【19】古代闘技場の主
「――グォオオオオッ!」
気合いの雄叫びと共に「古代闘技場の主」は大振りだが素早い剣撃を繰り出してくる。
剣の切り返しも速く、それが両腕二本分ともなると目にも止まらぬ連撃だ。だが、それ以上に長大な尻尾すら利用した変則的な攻撃モーションは、慣れていないと少々やり辛い。
しかし、コフウ遺跡に出現する魔物はそもそもリザードマンが多く、ここに来るまでにリザードマンたちの特徴的な戦い方には目が慣れていた。
大振りの攻撃をステップで回避しながら懐に潜り込み、【スティール】を発動する。
「ッ!? こうなるのかよ!」
その瞬間、俺の左手が「古代闘技場の主」の体の中に潜り込んだ。
地味にレイス以外へ【スティール】を発動するのは初めてだったために驚いてしまったが、これでこの世界における【スティール】の仕様を、何となくだが理解する。
抜き出した手の中には何もなく、スキルが失敗したことを悟って素早く主から離れた。
「グルルルルッ!!」
ヘイトが溜まって怒ったのか、激しくなる主の猛攻を回避し続けながら、今しがた理解したことを咀嚼していく。
そもそも魔物の肉体や装備品は、その魔物を倒すと魔力に還元されて消えてしまう。にも関わらずアイテムがドロップするのは、その魔物の中でも特に魔力が溜まっている部位――骨や皮や、時には装備品が物質化するためだ、というのがソルオバでの設定だった。
つまり、魔力で構成された魔物の体内に手を潜り込ませ、強制的にドロップアイテムを実体化する――というのが、現実化したこの世界での【スティール】の仕様なのかもしれない。
だとしたら単に「盗む」というよりも、遥かに異質な能力だ。
元々ヴァンが持っているスキルじゃなかったら、「模倣」することもできなかったかもしれない。
だからラッキーだった、とは思えないが。
「それに解ったところでッ! 成功確率がッ! 上がるわけでも、ないのなッ!」
主の攻撃を回避しながら、何度も【スティール】を喰らわせていく。今のところ都合四回。すべてが失敗――というわけでもなかった。
まず普通ドロップたる魂石・中をゲットした。それを素早くアイテム袋の中へ仕舞う。
あとはレアドロップと超レアドロップだが……、
「牙ゲット!」
七回目にしてレアドロップの「魔物の牙・中」をゲットする。ちなみにこれは武器強化の素材だ。
「グルァアアアッ!!」
「シッ!」
そして12回目。
遂に目的の超レアドロップ――指輪型のアクセサリーを盗むことに成功した。
「下振れし過ぎだろ……!」
確率の悪さに悪態を吐きつつも、これでようやく反撃できるとばかりに、腰の後ろから二本のククリ刀を抜いて構えた。
コフウ遺跡はまだまだ序盤のダンジョンではあるが、そのダンジョンボスたる闘技場の主はそこそこ強い。
まあ、強いと言ってもRランクにとっては、という注釈が付くのだが。
それでも60レベルかつ「全ステ20%上昇」を持っている今の俺の敵ではない。
「まずは――!」
真正面からの疾走。
近づくこちらに剣を振るう主の一撃をステップで回避。そのまま主の左側へ抜けたところでカウンターアタックを発動して攻撃を当てる。攻撃した感触は分厚いゴムタイヤにでも斬りつけたみたいであり、ダメージは軽微。ヴァンの攻撃力の低さに泣きたくなりつつも、回避からのカウンターアタックを何度も続ける。
ダメージを与えるのが目的ではない。
「よしッ、回復した!」
【スティール】で消耗したソウルを回復させるのが目的だ。
ソウルは時間経過の他、敵に通常攻撃を当てることで急速に回復する。
後はアクションスキルのゴリ押しで倒せないこともないが、「古代闘技場の主」はヒットポイントの半分を割るとステータスが強化され、行動パターンが変化する。その上、光る刃のエフェクトと共に「飛ぶ斬撃」を繰り出すようになり、一段と手強くなる。
出来ればそうなる前に、一気にケリをつけたい。
「試してみるか……」
俺は一度、主から大きく距離を取るとククリ刀を構え直した。
他キャラのスキルの模倣。
ゲームでは不可能だったそれは、凄まじい可能性を秘めている。その一端を証明すべく、俺は立て続けにスキルを発動していった。
アクションスキル――【シャープエッジ】
アクションスキル――【気闘法】
アクションスキル――【血闘の陣】
アクションスキル――【サイレントステップ】
これらは全て、双剣分類のキャラクターが使用するアクションスキルだ。その効果を上から順に簡単に説明すると――物理属性の中でも斬撃属性のダメージを40%上昇させるスキル、攻撃、防御、敏捷を20%上昇させるスキル、ヒットポイントを最大値の20%分失う代わりに、攻撃力を50%上昇させるスキル、次のスキルを確定でクリティカルにするスキル――である。
