【27】ああ、ヤったよ
翌朝。
俺はルシアたちと共に冒険者ギルドへ向かった。
いつもより早い時間帯であるためか、まだ朝のピークは過ぎておらず、内部は大勢の冒険者たちで非常に混雑していた。
俺たちは長い列の一つに並んで一緒に順番を待つ。
この後の予定はすでに決まっているので依頼を請けるわけではないのだが、二点ばかりギルドへ報告することがあるのだ。
そうして遅々として進まない列で待機していると、「あっ!?」と大きな声が響いた。
「あんたら! 無事だったのか!?」
「良かった!」
「怪我とか大丈夫か!?」
見れば、人混みを掻き分けて三人組の冒険者たちがこちらへやって来るところだった。
「ん? 昨日の奴らか」
冒険者たちはルシアに助けられたという少年たちだった。彼らは近くにやって来ると、特にルシアへ心配そうな視線を向ける。
対してルシアは微笑みつつ頷いた。
「はい。ボクは大丈夫ですよ」
「アンタらも無事で良かったわね!」
「ああ、君のおかげだ」
「昨日は本当に助かった」
「あんたらは命の恩人だ。このお礼は必ずするよ!」
少年たちは礼を述べながら、次々とルシアに感謝するように握手を求める。
「そうだ! 俺たちは冒険者パーティー「草原の翼」って言うんだ」
「何か困ったことがあったら絶対力になるからさ! 覚えていてくれよな!」
「君たちの名前も教えてくれないか?」
ルシアの方を向きながら少年たちは口々に言う。
そんな彼らの様子を見ながら、俺は内心で唸っていた。もしかしなくてもこいつら、気づいてるんじゃないのか? その場合、俺の目が節穴なのか、こいつらが鋭いのか……。
「えっと、ボクは、ルシア」
「アタシはベルよ!」
「俺はヴァンだ」
「そうか、ルシアか……」
「ルシア……良い名前だ」
「あの、ルシア。良かったら、俺たちのパーティーに入らないか? 君なら大歓迎なんだが」
「……」
こいつら、ルシアしか眼中にねぇ。
間違いなく少年たちはルシアが女だということに気づいているようだな。顔が逆上せてやがる。
俺はルシアが何か言う前に、一歩前に出た。
「残念だがそいつは無理だ」
「え……?」
そこで少年たちはようやく俺の方に顔を向ける。
そしてなぜか俺の顔を見るとびくりとした。明らかに「やべぇ奴に絡まれた」みたいな顔をしているが、俺は普通の顔をしているんだが。逆に失礼じゃない?
……まあ、ヴァン・ストレンジのキャラデザは多少目つきが悪いから仕方ないか。
「な、なんで、ですか?」
「ルシアは俺とパーティーを組むことになってんだ。新メンバーが欲しいんなら、他を当たるんだな」
実は今日、ギルドへやって来た目的は【歴戦のホブゴブリン】討伐の報告の他に、ルシアとのパーティー申請を行うためでもあった。
ギルドに誰と何人でパーティーを組んでいるか、という情報を提供するのは依頼を斡旋してもらう上で重要なことだ。それゆえに冒険者にはパーティー申請の義務があった。
まあ、それはともかく。
そもそも少年たちの実力ではルシアの冒険に付いて行くことはできないだろう。確実に死ぬだろうし、何だったら足手まといになってルシアを死地に追い込むことにもなりかねない。それは俺としても到底看過できることではなかった。
残念だが多くの冒険者たちよりもルシアの方が大事だ、というのが俺の偽らざる本心なのだ。実力の足りない仲間のためにルシアが危険に晒されるようなことがあってはならないし、ルシアの事情に巻き込まれて少年たちが死んでしまうような事態も、また防ぐべきだろう。
ルシア自身がどう思おうが、ここは心を鬼にして断っておくべき場面だ。無論、相手がSSRキャラなら全力で引き込むが。むしろ逃がさないが。
対する少年たちは反発するように何かを言おうとした。だが、その一瞬前、
「えへへ、そういうわけなんです」
「「「!?」」」
ルシアがそう言った瞬間になぜか衝撃を受けたような顔を浮かべる少年たち。
あぐあぐ、と何か言葉を口にしようと開閉して、しかし、結局は食い下がることなく諦めたように項垂れてしまった。
「そう、なんだ」
「わ、わかった」
「残念だけど、今回は諦めるよ……」
やけに物分かりが良い奴らである。いったい今の瞬間に何があったのか。
「で、でも、何かあったら、遠慮なく頼ってくれよな!」
「はい、その時にはお願いしますね」
ひきつった笑顔で爽やかそうなセリフを言うと、少年たちはぎくしゃくとした動きで去って行った。
「哀れね……」
そしてなぜか、ベルが可哀想なものでも見るように少年たちの背を見送っていた。
●◯●
「あら、珍しいわね。二人で一緒に来るなんて」
並んだ列の受付嬢は、偶然にもミランダだった。
いやもしかして、偶然ではなくルシアの運命力がそうさせたという可能性も否定できないのだが――ともかく、連れ立ってやって来た俺たちにミランダは意外そうな顔を向けた。それから「んふふ」と意味深に笑って、
「もしかして、昨日何かあったのかしら?」
と聞いてきたので、俺は「ああ」と頷いた。
流石はギルドの受付嬢だ。どこからか既に情報を掴んでいたらしい。それでも半信半疑ではあったらしく、ひどく驚いているが。
「ええっ!? 嘘っ!? まさか、冗談だったのに! そういうことなのッ!?」
いやそれにしたって驚きすぎじゃない?
