【36】ルシア無双する
本日二話目につき、読み飛ばしにご注意ください。
『万魔殿』五階層。
その一画にある小さな部屋。
「グギャァアアッ!!」
俺たちが中に入った瞬間、毛むくじゃらのグレムリンが高速で飛翔してくる。
そしてその小さな手に光の球体を発生させると、弾丸のように撃ち出して来た。魔法のダメージを与えると同時に「混乱」の状態異常をもたらす魔法の弾丸だ。
それをギリギリで回避したルシアがグレムリンに接近。急旋回して距離を取ろうとしたグレムリンに剣を振るって一刀両断にした。
だがその瞬間、ルシアの影から何かが飛び出してくる。
影が立体と化したかのような、不定形の魔物――シャドウストーカーだ。
シャドウストーカーは自らの先端を鋭い槍のように尖らせ、ルシアを串刺しにしようと勢い良く襲いかかる。
それに気づいたルシアが回避するより先に、俺はスキルを発動させた。
アクションスキル――【アサシンエッジ】
シャドウストーカーの背後に高速で移動した俺は、実体化したその影に向かってククリ刀を振るう。その一閃にてシャドウストーカーは魔力へ還元され、魔石を床にドロップした。
「ヴァンさん!」
「ルシア、来るぞ!」
一見して奇襲してきた魔物を全て倒したように見える。だが俺は、小部屋内に濃密な魔力が充満しているのを感じた。良く見れば空間が陽炎のように歪んで見えるほどの魔力だ。
次の瞬間、小部屋内いっぱいに大量の魔物が一斉に発生した。
その数、おそらく30体は超えるだろう。
ここはモンスターハウスだったのだ。
「グギャァアアッ!!」
「ギィイイイイッ!!」
「グルルルルルッ!!」
「半分は任せる!」
「はい!」
俺たちは部屋の中央で背中合わせに立ち、互いに正面の敵を受け持つことにする。
アクションスキル――【クロスインパクト】
左右のククリ刀を大きく交互に振り抜き、虚空に巨大なバツ印を描く。ソウルによって構築された交差する二本の斬撃が前方へ向かって飛翔する。
猛然と襲いかかってくる大量の魔物たちに、俺がノックバック効果のあるアクションスキルを喰らわせれば、ルシアも同時に同様の効果を持つスキルを繰り出していた。
アクションスキル――【ブレイブインパクト】
大きく振り抜いた剣から前方へ向かって光輝くエフェクトと共に衝撃波が迸る。ダメージはそれほどでもないが、魔物たちは弾き飛ばされ、勢いを失った。
そうなれば後は各個撃破だ。
俺は魔物の群れの中へ飛び込んで、縦横無尽に刃を振るった。当たるを幸いに刃を叩きつけ、それで回復したソウルで惜しむことなくスキルを次々と発動する。
SR以下の双剣キャラで発動できるアクションスキルに強力な範囲攻撃は存在しない。一体一体を確実に仕留め、それでも周囲を取り囲まれたら――、
アクションスキル――【シャドウエッジ】
スキルの高速移動でその包囲から脱出した。
そうして囲いの外からスキルを放ち、魔物の群れを殲滅していく。この程度の魔物相手に、今さら苦戦する要素はなかった。
だが、驚くべきはルシアの活躍だろう。
「はぁああああっ!!」
魔物の群れを吹き飛ばした直後、気合いの声と共にスキルを発動する。
スペシャルスキル――【シャイニングソードレイン】
ルシアの周囲に幾本もの光で出来た長剣が浮かび、派手派手しいエフェクトと共に魔物たちに向かって飛翔した。着弾した光の剣が魔物を貫き、そして爆発する。
【シャイニングソードレイン】――「効果:通常攻撃比150%の範囲攻撃×6回。スキル発動後、自身の攻撃力30%上昇」
さすがは主人公と言うべきか、SRキャラにも匹敵する効果のスペシャルスキルだ。
大量にいた魔物がルシアのスキルによって次々と殲滅されていく。
殲滅力だけなら、明らかに俺よりも上だろう。プレイヤーの意地として何とかほぼ同時くらいに魔物の群れを倒し切ったが、危ないところだった。
全ての魔物を倒し終え、それでも念のために周囲を警戒すること数秒。どうやら間違いなく魔物を殲滅できたようだと判断する。
「……良し、魔石を拾って次に行くか」
「はい、了解です」
息切れしそうになるのを我慢して平静な顔を装って言うと、息一つ乱していないルシアが頷いた。
出会ってまだ一ヶ月も経っていないというのに、ずいぶんな成長ぶりである。
魔石を拾いつつルシアの様子を横目で窺いながら、俺はだからこそ、内心でとある考えに思い至っていた。
もしかしたらだが、ルシアの能力値はゲームでのそれを上回っているのかもしれない――と。
ゲームでは主人公はRランクであり、プレイヤーにガチャを引かせるためにも低い能力値に設定されていた。しかし、主人公はまだ目覚めてはいないが強大な力を秘めている、という設定があるのだ。
【歴戦のホブゴブリン】の「歴戦」という設定が現実化していたように、覚醒していない現在でも、ルシアの潜在能力が何らかの形で顕在化していてもおかしくはない。
とすると、明らかに早い成長速度にも納得できる。
そしてもしもそうなら、予定よりも早い段階で覚醒イベントをこなせるかもしれない。何しろ覚醒イベントは主人公独力でクリアしなければならないクエストであり、仲間の力を借りることができないのだ。
つまり逆に言えば、主人公さえ育っていればクリアすることができる。
(まあ、何にせよ出来る強化をした後になるけどな)
今はとにかく限界突破してレベルをカンストさせるのが先決だろう。
そう思い定めて魔石を拾い終えると、俺たちは魔物を求めて次のモンスターハウスへ移動した。
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