【40】ヴァン無双
【修正のお知らせ】
前話の「創作スキル」を「オリジナルスキル」へと、名称を変更しております。
魔族は魔物ではない。
かと言って人でもない。
それでも人と同じ形をした者が臓物をぶちまける姿には、この世界に慣れた「ヴァン・ストレンジ」とてクルものがあった。それが自分の手で為した事となればなおさらだ。
くるくると宙を舞った魔族の上半身がどしゃりと床に落ちる。
流れ出す血の量を見るまでもなく、如何に魔族とて戦闘不能は確実だろう。
(さすがにグロいな……だが今は考えるな)
人に似た者を殺したという精神的衝撃は、やはり皆無とはいかない。しかし、今は生きるか死ぬかの瀬戸際だ。余計な感情を抱かぬように精神を集中させ、心を凍えさせる。
「貴ッ様ぁッ!!」
仲間の一体が殺されたことに激昂したのか、先ほどまで俺を足止めしていた魔族が叫びながらこちらへ接近する。
同時、その手に持つ長剣に赤黒いオーラが宿り、走りながらも器用に剣を振るった。
間合いは遥か外で届くはずもない。だが、オーラは虚空に斬線を刻むと赤黒い刃と化してこちらに飛翔した。
(避け――るのはまずいか)
俺の背後にはリィーンがいる。俺が避ければ赤黒い刃はリィーンを襲うだろう。ゆえに避けられない。
「ふんっ!」
手にした長槍にソウルを流す。
アクションスキルではない。チャージアタックだ。
ソウルを籠めた一撃をかち上げるように振るい、飛来したオーラの刃に合わせた。瞬間、澄んだ音色と共にオーラの刃が粉々に砕かれる。
パリィ。それが範囲攻撃でなければ、魔法攻撃でさえ弾き、受け流すことができるのがソルオバのパリィだ。
「――もらったぁッ!!」
「もらってねぇよ」
だが、オーラの刃を弾く間に、魔族は接近し、俺の眼前で刃を振り下ろす。赤黒いオーラを纏った剣の一撃。まともに受ければ致命傷は免れない強力な一撃だが――、
オリジナルスキル――【スピードステップ】
高速移動で魔族の背後へ移動する。長剣の一撃は一瞬前まで俺がいた空間を虚しく切り裂き、剣を振り抜いた魔族は無防備な背中をこちらに晒している。
アクションスキル――【パワースマッシュ】
槍を大上段に振り上げた構えから、全力で振り下ろす。ソウルの宿った刃が魔族の胴体を斜めに通り抜け、その体を大した抵抗もなく両断した。
ずしゃりと崩れ落ちる魔族から目を逸らし、ルシアたちに視線を向ける。すると――、
「チッ! おい、ここは!」
「分かっているッ!!」
二体の魔族が俺に倒されたことに気づいてか、ルシアとエルフ少女の相手をしていた魔族たちは素早く視線を交わすと、次の瞬間大きく背後へ跳び退いた。
「今回は諦めるとしよう」
「だが、すぐに戻って来る。それまで待っていろ、リンネの巫女よ」
「貴様ら! 逃げるつもりかッ!?」
不利を悟って逃走することにしたのだろう。そんな魔族たちにエルフ少女が追い縋るが、
「ぐッ!?」
飛翔する赤黒い刃を放たれ、それを防御する間にさらに距離を取られてしまう。
俺としても奴らを逃がすつもりなどない――が、追撃に移るには少々距離が遠かった。
「ルシア! 足止めしてくれ!」
「はいッ!」
それだけでルシアには通じたらしい。
すぐに剣から周囲へと膨大なソウルを放出し、スキルを放つ。
スペシャルスキル――【シャイニングソードレイン】
無数に出現した光の剣が、矢のように飛翔し魔族たちを襲う。
「チィッ! 鬱陶しい!」
「こんなもので私たちを仕留められるとでも!?」
次々に飛来する光の剣を弾き、時には自らの体で受け止めながらも、魔族たちが致命傷を負った様子はない。ルシアの【シャイニングソードレイン】は範囲攻撃かつ多段攻撃の強力なスペシャルスキルではあるが、一撃一撃のダメージを見ればそれほどの威力ではなく、魔族の高い防御力を持ってすれば耐えることも可能なのだろう。
