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【24】描写されない主人公の心


 ルシアたちは小さな村で暮らしていた。


 山間にあって人の往来も少ない、田舎の村だ。


 一緒に暮らしていたのはルシアと、その育ての親である養父クロード・エクレール。そして幼い頃に森で助けて以来、一緒に暮らすようになった妖精ベルの三人だ。


 ルシアはクロードから剣と行儀作法を習う以外は、本当に普通の子供として育てられたらしい。


 実はルシアの出生に関しては色々な秘密があるのだが、今の時点でルシア自身は知らない。というより、クロードから教えられていない、というべきか。


 だが、田舎の村で暮らしているのに剣や行儀作法などを仕込まれていること、そしてクロードが実の父親ではないことなどから、ルシアとしても「何か理由がある」というくらいのことは、薄々感じているようだった。


 だが、穏やかながら幸せな毎日に、あえて波風を立てることもなかろうと、結局は聞かず仕舞いだった。


 それでもいつかはクロードから話してくれると思っていたらしい。


 しかし、その機会は永遠に失われた。


 ある日のことである。


 ルシアからしてみればまったくもって唐突に、何の予兆もなく、あるいはそれを気づかせないように行動していたのだろう――怪しい五人組の男たちが、ルシアたちの暮らす村を訪れた。


 男たちはある日の夜間、闇に紛れてルシアたちの家を襲撃した。


 いち早く気づいたクロードが応戦する。ローブを羽織り、深くフードを下ろした怪しい風体の男たちは、だが強かった。


 剣を習っていたとはいえ、実戦経験などろくにないルシアは、クロードと男たちの争いに割って入ることはできなかった。ただクロードの後ろに下がり、震えて見守るだけだったという。


「もしもボクがもっと強かったら、父さんの足手まといにならなければ、父さんは死なずに済んだかもしれません」


 今にも死にそうな顔で、過去を思い出しながらそう呟く。


 男たちは確かに強かったが、クロードはそれ以上に強かった。初めて本気で戦う父親の姿を見て、こんなに強かったのかと、ルシアは驚いたという。


 ともかく殺し合いである。戦いはそう長くは続かなかった。


 クロードは男たちを次々に倒し、勝利した。


 だが、クロード自身も無事では済まなかった。


 それまで動けていたのが不思議なほどの重傷を負っており、男たちを全員倒した直後には、クロード自身も倒れてしまったのだ。


 父親に駆け寄り抱き起こしたルシアは、一目でクロードがもう助からないことを悟った。


 高価な上級治癒ポーションや治癒術師がいても、結果は同じだっただろう。すでに流れ出てしまった血の量は、致死量を超えていたのだ。


 泣きながら自分に縋るルシアへ、クロードは血だらけの手で頬を撫でながら、最期の言葉を告げる。


「ルシア……お前は、強くなって……自由に、生きなさい……幸せに……」


 ルシアの出生の秘密を最期まで喋らなかった理由は、俺には分かっている。クロードはルシアに、過去の因縁に囚われず幸せに生きてもらいたかったのだ。


 そうしてクロードは死んだ。


 それからルシアたちは、半ば村を追い出されるように後にしたのだという。断じてルシアたちに罪があるわけではないが、田舎の小さく平穏な村に厄介事を持ち込んだルシアたちに、村人たちは良い顔をしなかったのだ。


 ルシアも父のいない故郷に未練はなく、村を出て王都ミッドガルドまで出てきた。


 クロードの遺言である「自由に生きろ」という願いを叶えるべく、習っていた剣の腕を活かすためにも冒険者になった。だが、それにはもう一つの理由がある。


 冒険者として経験を積めば強くなれる。


 襲ってきた男たちは全員クロードが殺してしまったが、奴らが単なる盗賊などでないことはルシアにとっては明白だった。


 あれだけの腕を持ち、高度な連携を用いて戦うような相手が、賊に落ちているなど考えがたい。男たちが身につけていた物に所属が分かるような物は何もなかったが、その後ろには確実に何らかの組織が関与しているだろうと。


 それが何かは分からない。


 分からないが、冒険者として活動していれば、いつか知ることができるかもしれない。そして冒険者として経験を積んでいれば、その時まで強くなっていれば、そいつらに復讐を果たすことができるかもしれない。


 そのために我武者羅に強くなろうとした。


 その結果が、【歴戦のホブゴブリン】に挑むという愚行だった。


「……」

「……」


 全ての告白が終わり、沈黙が落ちる。


 ルシアの語った復讐の理由――過去の出来事は、やはり俺が知っているソルオバの導入部分と同じだった。でも、俺はルシアの過去を知っていたにも関わらず、ルシアが復讐を考えているなど思いもしなかった。


 なぜか?


