【18】新たなる目的に向かって
ガッゾ・ファミリーから取り戻した借用書は、後日こっそりと孤児院のラック神父の書斎へ置いておいた。
俺がそのまま返したりすれば「なぜ俺が借用書を持っているのか」と疑問を持たれるだろう。それはまずいので、いつもの如く「義賊ストレンジ」の仕業にしたのだ。
それから数日後に孤児院を訪れ、何気ないふうを装って「これは知られていない話だが、ガッゾ・ファミリーの事務所に義賊ストレンジが押し入ったらしい」とでも言っておけば、そのように思ってくれるだろう。
完璧……かどうかは知らないが、ラック神父からの追及は避けられるはずだ。
いや、実際のところは何か勘づかれるかもしれないが、表立って確認してくることはないだろうし、俺から真実を告げない限りは確証などない。
なので問題はないだろう。
――んで、現在。
ガッゾ・ファミリー事務所を襲撃した日から二週間あまりが過ぎている。
俺は思いがけず散財してしまった金を取り戻すべく、またしてもゴルディアス鉱山へゴールドゴーレム討伐の依頼へ向かった。
前回、結構な数を討伐してしまったためか、今回は湧いている数も少なく、倒せたのは10体ほどだ。
それでもしばらくは生活に困らないくらいの金額になった――のだが、できればもっと纏まった金が欲しい理由ができてしまった。
その理由は王都の武器屋にある。
ソルオバにおいて、武器を手に入れる手段は幾つかあるのだが、その最たるものは当然ガチャだ。
Cランクの武器ならば魔物がドロップしたりもするし、レア度の高い武器もイベント報酬や特定の魔物からドロップしたりする。だが、真に性能が高い武器は武器ガチャを引いて手に入れるしかない。
当然、現実となった世界では武器ガチャなどという意味不明なシステムは存在していなかった。
一回150枚もの神貨を払って、どんな武器ができるかも分からないとか、流石に意味が分からなすぎるからな。その上武器ガチャには天井が設定されていなかったから、10回連続でRランク武器が出るとか普通にあった。現実でそんなんされたら、武器屋の親父に殺意が芽生えることは間違いない。
しかし、この世界では武器は普通に武器屋で買える。しかも、その中にはゲームでSSRだった超大当たり武器の存在も確認できたのだ。
そのお値段、何と神貨150枚ポッキリ。
――安いッ! 安すぎるッ!
それを見た瞬間、俺は思わず興奮してしまった。何しろガチャ一回分で確実にSSRの武器が手に入るのだ。これを安いと言わずに何と言おうか!
当然買いだ。買うしかない! 買うんだヴァン!
その行動には一欠片の疑問を差し挟む余地すらない。あまりにも破格な値段設定に、ソルオバプレイヤーならば誰もがそうなるのは当然だった。
だが、俺の足は途中で止まってしまった。
ゲームでならば神貨150枚などすぐに貯まる。何なら課金すれば一瞬だ。しかし、現実となったこの世界において、神貨150枚の価値は尋常ではない。白金貨にして1500枚。金貨にして15000枚が必要なのだ。
前回、ゴールドゴーレムを50体討伐して稼いだ金も、金貨200枚に届かないくらいでしかない。神貨150枚分の金を手に入れるには、ゴルディアス鉱山の上級――つまり深い場所に何度も潜らなければならないが、流石にゴルディアス鉱山の上級ともなればFランク冒険者が立ち入れる場所ではなかった。
つまり、金を稼ぐためにもまずは冒険者ランクを上げなければならない。
「ゴルディアス鉱山・上級」のダンジョンに入るために、ゲームで必要とされていた冒険者ランクはB。それは現実でも同様だった。
俺は武器屋にて展示されていたSSR武器が売れてしまうのではないかと後ろ髪を引かれながら、その場を後にするしかなかった。
残念ながら、逆立ちしても借金しても、今の俺に神貨150枚を集めることはできないのだから。