これらバフ効果の付いたスキルを発動させ終わったところで、俺は再び闘技場の主へ向かって疾走した。
「グルァアアアアアッ!!」
気合いの声はいらない。
むしろ声一つなく静かに疾走する。【サイレントステップ】の効果なのか、足音さえ存在しない。
大上段から振り下ろされる主の剣撃に身を晒すように深く踏み込み、その刃が触れる直前――
アクションスキル――【アサシンエッジ】
攻撃の挙動もエフェクトも【シャドウエッジ】と同じながら、その効果だけが異なるSRキャラのアクションスキルを発動した。
一瞬で消えるように移動し、主の背後に出現。
俺の眼前へ無防備に晒された主の首筋を薙ぐように、ククリ刀を大きく一閃した。
【アサシンエッジ】――「効果:通常攻撃比300%ダメージ。クリティカル時、さらにダメージ三倍」
その一撃は主のヒットポイントを容易く全損させる。
斬撃の輝線を境に斬り離された主の頭部が、くるくると宙を舞い、その体がどうっと倒れ伏すと同時に光となって魔力へ還元されていく。
「ふぅううう……」
残心のままに長く息を吐き出し、それから構えを解いた。
そして思わずニヤリと笑ってしまう。
現在の俺のステータスでは、本来、闘技場の主をほぼ一撃で倒すことなど不可能なはずだった。だが、数多存在するアクションスキルを組み合わせることで、その不可能を可能にしてしまった。
SSRの異次元っぷりにはこれでも敵わないが、明らかにRランクの強さは超えている。
「これなら、最大強化に持っていけるかもな……」
ソルオバのキャラクターを最大限に強化するには、設定上、どうしてもヒロインの特殊能力が必要となる。だがそのためには、主人公の仲間でなければならない。
なので前世の記憶を取り戻した当初は、この最後にして最大の強化は諦めるつもりでもあった。
だが、アクションスキルの模倣とゲーム知識での効率の良い強化を組み合わせれば、中盤でも後半くらいまではついて行けるかもしれない。
「まあ、そこはもうちょっと慎重に考えてみるか」
ククリ刀を腰の後ろに戻しながら、そう思う。
今すぐ結論を出すことはないだろう。
何しろまだ、ヒロインさえ現れていないのだから。
「……やっぱりルシアがいないと、フラグが立たないのか?」
俺がコフウ遺跡へやって来た目的は、照明石の納品依頼、闘技場の主の超レアドロップ。そしてもう一つあった。
それがヒロインだ。
ゲームでは主人公が冒険者としてある程度経験を積み、ウッソー森林を抜けてコフウ遺跡へやって来ると、そこでヒロインと出会うことになる。それから物語は加速していく……というわけなのだが。
すでにルシアと出会って三週間以上が過ぎている。ゲームと現実では時の進み方が違うとはいえ、こんなに悠長に日々を過ごしていて大丈夫なのか、という思いもあった。一向に進まないストーリーに、俺の方がやきもきしていたのである。
ゆえに、まずは俺が確認するためにコフウ遺跡へやって来たのだが、ヒロインとの邂逅イベントは案の定と言うべきか、起きなかったのだ。
「まあ、焦ることはないか? もうすぐルシアも、ここに来れるだろうしな」
一緒の依頼こそ請けていないが、ルシアにはここ最近も主に戦い方の面について手解きをしていた。以前も疲労が溜まって隈が出来るくらい真剣に鍛練していたルシアのことだ。今では以前とは見違えるほどの成長を遂げていた。
プレイヤースキルと言って良いものかは分からないが、回避とカウンターアタックだけならばかなりの精度で行えるようになっている。
ウッソー森林に出現する多種多様な魔物相手に鍛練を積んだおかげか、今ならば初見の魔物でもある程度は攻撃を回避し続けることができるだろう。
まるで何かに焦っているように鬼気迫るほどの激しい鍛練を積んでいるのだが、むしろ主人公とは強さに貪欲なものなのかもしれないな。
「良し、用事は終わったし、さっさと帰るか。……ルシアも待ってるだろうしな」
ちなみに待っているとは、家で待っているとかではない。
ウッソー森林の依頼を請けているルシアは、なぜか森の外で俺の帰りを待っているのである。俺がコフウ遺跡の依頼を請けるようになってから、ここ数日間毎日ね。
たぶん、弟子として師匠である俺の帰りを待っているとかそういう理由なんだろうが……いや、そもそも弟子にしたつもりもないんだけど。律儀な性格ゆえに、なのだろうか?
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