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【2】俺のためにできること


 ソーシャルゲーム『ソウル・オーバーライト』はアクションRPGだ。


 主人公は故郷の村から出て来たばかりの冒険者で、プレイヤーはそんな主人公を操って戦う。


 しかし、プレイヤーが操れるのは主人公ばかりではない。


 ソルオバでは三人のキャラクターでパーティーを組み、画面右上に表示されるアイコンをタップすることで操作キャラを瞬時に入れ替えることができる。


 ちなみに、操作していない他のキャラクターはAIが自動で動かしてくれる。


 これらパーティーを組むキャラクターは物語を進めていくことで仲間になっていくが、ソーシャルゲームである以上、大抵はガチャというものが存在する。それはソルオバも例外ではなく、課金要素としてキャラガチャ、武器ガチャ、アイテムストアが存在した。


 これらの内、キャラガチャは冒険者ギルドで仲間を募集するという設定で、一回のガチャにつき、なぜか課金通貨である「神貨」を300枚必要とする。もちろん、どんな仲間がやって来るかは、ガチャ神のみが知ることだ。つまりは運である。


 ソルオバにおいて、キャラガチャで排出されるユニットのレア度は、三つしかない。


 一番低いレア度Rから、順にSR、そしてSSRだ。


 言うまでもないことだが、SSRのユニットが最も強い。というか、ほとんどのプレイヤーはSSRのユニットしか使わない。


 それは課金しなくても貯められる程度の「神貨」でガチャを回しても、SSRのユニットが十分に引けるからだし、そもそもSSRとそれ以下のユニットでは、その性能に巨大過ぎる壁があるからだ。


 つまり何を言いたいかというと、レア度Rのユニットは総じて弱い。


 物凄く弱い。


 あまりにもクソザコ過ぎて、縛りプレイや配信目的のネタプレイ以外では、ほとんど使われることのないユニット。それがレア度Rなのである。


 俺が『義賊ヴァン・ストレンジ』のことを覚えているのは、廃プレイヤーとしてコイツのストーリークエスト(各キャラクターごとに設定されている特別なイベント)もこなしたことがあるからだ。


 加えて僭越ながら、「Rキャラで超高難易度ダンジョンをクリアしてみた」というネタ動画も上げたことがあり、その時に使っていたのがRキャラの中でも特に「紙」性能と言われていたヴァン・ストレンジだったから、不幸中の幸いというべきか、コイツの性能も詳細に把握していた。


 で、何が「不幸中の幸い」なのかと言えば。


「ステータス、ステータス・オープン、ステータス出ろ、お願いステータス出て! 鑑定! ……やっぱりダメか」


 ねぐらであるスラム街のあばら屋にて、俺は先程から何度も繰り返し似たようなセリフを呟いていた。


 ゲームならば当然に見れるはずのユニットの能力値やスキル――すなわちステータスが表示されないのだ。


 どうやらこの世界には、ユーザー・インターフェースが実装されていないらしい。


 まあ、ここがゲームではなく現実であるならば、それも当然のことだと思うが、もしも俺がヴァン・ストレンジの性能を把握していなかった場合、自分では倒せない敵に挑んであっさり死んでいたかもしれない。


 そういう意味で、俺がコイツの性能を把握していたのは「不幸中の幸い」というわけだ。


 もちろん、不幸なのはクソザコRキャラに転生してしまったことである。


 期間限定ガチャで排出される最強ユニットなんて贅沢は言わないが、どうせ転生するなら、せめてSSRのキャラクターであって欲しかった――というのが、偽らざる本心だ。


「しかも盗賊って……いくら義賊とはいえ、やばいよなぁ」


 おまけにヴァン・ストレンジは盗賊。紛れもなく犯罪者だ。いくら悪い噂の絶えない豪商や貴族からしか盗まないとはいえ、それをスラムの住人や孤児院に悪態を吐きながら配り歩いているツンデレキャラとはいえ、体制に反逆する犯罪者であることには変わりない。


 今はまだ捕まるようなヘマはしていないが、それも何時までも続くとは思えない。なので、


「……盗賊稼業は今日限りで廃業だな」


 俺はあっさりと盗賊から足を洗うことを決意した。


 いや、反社で輩とか、陰キャだった前世的にキツいからね。


 せっかくソルオバの世界に転生したというのに、盗賊なんてリスキーなことを続ける必要もあるまい。悪人相手からしか盗みはしない主義とはいえ、犯罪など続けても良いことはないはずだ。


 とはいえ、霞を食って生きているわけではない以上、俺にも飯の種は必要だ。


 ならば何をするか?


