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【14】神貨300枚の力を舐めるな


 怒りのままに叫び、男たちに向かって突っ込んでいく。


「へっ、素人が!」

「軽く揉んでやるよ!」


 対する男たちは武器を構えて嘲るような笑みを浮かべた。


 真正面から突っ込んでくる俺に対して、微塵の躊躇も見せずに刃の付いた武器を振るう。暴力を振るうことに慣れたその姿に――、


(ッ!? こいつは、まずいッ!!)


 瞬間、俺の頭の中に警報が鳴り響いた。


 俺は突き出された短剣の刃を上半身を逸らして躱し、そのまま流れるように繰り出した拳を止めようとしたが、わずかに遅かった。


「おごッ――ぶべえッ!!?」


 拳は腹部にめり込み、薄笑いを浮かべていた男が食堂の端まで吹っ飛んだ。


 ドスンッ! と盛大に壁に衝突し、ずり落ちた男が激痛にのたうち回っている姿を見て、俺は思わず安堵する。ギリギリ、紙一重くらいで間に合ったようだと。


 何が間に合ったのか?


「危ねぇ危ねぇ……殺しちまうとこだったぜ」


 手加減が、間に合ったのだ。


 男が繰り出した攻撃があまりにも緩慢に見えたために、俺は男どもと自分とのレベル差を瞬時に悟って、慌てて手加減した――というわけだ。


 目の前のチンピラどもは間違いなくクソ野郎どもだが、殺してしまったら後が余計に面倒なことになる。特にここでは殺したくない。チンピラどもの――正確にはこいつらの仲間たちの報復で、孤児院がさらに危険な目にあうかもしれないからだ。


「てッ、てめぇッ!! 何モンだ!?」


 残るチンピラ二人が、今更警戒したように武器を構え直す。


 だがまあ、それも無理はないだろう。目の前で、パンチ一発で人間が数メートルも吹き飛ばされたら、な。


 おそらくチンピラどもは、少し前までの俺のようにレベルがほとんど上がっていないに違いない。それに比べて今の俺は、一応のカンストである60までレベルが上がっている。


 そのレベル差が生み出す身体能力の差は、大人と子供……いや、超人と子供くらいの差があるだろう。


 少なくとも、全力でぶん殴ってしまったら、それだけで殺してしまうくらいの威力は十分にあるはずだ。


 SSRのような特別な存在でもない一般モブが相手であれば、手加減しながらでも余裕で勝てる程度には、今の俺は強かった。


 まあ、同じレベルだったとしても、たぶん負けはなかったが。


 なぜなら、RランクのRはレアのR。対してこいつらは、Rランクですらない一般モブ(コモンランク)だ。一回神貨300枚のガチャで排出されるヴァン・ストレンジの実力は、伊達ではない。


「そいつを連れてさっさと失せろ。今なら殺さないでおいてやる……」


 壁際でぐったりとしている男を指差し、そう告げる。


 あれ? ぐったり? ……死んでないよね?


