに続ける。


「わたくしは原典派で巫女という役職を賜っています。わたくしの存在を知っている方々からは、リンネの巫女、と呼ばれることが多いでしょうか」


「リンネの巫女……そういえば、魔族たちもそう呼んでたね」


 ルシアが迷宮でのことを思い出しながら言う。


「はい。……そして、リンネの巫女たるわたくしには、幾つか特殊な力があります。あの魔族たちは、わたくしの力を狙って襲って来たと考えて、間違いないでしょう」


「特殊な力? ええっと、それは何か聞いても大丈夫かな?」


「はい。御子様にも関係する話ですから」


 そこでリィーンは一拍おいて、キリッとした真剣な表情で告げた。


 ソルオバにおいて魔族たちと主人公、そしてヒロインたちの争い原因、その一因となる力を。


「代々リンネの巫女に受け継がれる力は、大きく分けて二つあります。

 一つは予見。

 わたくしが知りたいと思う未来の事柄を、数日程度の未来ですが、漠然としたイメージや感覚といったもので「予見」することができるのです。

 何もかも正確に知ることはできませんし、発動に条件もあります。そして未来は常に変動しているため、「予見」する未来が正確だという保証もありません。「予見」した後に予見した未来が変化してしまうこともあります」


「未来を、知る……?」


「何よそれ、反則じゃない!」


 ルシアが呆然とし、ベルが驚愕する。


 確かに「私は未来を知ることができます」なんて言っても、にわかには信じがたい話だろう。


 それでも目の前のリィーンは真剣な表情を崩さず、冗談を言っているようには見えない。だが、今の話にルシアは疑問が浮かんだらしい。


「あれ? でも待って。未来を知ることができるなら、なぜリィーンたちは魔族に襲われていたの? あらかじめ回避することもできたんじゃ?」


「それは二つの理由によって、不可能でした」


 当然の疑問だ、とばかりに頷いて、リィーンは続ける。


「一つは魔族の動向に関して、「予見」の力がほとんど働かないこと。何と言いますか、魔族たちは「予見」の力に対して耐性のようなものがあり、魔族たちの取る行動を知ろうとしても、力が上手く働かないのです」


「そう、なんだ……」


「はい。ですから、わたくしは「自らに迫る危険」を予見することで、魔族の襲撃を躱そうと考えました。それは半分くらいは上手く行ったのですが、旅の途中に徐々に魔族に追い詰められ、このパンデモニウムまで誘導されてしまったのです。本当は、ミッドガルドの王都を目指していたのですが。

 そしてこれが二つ目の理由。

 わたくしの住んでいた里には強力な結界が張ってあるのですが、その結界を出ると、魔族はわたくしの存在が何処に在るのか、大まかに感じ取ることが出来るのです。

 ゆえに、「予見」を駆使して幾ら逃れようとしても、魔族たちの襲撃を振り切ることができなかったのですわ」


 魔族がリィーンの居場所を常に把握できるならば、確かに幾ら危険を「予見」して回避しようとしても、無駄だろう。魔族の方が常にリィーン目指して移動して来るからだ。


 今回、リィーンに向けて放たれた魔族どもの刺客が『万魔殿』にいた連中で全てだとしても、また刺客を放たれたら、ここもすぐに危険になるはずだ。


 というより、安全地帯はリィーンたちの暮らしている「隠れ里」にしかない。


 だが、まだストーリー序盤では魔族の勢力はそれほど巨大ではない。刺客を送るにしても人員の不足で時間が掛かると思われる。俺たちがアルペディア帝国に向かわない限りは、今の段階なら大丈夫だろう。


 しかし、やはりリィーンたちはゲームストーリーと同じようにミッドガルド王都を目指してはいたらしい。本来ならばコフウ遺跡で魔族たちに襲われるリィーンと邂逅するはずが、王都から遠く離れたパンデモニウムでの邂逅になったのは……たぶん、魔族たちの力が、ゲームでのそれを上回っていたのが理由だろうか?


 ゲームストーリーよりも魔族の力が強く、コフウ遺跡まで辿り着くことができなかった。そして魔族たちにとっても比較的行動の制限がない独立都市たるパンデモニウムへ誘導した――というのが、ゲームストーリーとの違いの、主な要因だろう。


 俺がそんな考察を続けている間に、ルシアが口を開く。


「魔族たちはリィーンが持つ「予見」の力を狙ってる、ってことなのかな?」


 ここまでの話を聞いて、ルシアがそう予想する。


 確かに限定的で不安定であれど、未来予知にも等しい能力があれば、色々と出来ることもあるだろう。きっと誰もが欲しがる力のはずだ。


 だが、それは違うと俺は知っている。


 魔族たちがリィーンを狙うのは、不確定で頼りない未来予知なんかじゃない。俺と同じく、もう一つの能力こそを欲しがっているのだと。


 その予想を肯定するかのように、そしてルシアの想像を否定するかのように、リィーンは首を横に振った。


「いいえ。魔族たちがわたくしを狙っているのは、リンネの巫女が受け継ぐもう一つの力が理由ですわ」


「もう一つの力?」


「はい。その力というのは――」


 リィーンとシュリの雰囲気が、ピリリと引き締まる。


 おそらくは最重要の秘密を話すために、意図せず緊張しているのだろう。


 どこか固い表情で、リィーンは言った。


「――前世の力を復活させる力、ですわ」



お読みいただきありがとうございます!

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