だが、これは倒すことが目的なのではない。
足止めが目的なのだ。
そして、その目的は十分に果たされている。
オリジナルスキル――【スピードステップ】
光の剣が止んだ瞬間を狙って、魔族たちのちょうど中間へ高速移動する。
「うぬ!?」
「貴様――」
すぐに俺の存在に気づいた魔族たちが、こちらへ刃を振るおうとするが、俺の方が僅かに速かった。
アクションスキル――【円舞刃】
槍を横薙ぎに、その場で大きく一回転する。刃に宿ったソウルが俺を中心とした円を描いて放出された。
オーラの刃が対象に当たると同時、衝撃波と化して魔族たちを吹き飛ばす。しかし、苦痛の呻きをあげるも、【円舞刃】では魔族たちを一撃で倒すには至らないようだ。
とはいえ、これで倒せないだろうことは分かっていた。
俺はすぐに左の魔族に接近し、槍を突き出す。
アクションスキル――【オーラスラスト】
「ぐがはぁッ!?」
ドリルのように高速回転するオーラの穂先が、魔族の胴体に大穴を穿つ。
「く、くそッ!」
その隙に、最後の魔族が一瞬の躊躇いもなく逃走に移っていた。
その疾走は敵ながら速く、すでに大きな距離が開いている。【スピードステップ】を使えば追いつくこともできるだろうが、極短距離の移動に使うならともかく、敵を追いながらそれなりの距離を移動するのに使えば、すぐにソウルが枯渇してしまうだろう。俺のソウルの残量も、ここまでの戦いで残り少ない。
しかし、敵が最後の一体となれば、わざわざ距離を詰める必要はなかった。
アクションスキル――【ホーミングジャベリン】
その場で大きく踏み込み、牙骨槍を投擲した。
放たれた槍はまるで自ら飛行しているかの如く、こちらに背を向けて疾走する魔族へ向かって飛翔する。
「――ゴォッ!?」
そしてその背中を貫いた。
槍が刺さったままの魔族は弾き跳ばされるように迷宮の床を十メートル近くも転がった。
ようやく止まった時には、起き上がる様子どころか、身動ぎ一つさえない。確実に致命傷。息絶えたようだ。
「……」
残心。静寂。それから一つ息を吐いて、全身から緊張を抜き去る。
魔族四体、これで全てを殲滅することができた。
「危なかったな……」
だが、俺はそう呟く。
【ホーミングジャベリン】で俺のソウルも底をついてしまった。通常攻撃ですぐに回復するとはいえ、そうすれば魔族に逃げられていた可能性も高い。それに相変わらずヴァン・ストレンジの防御力は紙なので、一撃だってマトモに攻撃を受けるわけにはいかなかったのだ。
実際のところ楽勝だったわけでもなく、結構ギリギリの戦いではあった。
なのだが――、
「あ、アンタ……無茶苦茶ね」
ベルが顔をひきつらせて言い、ルシアやリィーンたちも呆然とこちらを見ていた。
何やら驚いているらしいが、こんなことで驚かれても困る。
なぜかゲームとは違って最初からそこそこの強さだったが、今回遭遇した魔族たちは、所詮は「下級魔族」の「半覚醒」状態に過ぎない。
たとえ完全に覚醒状態になったとしても、より上位の魔族からしてみれば、その強さはミジンコみたいなものだ。ルシアやリィーンたちには、そんな上級魔族や「魔神」たちを倒せるようになってもらわねばならないのである。
「まあ、何だ……とりあえず、迷宮を出ようか?」
とはいえ、話は後だ。
こいつらの他にも魔族がいるかもしれないし、そもそも迷宮の中は落ち着いて話ができる環境じゃない。俺が迷宮をさっさと出ようと告げると、全員が頷いた。
「そうですね」
「はい、わたくしにも異論はありません」
「うむ、そうだな」
「良し、じゃあ、さくっとボスを倒すか」
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