 などと戦慄しつつも、おくびにも出さない。冷然と男どもを睥睨するように見つめるが――、


「てめぇ……俺らに手を出してタダで済むと思ってんのか!?」

「もう死んだぞ、てめぇ!」


 男どもはどうやら、いまいち彼我の戦力差を理解し切れていないらしい。


 はあ、とため息を吐きつつ、腰の後ろから二本のククリ刀を抜き放つ。


「や、やんのかッ!?」


 それに男どもが警戒した瞬間、俺はスキルを発動した。


 アクションスキル――【シャドウエッジ】


 ソウルによって強化された身体能力で一瞬にして男どもの背後を取り、自らの意思で刃を振り抜くことなく、そっと男どもの首筋に押し当てる。


 そして最後通牒のように、声を低めて告げた。


「俺は失せろ、って言ったんだが?」


「ヒッ――!? わ、分かった……! 分かったから、殺さないでくれ……!!」


 それでようやく、実力差を理解した男どもは武器を納め、慌てて倒れている男を背負って出ていった。


 その様子を外に出て確認した後、再び食堂に戻ると、


「「「ヴァン兄ちゃん! ありがとーっ!!」」」


「うおっ!」


 ガキどもが一斉に飛びかかってきた。それを受け止め、安心したのか泣いている奴らの頭を何も言わずにガシガシと撫でた。


 不思議だが、ヴァンとしてどのように接するべきか、「俺」には自然と分かっている。


「あー、もう大丈夫だ。泣くんじゃねぇ。……こら、俺の服で鼻水を拭くなよ」


 しばらくそうしてガキどもが落ち着くまで待っていると、ルシアがクスクスと笑っているのが見えた。


「好かれてるんですね、ヴァンさん」


「……こいつらは、俺が持ってくる土産が嬉しいだけだろ」


 ここまで来たらもう、俺としてもツンデレヴァンとしてのセリフを返す以外の選択肢がない。


「「「え!? 兄ちゃん、お土産あるの!!」」」


 途端にガキどもが、土産の言葉に目を輝かせた。一秒前まで泣いてませんでした?


「おら、ガキども離れろ! 土産は後だ。まずはここを片付けんぞ!」


「「「はーい!」」」


 と言って追い払い、皆で荒れた食堂を片付けた。


 それが一段落してから買って来た食料の数々を、シスターたちに渡す。


 ちなみにシスターは二人いて、どちらも年配のご婦人だ。


「あら、ヴァン君、いつもありがとう」

「助かるわ」

「うわぁ! こんなにいっぱい! すげえ!」

「さすがヴァン兄ちゃん! 稼いでるな!」

「あたち、しょーらいはにいちゃんのおよめさんになってあげても、いいよ?」


 シスターたちが礼を言い、ガキどもが大量の食料を見てはしゃぎ出した。俺はシスターたちに向かって何でもないように肩を竦めて見せる。


「気にすんな。最近、大金が手に入ったからな」


「ヴァン」


 そんな俺のもとへ、善人神父様がやって来た。幸いにも怪我は深刻なものではなかったようで、今は平気そうな顔をしている。まだ頬は少し腫れているが。


「よう、ラック神父。何があったか、聞かせてもらうぜ」


「……そうだな、話そう。……奥の部屋へ行こうか」


「ああ」


 と頷いて、少しの間迷う。チラリと視線を向けたのは、そばにいるルシアたちだ。


 俺はすでにある程度の事情を予想している。それゆえに完全な部外者であるルシアたちに話を聞かせても良いものか、と迷ったのだ。


 しかし、万が一のことを考えてルシアも聞いておいた方が良いかもしれない、と判断した。


「ラック神父、こいつらは俺の連れなんだが、一緒に良いか?」


 ルシアたちを指差して問えば、善人神父様――ラック神父は、わずかに驚いた顔を見せた後、微笑んで頷いた。


「ああ、構わんよ。しかし……珍しいな。ヴァン、お前がそこまで心を開く相手は」


「……」


 心を開くって……まあ、「ヴァン」ならこの件に他人を巻き込むことなど、普通は選択しないだろう。それが一緒に話を聞かせるというのだから、心を開いている相手だ、とラック神父は判断したらしい。むしろ、だからこそ話を聞かせることを受け入れたのかもしれない。一般的に考えれば、自分のところの不祥事をわざわざ吹聴したいはずもないからな。


 そして、なぜかラック神父の言葉にルシアが頬を赤らめてから、頭を下げて自己紹介した。


「あ、あの、ボクはルシアと申します。よろしくお願いします、ラック神父」


「ええ、こちらこそ、よろしくお願いします、ルシアさん。ご存知かもしれませんが、私は隣の教会を管理する神父で、この孤児院の院長をやっているラックです」


「アタシはベルよ! よろしくね!」


「おや? ふふ、これは小さなレディもおりましたか。よろしくお願いします、ベルさん」


 そうしてそれぞれの挨拶が終わると、俺たちは奥の部屋へ向かい、さっそく事情を聞くことになった。


 あのチンピラどもが、孤児院に何をしに来ていたのか、その理由を。



お読みくださりありがとうございます!

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