なので、一刻も早くBランクになるため、この二週間あまり、俺は積極的にギルドで依頼をこなしていた――というわけだった。
●◯●
王都近郊に広がるウッソー森林を越えた先には、遺跡が広がっている。
『魂の修練場』と似た雰囲気を持つ石造りの建物が並ぶ遺跡であるが、その広さは『魂の修練場』地上部分とは比較にならないほど広大だ。
山の裾野に広がる形で築かれた古代都市の遺跡――といった風情である。
この遺跡の名前はコフウ遺跡。
遺跡の各所に残る何とも古風なレリーフが特徴的な遺跡である。
そしてここには『魂の修練場』とは異なり地下遺跡は存在しないのだが、地上部分は修練場と同じように「ダンジョン化」していることで有名だ。
「ダンジョン化」した場所では決まった魔物が「発生」するようになる他、鉱物資源や貴重な薬草なども「発生」しやすくなる。例を挙げるとゴルディアス鉱山もダンジョン化しており、金鉱石が発生しやすくなっている、というわけだ。
なのでこの世界では、未熟な採掘技術の割に鉱物資源が豊富にある。金貨がやたら多く流通しているのも、プラチナが貨幣に利用されているのも、そのためだろう。
で、遺跡型ダンジョンの場合、発生するのは鉱石や薬草などの自然物だけとは限らない。
アーティファクト、と呼ばれる古代文明の遺物が「発生」することがあるのだ。
俺が今回、ここにやって来たのもその遺物が理由だ。コフウ遺跡で多く発見される照明型アーティファクトである「照明石」十個の納品――という依頼を受けたのだ。
しかし、ついでに別の用事もあった。
コフウ遺跡の最奥――コロシアムのような円形闘技場の跡地に発生するボスからは、かなり有用な「アクセサリー」が手に入るからである。
そして、そのボスというのがこちらの方だ。
「――グルルルルル……!」
コフウ遺跡コロシアム跡地。
その円形闘技場の中心にて、場内に侵入してきた俺に対して、低い唸り声を発して威嚇する存在がいる。
だが、そいつは知性のない獣の類いではなかった。
二足歩行で筋骨隆々とした体躯、身長はざっと2メートルくらいはあるだろうか。全身が鱗で覆われ、瞳は縦に割れた虹彩を持っており、前へ突き出た口からはぞろりと鋭い牙が覗き、腰の後ろからは太くて長い尻尾が生えている。
リザードマン。
そんな名前の魔物の中でも、一際大きな体格をした個体だ。
金の装飾品で身を飾り立てており、手には幅広で分厚い刀身の曲刀をそれぞれ両手に握っている。
ダンジョン「コフウ遺跡」のボスであり、曲刀二刀流のリザードマンの剣士――「古代闘技場の主」だ。
「良し。やるか……!」
それと相対する俺は無手。
と言っても、舐めプしているわけではない。
「超レアのスティール成功率は30%。下振れしても10回くらいで確実にゲットできるな」
目の前のリザードマンから得られるアクセサリーは、確定ドロップではない。ドロップ率5%の超レアドロップであり、現実となったこの世界ではダンジョンに入り直してすぐにリポップさせる――というわけにはいかない。つまり、立て続けに何度も周回することなどできないのだから、今すぐ確実に手に入れる方法は、【スティール】で盗み出すしかないのである。
ちなみに、ソルオバでのドロップ率は基本的に高く設定されている。他のゲームならレアドロップ率が1%を下回ることなどざらにあるだろうが、ソルオバで得られるドロップアイテムは、どれも基本的にガチャ産やアイテムストア産の物より性能が遥かに低いからだ。真に重要で貴重で強力なアイテムはドロップしないとも言う。
なので、運営としてもそこまで周回を目的としたドロップ率にはしなかったのであろう。
まあ、それはともかく。
「グルァアアアッ!!」
闘技場の主が威嚇するように叫び、動き出した。
戦闘開始だ。
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