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【23】強さへの渇望

本日二話目につき、読み飛ばしにご注意ください。


「わあ、ここがヴァンさんの家なんですね」


「すっごいボロボロね!」


「悪かったな、ボロボロで」


 夜。


【歴戦のホブゴブリン】との戦いを終えて、俺たちは王都へ戻って来ていた。


 戦いの後、万一のために購入していた下級ポーションで全身の傷をとりあえず塞ぎ、ヒットポイントを回復させるためにルシアにも飲ませた。


 そうして応急処置を施してから王都まで何とか戻り、治療所へ行って魔法で本格的な治療を受けたのだ。


 その甲斐あってルシアの左腕の骨折もきれいに治り、後遺症の類いも残らなかった。俺の脇腹も無事に治療してもらったわけである。


 なお、ルシアは治療代が払えなかったので、俺が立て替えておく。おかげで治療代がえらいことになってしまったが、このあと金が入る予定もあるし、まあ良いだろう。ルシアもずいぶんと恐縮していたし、コイツが借りた金を踏み倒すような人間にも思えないしな。


 そんなこんなで治療所を出た頃にはすっかり日も沈み、今日はさっさと帰ることにしたのだが――治療が終わったのがそれなりに遅い時間だったためか、いつもルシアたちが泊まっている安宿は、部屋が埋まってしまっていた。


 他の宿を探そうにも、どこも似たようなものだ。頑張って探せば空いている宿はあるだろうが、今から探したのでは何時になったら休めるのか分かったものではない。それに俺はルシアに聞きたいことや言いたいこともあったので、


「泊まるところがないなら、ウチに来るか?」


 と、提案したのである。


「――へ? ヴァンさんの家に……ですか?」


「ちょっとアンタ! ルシアに何するつもりよ!」


 なぜか、ルシアは顔を赤らめてモジモジしていたし、ベルは意味の分からん怒り方をしていたが。


 っていうか、逆に何をするつもりだと思ってんだ。


「何もしねぇよ……嫌なら別に来なくて良い」


「行きます!」


 ルシアは食い気味で頷き、ベルは渋面を作って腕を組んだ。


「まあ、今から宿を探すのは億劫だしね。……良いわ! アンタのところに厄介になってあげる! けど! 変なことしたら許さないんだからね!」


 と、何とも上から目線で許可を出した。


 いや何様か。


 突っ込むのも面倒なので何も言わないけど。


 ともかく、その後俺たちは夜まで営業している食堂兼酒場で軽く晩飯を食い、それからスラムにある俺のあばら家へとやって来たわけである。


「まあ、入れよ」


「お、お邪魔します」


 廃墟のような見た目のボロ家の中にルシアたちを通し、アイテム袋からランタンを取り出して明かりを点けた。


 そしてこの家にある唯一の椅子にルシアを座らせ、俺はその対面に木箱を持ってきてそれに腰掛ける。


「んで」


 それからさっそくとばかりに、口を開いた。


「なんであんな無茶したんだ? 勝てないのは分かりきってただろ?」


 聞きたいのはそれだ。


 先に襲われていたという冒険者たちを助けるにしても、自分の命を危険に晒す必要があったのか。


 ――いや、違う。


 命を危険に晒してまで、見知らぬ他人を助ける必要があったのか。自分の命を軽視しているようなルシアの行動に、俺は怒っていたのかもしれない。


「……それは」


 と、俯いてルシアは話し出す。


「ヴァンさんの言う通り、勝てないのは分かってました。でも……」


 あの冒険者たちが死ぬのを、見捨てることができなかったのか。


 何しろルシアは主人公だもんな。理由などなくとも、他人を助けるのは当然だ、とか思っているのだとしても驚かないぜ。


 そんなふうに予想した俺の考えは、しかし間違っていたらしい。


「ボクは……強くなりたいんです」


 ルシアが顔を上げて俺を見返す。その表情は頑なな決意に彩られていた。


「強くなるために……強敵と戦うチャンスを逃したくなかったんです」


「はあ……?」


 思わずあんぐりと口を開けてしまった。何と言えば良いのか分からない。それはあまりにもルシアの印象とかけ離れた答えだった。


 確かにルシアは俺の教えた訓練を真面目に行っていた。ろくに休むこともなく、目の下に疲労で隈を浮かべながらも。


 だがそれはルシアが元来真面目な性格だからで、まるで戦闘狂みたいに強さに貪欲だから、などとは考えもしなかったのだ。自ら言葉を発することはなかったとはいえ、ソルオバの主人公がそんな性格をしていた、なんて描写はゲームにはなかったから。


 だが思えば、初めて会った時から、その片鱗は見えていたのかもしれない。


 ルシアは『魂の修練場』にいた。その理由は「早く強くなるためにはここで戦うのが良い」と聞いたから。確かにそんなことを言っていたではないか。


 つまり、最初からルシアは強くなりたがっていたのだ。


「強敵と戦えば、命の危険を間近に感じるような戦闘を経験すれば、もっと強くなれると思ったんです」


「ルシア……」


 迷いなくそう言い切るルシアに、そばに浮かぶベルが悲しそうな瞳を向けていた。


 俺は発覚した衝撃の新事実を、すぐには上手く咀嚼できなかった。だが、しばらくして、ようやく口を開く。


「なんで、そこまでして強くなりたいんだ?」


 強くなるために死ぬかもしれない強敵に自ら挑むなど、絶対に普通ではない。常識的に考えれば、あまりにも馬鹿げた行動だ。


 だが、その愚行を実際に行ってしまうほどの理由が、ルシアにはあった。


 いつも浮かべている柔らかな表情を完全に消し去って、どこか暗く沈んだ表情でルシアが言う。


「復讐のためです」


 と。


 そうして語り出したのは、ルシアが冒険者となる少し前の出来事。ソーシャルゲーム『ソウル・オーバーライト』において、導入部分となる最初の物語。


 平和な村で穏やかに暮らしていたルシアたち家族を襲った、悲劇の話だ。



お読みいただきありがとうございます!

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