尋常ではない驚きように若干引きつつも、俺はしっかりと肯定する。
「ああ、昨日、ボッカ草原で【歴戦のホブゴブリン】と戦った」
「…………」
なぜか恐ろしいほどの沈黙。
途端に真顔となったミランダは、俺から視線を逸らしてルシアを見た。
「ルシアちゃん?」
「ええっと、ヴァンさんの言う通りです」
「……他には?」
「特に、ありません」
ミランダは「はあー」と深くため息を吐く。やはりルシアが【歴戦のホブゴブリン】と戦うなど自殺行為だと判断したのだろう。呆れてしまうのも無理はない――と思ったのだが、そういうことではなかったらしい。
「何よ、てっきり私は、ルシアちゃんが遂に女になったのかと思ったのに」
「いや、ルシアは女だが?」
気づいてたんじゃなかったのか?
だいたい女になるって何だよ。この世界、性別が変わったりするのか? だとすると、俺もいつかヴァン子になってしまうのかもしれない――と考えたら恐ろしいな。意外とクールビューティーになってモテたらどうしよう?
「そういうことじゃないわ。あなたがルシアちゃんと一緒の夜を過ごしたと思った、ってこと」
「……? まあ、昨日は俺の家に泊めたが」
「ええっ!? じゃあ、ヤったの!?」
「ちょっ、ミランダさんっ!?」
ミランダが身を乗り出して問い、ルシアが慌てたようにその口を塞ごうとした。
いきなり何を興奮しているのか。ヤったとは……恐らく、【歴戦のホブゴブリン】を殺ったのか、ってことだよな? あいつはこの辺の冒険者たちにとっては凄まじい強敵だろうから、それを倒したということに驚いてもおかしくはないか。
俺は頷いた。
「ああ、殺ったよ」
「ええ!? ヴァ、ヴァンさん!?」
なぜかルシアが俺の方を信じられないとばかりに振り返るが……いや、ルシアの目の前で倒したはずなんだが、何でそんなに驚くの?
対してミランダは、ルシアに戦慄の眼差しを注いでいる。
「お、おめでとう、ルシアちゃん……っ! まさかこんなに早く成し遂げてしまうなんて、お姉さん、ルシアちゃんのことを見くびってたわ……っ!」
「ち、違いますよミランダさん!」
慌ててルシアが否定しようとする。たぶん、自分が倒したんじゃないって言いたいんだろうな。
確かに倒したのは俺だが、ルシアが三人組の少年たちを助けたことも事実だし、【歴戦のホブゴブリン】相手に俺が来るまで時間稼ぎができたのはルシアの実力があったからこそだ。
だとするなら、ルシアも一緒に戦ったと判断しても良いんじゃないだろうか?
確かに無謀な挑戦は褒められたことではなくとも、ルシアの頑張りは認められて然るべきだ、と俺は思った。だから俺は必死に否定しようとするルシアの肩を落ち着かせるようにポンポンと叩く。
「ルシア、そう否定することもないだろう? 俺とお前で殺ったことは確かだ」
「ヴァンさん!?」
「や、やっぱり、二人でヤったのね……!」
「まあ、確かに少しばかりルシアは無茶してたがな」
「ヴァンさん!?」
「ええっ!? ルシアちゃんの方が、無茶を……!?」
「ああ、危ないところだった。もう少しで(ルシアがあの世に)逝っちまうところだったな」
「ヴァンさん!?」
「そっ、そんなに激しく!?」
「ま、最後には向こうの方をきっちりと逝かせてやったわけだが」
「向こうの方(ルシアちゃんの方)を!? く、詳しく教えて!」
「詳しくって言われてもなぁ。……まあ、諦めずに攻め続けて、蓄積させたダメージで、最後には一気に……ってところだな」
「諦めずに責め続けた……ってわけね!? でもそれだと、意外にも主導権を握ってたのは向こう(ルシアちゃん)の方だったのかしら!?」
「ああ、実際には最初から最後まで翻弄されっぱなしだった。一つ何かが違えば、(あの世に)逝ってたのは俺の方だったはずだ」
「うっ……ふぅ。そう、そうなの……ルシアちゃんってば、うぶな見た目と違って、テクニシャンだったのね……っ!!」
俺が駆けつけるまで【歴戦のホブゴブリン】の攻撃を回避し続けたことを言っているのだろう。どうやってその情報を掴んだのかは知らないが、ギルドもやるもんだぜ。
「ああ、今じゃあルシアに敵う奴はそうそういねぇよ」
そこでルシアを見てみれば、褒められたことが恥ずかしいのか、俯いて肩を震わせていた。
そして顔を上げると俺を睨むように見据え、叫ぶように言う。
「ヴァンさんはもう口を開かないでください!!」
――なんでだ!?
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