(俺は……馬鹿か)


 何度も自分で「ここはゲームではない。現実だ」と思っていたはずなのに、ルシアのことを「ソルオバの主人公」というレッテルを貼って見ていたからだ。


 主人公は喋らない。


 だからソルオバの主人公が実際に何を考え、どう思っていたのかなど、知りようがない。そのわずかな手がかりといえば、沈黙のセリフの横に表示された主人公のイラスト、その表情の変化だけだ。


 そして主人公自身も、復讐に燃えているといった行動はしていなかったのだ。


 だが、本当にそうだろうか?


 ストーリーが進めば、否応なく襲撃者たちの黒幕と対峙することになる。その時の主人公の表情は、確かに怒りに彩られていたはずだ。


 ここがゲームではなく現実で、そこに生きる人々もそれぞれに自我がある。感情がある。ならばルシアが父親を殺した者たちへ復讐したいと考えるのも当たり前ではないか。


 そんな当然のことを見落としていたのは、やはり俺がルシアを「主人公」として見ていたからだろう。


 それではいけなかったのだ。俺はルシアをルシアという一人の人間として見なければいけなかった。そうであれば、「主人公には関わらずに生きよう」などと思うこともなかったはずだ。


「……話は、分かった」


 頷き、俺は一つの決断をした。


 復讐うんぬんの是非はさておき、今のルシアは非常に危うい。このままではいつか命を落としてしまうだろうと感じていた。


 主人公だからではなく、それなりに親しい人間が無茶をして死ぬかもしれないと分かっているのに、見て見ぬ振りをするのは寝覚めが悪い。


 かと言って、他人が復讐なんて止めろと言ったところで、素直に止めるわけはないだろう。家族を殺された者の気持ちなど、その本人にしか本当のところは分からないのだ。だが少なくとも、簡単に止められるような軽い気持ちでないことだけは分かる。


 ならば俺にできるのは、一つだけだ。


「ルシア、俺がお前を強くしてやる」


「え……?」


 不思議そうな顔をするルシアに、続ける。


「いつかお前が復讐相手に出会った時に、お前が死ななくても済むように、俺が強くしてやる」


 ルシアが復讐しようとすることは止められない。


 ならば俺にできるのは、その時に死なないようにルシアを強くしてやることだけだ、と思ったのだ。


 ソルオバの知識を持つ俺ならば、それができるはずだから。


 だが、一応釘は刺しておく。


「ただ、勘違いするなよ? 俺はお前を復讐のために強くしてやるわけじゃない。今日みたいにお前が馬鹿をやって死なないように強くするんだ」


 ルシアは「は、はい!」と戸惑いながらも頷いた。それから「ありがとうございます」と頭を下げる。しかし、上げた顔から戸惑いは消えてはいなかった。


「ヴァンさん……あの、でも、何で急に……? ヴァンさんは、ボクと関わるのが嫌なのかと思っていました」


「う……っ!」


 ルシアの言葉に思わず口ごもる。


 なるべく態度には出さないように気をつけていたつもりだが、やはり薄々感じてはいたらしい。


 さて、何と答えるべきか。


 お前に死なれると困る、と正直に言っても、なぜ困るのかということになるよな? そんで「お前がいないと世界がヤバイ」と馬鹿正直に答えたら、俺の正気を疑われかねない。


 ならば、ここは感情論で押し通すことにした。それならば理由なんて追及できないからな。


「お前に死んでほしくない。ただそれだけだ」


「へ……? そ、そそ、それって……ッ!?」


 ルシアがなぜか顔を赤くして慌て出す。


 が、俺はそんなことを気にしてはいられなかった。ルシアを強くする――ということは、積極的に本編のストーリーに関わることを決意した、という意味でもある。


 ルシアはもちろんとして、俺自身も死なないために、本格的に強化していく必要があるのだ。


 これから忙しくなるぞ……!


 そして善は急げとばかりに、俺はアイテム袋の中からとある物を取り出した。


 それは拳一つ分くらいの大きさの結晶体で、【歴戦のホブゴブリン】を倒した時に残ったドロップアイテムだ。今からこいつをルシアに使う。


 俺はなおもわたわたとしているルシアに、真剣な顔で告げた。


「ルシア、服を脱げ」



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