【16】キャラクタークエスト
「「「ヴァン兄ちゃん、また来てねー!!」」」
俺とルシアたちは孤児院を後にした。
見送りに出たガキどもに手を振り返して、しばらく黙々と歩く。そうしてガキどもが見えなくなったところで、ルシアが深刻そうに口を開いた。
「何とか、ならないんでしょうか……?」
「……俺らが何とかする義理じゃねぇよ」
対して俺はそれに拒絶するように答える。
噛みついてきたのはベルだ。
「何よアンタ! ラック神父の話を聞いて何も思わなかったわけ!? 子供たちともあんなに仲良さそうだったじゃない!」
「勝手に懐いてきてるだけだ。俺には関係ないね」
「ヴァンさん……」
ルシアがなぜか傷ついたように俺を見上げ、ベルが激昂する。
「アンタ……サイテーね! 見損なったわ! ちょっとは良い奴だと思ったアタシがバカだったわよ! もう良い! ルシア、アタシたちだけで何とかするわよ!」
「勝手にしろ。じゃあな」
俺とベルとの間で視線を右往左往していたルシアに背を向けて、俺は歩き出した。
ルシアたちは、追っては来なかった。
●◯●
さて。
現状を説明すると、これは「キャラクタークエスト」だ。
ソルオバのキャラガチャで排出されるキャラクターたちには、それぞれ「キャラクタークエスト」というものが設定されている。
キャラクターの人となりだったり、今に至る背景なんかを説明するために設けられたストーリークエストで、一応は全てのキャラクターに存在するものだ。
当然というべきか、RランクとSSRでは用意されたテキスト量にも雲泥の差があるのだが。
「現実となると、そこそこ時間を食うな」
ゲームでのヴァンのキャラクエなど、ほんの数分で終わるくらいのものだったが、やはり現実となるとそれなりに時間が掛かるようだ。だが、大筋ではここまでゲームと全く同じストーリー進行だったため、俺は安堵してもいた。
「やっぱり、ルシアが鍵だったのか?」
現実となったこの世界でキャラクタークエストがどのように発生するのか分からなかった。だが、ゲームと同じなら少なくともヴァン本人と主人公の二人がいなければ始まらないはず。そんな予想のもとにルシアの同行を許可したわけだが、まさか一回目で当たりを引くとは思わなかった。
孤児院で事情を聞く時も、主人公がいなければ話が進まないのではないかと思い、ルシアを同席させたわけだ。
本当にルシアの存在が必要だったのかは分からないが、それでも、ここまではゲームのキャラクエをなぞっているのも確かだ。
そして、孤児院を出た後に主人公たちと分かれるのも、ストーリー通り。
キャラクエのストーリーでは、主人公たちはガッゾ・ファミリーについて聞き込みなどをしながら、何とかできないかと数日間頭を捻るも妙案は浮かばず、最終手段として奴らの根城がある場所を聞き出すと、馬鹿正直に直談判するために奴らのアジトへ殴り込みをかける。そこで同じく殴り込みに来ていたヴァンと再会し、共闘してガッゾ・ファミリーの構成員たちを倒し、借用書を取り返してめでたしとなるわけだが――、
「それでめでたしになるわけねぇんだよなぁ……」
ここはゲームではなく、現実だ。
力づくで借用書を奪われたガッゾ・ファミリーは必ず報復に乗り出すだろう。メンツを潰された暴力団なら必ずそうするはずだ。そうなれば孤児院のガキどももラック神父も無事では済むまい。
ゆえに、暴力で脅しながらも彼らのメンツを立ててやる必要がある。借金の総額が幾らかはラック神父から聞き出しているし、その二、三倍くらいの金はアイテム袋に入っている。
「ルシアたちが馬鹿なことする前に、終わらせねぇとな」
ヴァン・ストレンジのキャラクタークエスト、その推奨攻略レベルは10。
敵は雑魚ばかりのはずだが、今のルシアが10レベルに達しているかは、かなり微妙だろう。だとすると危険かもしれない。
ラック神父たちの問題を解決するためにも、俺自身のためにも、キャラクエの攻略は必須だったからルシアたちを連れて来てしまったが、これ以上巻き込むのは避けたいところだ。ならば、すぐに動けばルシアたちが何かする暇もないはず。
そんなわけで、俺はその日の夜、さっそくガッゾ・ファミリーのアジトへ向かった。
スラムの住人である俺は、聞き込みする必要もなく、当然奴らのアジト――というか、事務所の場所は知っている。
歓楽街の一角に、奴らの事務所はある。
夜に向かったのは、白昼堂々衆人環視の下で襲撃されたら、奴らも引っ込みがつかなくなるからだ。
で、そんな気遣いの人である俺は、三階建てのガッゾ・ファミリー事務所の玄関を蹴り一発でぶち破り、中にいる下っ端構成員君に丁寧に挨拶した。
「こんばんわーカチコミに来ましたー!」
事務所内はすぐに慌ただしくなった。
お読みくださりありがとうございます!