 実は選択肢はそう多くない。


 ソルオバは中世西洋風の世界であり、人々が職を得るにあたっては、まだまだコネや血縁が重要視されている。天涯孤独のスラム街の住人が働ける場所など、日雇いの人足か建設現場の資材運びくらいなものである。


 そしてこれらの賃金は泣けるほど安いために、将来を考えると不安しかない。


 なぜファンタジー世界に来てまでブラックな環境で働かないといけないのか。


 同じブラックならば、夢のあるブラックを選ぶべきだろう。というわけで、


「冒険者一択だな」


 俺はコネがなくとも一攫千金を目指せる冒険者として働くことを決意した。


 いや、というか、実はすでに冒険者なのだ。


 これはたぶんソルオバとしての設定的なことも反映されているのかもしれない。考えてみればヴァン・ストレンジはキャラガチャで排出されるキャラクターであり、キャラガチャとはつまり、先にも説明したように「冒険者ギルドでの仲間の募集」に他ならない。


 ギルドで募集して出会うという設定なのだから、ヴァン・ストレンジは冒険者であるはずなのだ。


 そして今の俺にも、冒険者ギルドに登録した時の記憶がしっかりとあった。なぜかろくに依頼も請けておらず、最低ランクのFランクのままだが。


 ともかくも、俺は今日にでも冒険者として働ける状態にあるのだ。


 それは実に都合が良かった――が、気をつけなければならないこともある。


「主人公には、関わらない方が良いだろうな」


 この世界に主人公が存在するのか、ゲームのソルオバの設定とどこまで一致しているのかは分からない。だが、ここが現実である以上、あまりゲーム知識を過信するのは危険だろう。


 ゆえに、もしも主人公が存在した場合には、俺は絶対に関り合いにならない事を決意した。


 ソルオバのメインストーリーは、序盤は難易度が低いが、先へ進むに従って難易度が高くなっていく。最後のグランドクエストなど、SSRキャラでもクリアするのは難しい難易度だ。


 はっきり言ってRキャラなど、有象無象の雑魚敵相手でもあっさりと死ぬだろう。


 ここが現実ならば、死んでもコンティニューで復活できるとは思えないし、教会で生き返るという奇跡もありはしない。


 死なないように安全マージンをしっかり取って活動するのは当然で、将来、超高難易度のクエストに挑むことになる主人公とは関り合いにならない方が良い。絶対に。


「だがまあ、それはそれとして」


 俺のゲーム知識がどこまで通用するかの検証も必要だ。


 Rキャラだからこそ、有事に備えて自分自身を強化したい。


 かつて動画にも上げたように、Rキャラであっても強化と装備、それからプレイヤーの腕次第では、何とか超高難易度クエストをクリアできるくらいまでは強くなれるはずなのだ。


 というわけで、


「冒険者として活動しつつ、ゲーム知識の検証と俺自身の強化をしていくか」


 当面の活動方針は定まった。


 異世界に転生するという信じられない体験をした者として、本来ならばもう少し困惑や混乱があって然るべきかもしれないが、前世の記憶と同様に、俺にはこれまでヴァン・ストレンジとして生きてきた記憶もはっきりとある。


 それゆえに混乱することもなく、前向きにこれからの決断をできたのは良かったのだろう。


 いや、そもそも混乱以前に、俺は今の状態にワクワクしていることも否定できない。


 廃ゲーマーがハマっていたゲームの世界に転生して、ワクワクしないわけがないだろう?



お読みいただきありがとうございます。

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