【34】万魔殿
本日二話目につき、読み飛ばしにご注意ください。
迷宮都市パンデモニウムに入った翌日、宿でたっぷりと休息を取った俺たちは、さっそくとばかりにダンジョン『万魔殿』へやって来ていた。
『万魔殿』はパンデモニウムの中心に入り口が存在する地下神殿型のダンジョンであり、大地にぽっかりと開いた巨大な穴の側面に螺旋状の階段が設置されている。
一階層目へ降りるだけでも一苦労な長い階段を地下へと降り立つと、そこには荘厳な石造りの巨大な廊下がどこまでも続いていた。
『万魔殿』は長い廊下と小部屋、それから大広間と呼ばれる空間で構成されたダンジョンだ。奥へ進むための道順こそ複雑だが、凶悪な罠などは存在しない――というか、数少ない罠もゲームと同じならば看破することができるので、問題はないはずだ。
それと『魂の修練場』や『ゴルディアス鉱山』とは違い、この遺跡は地下でも光源がある。所々に設置された燭台型の魔道具が、地下神殿内を薄暗くも照らしているのだ。
ちなみにこの魔道具だが、設置された壁から取り外すことはできないようになっている。ゲームでなら単なる破壊不能オブジェクトに過ぎないが、この世界では無理矢理壊して取り外しても、魔力に還元されて消えてしまうらしい。
なので『万魔殿』に来る前に寄ってきた冒険者ギルドでも、ダンジョン内の照明用魔道具は壊さないようにと注意を受けた。
あ、それからなぜ冒険者ギルドに寄ったのかと言うと、『万魔殿』に入る許可証を貰うためだ。冒険者ならば簡単に許可は出るが、資源採掘場の側面がある『万魔殿』に入るには、パンデモニウムの行政または冒険者ギルドが発行する許可証が必要となるのである。
「――せっかく別の都市に来たっていうのに、観光もせずに迷宮へ直行だなんて、どうかしてるわ」
『万魔殿』地下一階層。
長い階段を降りて地下へ辿り着いた瞬間、ベルが今日何度目かの文句を言った。
「そもそもここに来るのが目的だろうが。それに観光がしたいなら、目的を果たした後に好きなだけすれば良いだろ」
若干うんざりしながら言い返す。
それから周囲をぐるりと見渡した。
見える範囲に魔物はいないが、ここはもう既にダンジョンの中だ。気を抜くわけにはいかない。俺は腰の後ろから二本のククリ刀を抜き放ちながら、ルシアにも武器を抜くように促した。
「ルシア、いつでも戦えるようにしとけ。ここには奇襲してくる魔物もいる」
「はい、了解です」
頷き、長剣を抜くルシア。
「じゃあ、行くぞ。出現する魔物については歩きながら説明する」
ルシアを先導して奥へ進みながら、俺は簡単に『万魔殿』に出現する魔物について説明した。
『万魔殿』はデーモン系の魔物が出現するダンジョンだ。その種類は多岐に渡るが、俺たちが目的とする地下五階層までの魔物について説明していく。
五階層までなら比較的敵も弱く、その種類も少ない。
フロートアイ――宙に浮かぶ巨大な眼球の魔物で、麻痺や盲目などの状態異常攻撃を使う。
グレムリン――小さな翼の生えた毛むくじゃらの悪魔で、大きさは犬くらい。アイテムやスキルを使用すると暴発する「混乱」の状態異常を使う。
シャドウストーカー――変形する影の魔物で、非常に見つけにくい。気がついた時には自分の影に擬態されており、奇襲されることが多い。影に潜んでいる時には物理攻撃は効かないが、実体化している時には普通に攻撃することができる。そしてシャドウストーカーの奇襲攻撃はクリティカルを喰らい易く、注意が必要だ。
ミミック――悪魔とはちょっと違うかもしれないが、『万魔殿』に多く出現する魔物の一つだ。宝箱や採取ポイントに擬態して、近づいた者に襲いかかる。ちなみに『万魔殿』は5割くらいの確率で宝箱はミミック。
ガーゴイル――悪魔というより本来は魔除けのはずだが、ソルオバでは悪魔系の魔物だ。石像に擬態しており、急に襲いかかって来る。五階層までに出現する雑魚敵の中では文句なしに最強であり、物理防御力が非常に高い。序盤では魔法使いキャラで戦うことが推奨される。
「――とまぁ、こんな感じか」
「面倒な魔物が多いですね……」
「っていうか、状態異常にしてくる奴か奇襲してくる奴しかいないじゃないの!」
俺の説明を聞いたルシアたちも、さすがに顔をしかめている。
色んな意味で面倒くさい敵しかいないのが『万魔殿』の特徴だが、まだ浅い階層なので悪辣さはそれほどでもないのだが。
「ガーゴイル以外は、油断しなければルシアでも問題なく倒せるはずだ」
「ガーゴイルは無理ですか?」
「無理ってわけじゃないが、倒すまでにかなり時間は掛かるだろうな。『万魔殿』は周回する必要があるから、今回はガーゴイルが出たら俺が倒す」
「分かりました。でも、周回って……確か、同じボスを何度も倒すことを繰り返す、んですよね? 『万魔殿』のボスはすぐに復活するんですか?」
俺の言葉に頷いたルシアだったが、おそらくコフウ遺跡での一件を思い返してだろう。怪訝そうに首を傾げた。
「ああ、ダンジョンにはコフウ遺跡みたいなフィールド型と、万魔殿みたいな迷宮型がある。この内、地下に何階層も続く迷宮型の場合、道中のボスはすぐに復活するみたいだな」
「へぇ、そうなんですか」
もちろんゲームではどちらもすぐにリポップしていたが、この世界では後者だけがすぐにリポップする対象であるらしい。そして後者の迷宮型ダンジョンであっても、最深部のボスを倒すとしばらくリポップしないのだとか。
この知識はヴァン・ストレンジに元々あったし、冒険者ならすぐにギルドで調べることもできるだろう。
ともかく、だいたいのところは説明し終えて、俺たちはいよいよ探索に集中することにした。
タイミングが良いのか悪いのか、ちょうど魔物も現れたみたいだしな。
宙に浮かぶ大きな眼球の魔物、フロートアイだ。
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